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魔導パドルシップ、出航!②


 本日二度目の風呂——


 ふぅ……。

 こんどこそ湯船にじっくり浸かれる。


「魔導パドルシップで決まりだし」


 いきなりなんの話だ?

 膝の上で大人しくしてたベリルは、唐突に決定事項を告げてきた。こっちはゆっくり寛いでるっつうのに。


「船の名前っ。正式名称とかいるっしょ」


 そりゃあわからなくもねぇが。


「小悪魔号とか言ってなかったか」

「んーと『小悪魔級魔導パドルシップ一番艦キューティー』みたいな。ちなみに二番艦はプリティーねー」


 するってぇと型式と船の種類つづいて、番号名前っつう並びか。どうでもいいがよ、コイツはいったい何隻作らせるつもりなんだ。


「あーし考えたんだけどー、あの船ならボビーナちゃんとこまで行けそーじゃね?」


 また話が飛んだ。


「河を遡ってリリウム領と行き来するってか。そいつぁどうかな。かなり流れが急だぞ」

「てかさ、下流ってどーなってのー?」

「知らん」

「んじゃ魔導パドルシップできたら探検しなきゃね〜」


 イイ感じに身体があったまって頭がボーッとしてるからか、俺は適当に「そのうちな」と生返事。

 当然、あとで失敗したと後悔することになるんだが。このときはまだ先の話だろうと聞き流した。



 こないだ転覆させちまった船の模型だが、多少の浸水はあったもんの、それ以外に大きな問題はなく直せたそうだ。


 そもそもが全体の作りを確かめる模型で、ベリルみてぇなチビとはいえ誰かが乗っかるのを想定しとらんから、揺らされて転けたのはしかたねぇとのこと。

 言われてみりゃあ確かにそうだと頷ける。

 いちおう浸水具合は工夫の余地ありだとバルコから報告があった。


 で、組み直した船の模型には、


「プチ小悪魔号しゅっこーう!」


 またベリルが跨り、


「「「あいあいさー」」」


 後ろに小舟が繋げられて、そっちにはチビたちが乗ってる。


 この手の遊びはガキどもの興味を引くらしく、トルトゥーガのワンパク坊主やジャジャ馬娘、チビっ子ハウスのチビらが列なして順番待ちだ。


「ちゃーんと掴まっててねー。面舵いっぱーい!」


「「「オモカジいっぱーい」」」


 水場をバッシャバシャ行き来する船からはケラケラと、引っぱられてる小舟からはキャイキャイと。


 ガキどもが楽しそうにしてる姿は、見ていてオッサン心を和ませる。

 だが、これに眉を顰める者もいた。水場で仕事がある女衆だ。


 はじめのうちはベリルたちも邪魔にならんよう気をつけてた。がしかし、乗りたがる者が増えると曖昧になってって……。


「領主様。少々よろしいでしょうか?」


 とうとう苦情がきちまった。


 言いてぇことはわかる。水仕事はもちろん、煮炊きや風呂に飲み水だって汲まなきゃあならねぇ。魔導の道具を作るのにも使う。

 かといって遊んでるチビどもに水差す気分にもなれず、今日んとこは聞き届けたってことで女衆には引いてもらった。



 晩メシどき——

 女房と娘に水場の申立てについて話した。


「なーる。たしかにお仕事の邪魔になっちゃダメかもねー」


 こういうとき、ベリルは物分かりがよくて助かる。


「遊んでいるうちに子供たちも飽きるかと思っていましたけれど、順番待ちの子は増える一方なのよね?」

「そーそー。明るいうちだけにしないと危ないじゃーん。あと、休み時間だけにしてっからそんなにたくさん乗せてあげられねーし」

「まあそうなの。けれど日中に水場を占有されてしまう時間があるのは、お仕事に差し支えがあるようなのよねえ」


 どうやらヒスイの方にも苦情の声はいってたらしい。

 だってのに俺にまで直訴か……。こりゃあ早ぇとこ手ぇ打たんと。

 

「ベリル、知恵を貸せ」

「ん?」

「ガキが遊べる水場ぁ作んぞ」

「おおーう! プールとかいーじゃーん」


 水路沿いを掘って混凝土で固めるだけだ。大した労じゃねぇさ。


「せっかくだしさー、」


 むむ。またややこしいこと言い出す気配。


「飲んだり料理に使ったりするお水と、洗濯とかお風呂のお水の場所分けよーよ。いままでなんとなくだったっしょ」

「そうねえ。ベリルちゃんの言うとおり、流れてきたキレイなお水を汲んで、洗濯やお風呂で汚れたものは水場の下流に捨てていたわ」

「ならさーあ、これからは工場でもお水いるわけだし、生活の水、工場の水、プール、使った水、みたいに分けたらよくね」


 それほどでもねぇな。と、ホッとすんのも束の間。ベリルの要求はまだ終わっとらんらしい。

 

「ついでに河の近くに造船所も建てちゃおーよ。あとあと船が泊められるとこもあれば、ボビーナちゃんとことの行き来も楽になるし」


 つまりは水場の整理の他に、荷受け用の船着場と船を組み立てる場所も用意しろと……。そういや風呂んときそんな話をしてたな。

 

「どんな規模になるか想像つかん。即答はできねぇな」

「ひひっ。ちっと待っててー」


 ぴょんっと椅子から降りると、ベリルはてってく部屋へ向かう。

 それからすぐ、


「あらまあ。とても上手に描けているわね」

「でっしょー」


 ベリルが絵図を持ってきた。

 ビッシリと描きこみされてるところから見ても、事前に考えてあったのは明らか。

 だとしたら遅ぇか早ぇかの違いだ。コイツは必ず思いつきを押し通すからな。ここは立て込んでる時期に言い出さなかっただけでもよしとしておこう。

 そもそも、プールなる水遊びの場所は用意してやるつもりだったんだしよ。


 しっかし船着場と造船所か……。

 どこに建てるかが悩みどころだぜ。なにせ、うちには土地が余ってねぇ。

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