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魔導パドルシップ、出航!①


「すごいすごーい!」


 ベリルはパチパチ手を叩いてはぴょんぴょん跳ねて、感激を示してる。


 目の前の水場ではスイスイ模型の船が進んでいく。さらに右へ左へ旋回。水の流れも風の向きもお構いなしで。

 そいつに帆はなく、代わりにデカい水車みてぇなモンが両脇で回ってた。


 ベリルだったらギリギリ乗れそうな船からは二本の革紐が伸びていて、そいつをバルコが握ってる。

 たぶん魔力が流れるよう亀素材で出来てて、外輪の軸に繋がってるんだろう。


「その紐から魔力を流してんのかい?」


 見たら誰でも想像つきそうなこと聞いちまってる時点で、俺もけっこう興奮してるようだ。


「はい。これで左右の外輪を別々に動かしてるんで、小回りも利きますぜ」

「へーへーへー! ねーねーバルコ、あーしもやってみたーい。つーか乗ってみてもいーい?」

「オメェが乗ったら沈んじまうぞ」

「むっかー! あーしダイエットしてスリムに戻ったからヘーキだもーん」


 スリムって……。

 たしか細っそりって意味だろ。オメェはまだまだムッチムチの三歳児体型じゃねぇかよ。


「バルコそれ貸してー!」


 人が乗るようには作ってねぇんだろう。ベリルのムチャに、バルコも船大工ら三人も揃って困り顔。


「やっぱし壊れちゃう?」

「いえ、そこそこ丈夫に作ってあるんで」

「でも横転したら……」

「なぁ」


 カールとピーノとテーロは顔を見合わせた。

 そういう心配だったら問題ねぇ。


「万一んときは俺が飛びこむ。もともとガキが水遊びできるよう手前は浅く掘ってあるからよ」

「でしたら」


 と、バルコは水車付きの船を操って水場の岸に寄せた。


「父ちゃん。早くはやくー!」

「おう。乗って早々転かすなよ」

「わかってるってー」


 ひょいっとベリルを抱きあげて、船の模型の上に。上手いこと座れたようだ。

 そしてベリルはバルコから操作に使う革紐を受け取ると——


「プチ小悪魔号しゅっこ〜う。面舵いっぱーい。あいあいさー!」


 馬車の手綱を握るみてぇにして、スイスイ水の上を駆けていく。水面(みなも)を掻き分け自由自在だ。

 こっちを向くから無邪気に手でも振るのかと思やぁ、邪気塗れの「いひひっ」てぇ黒い笑み。


「一六時方向(ほーこー)に巨大怪獣はっけーん」


 つってベリルはこっちを指差し、


「小悪魔砲発射よーい。うてーい!」


 などと物騒なセリフほざいた、直後——


「〝パンパンパーン〟」


 コケ脅し魔法ピストルで三発、俺の足元を弾いてきやがったんだ。

 もちろん軽々避けてやる。すると、


「ぎょーかく修正だいたい五度。あいまいまーん! 目標、あーしをおデブイジリしたデリカシーゼロな父ちゃん!」


 まぁた懲りずに撃ってきた。


 ほう……。やろうってんだな。テメェがそのつもりなら受けて立つぞ。

 都合よくそこらに転がってる洗濯桶があったから、そいつを得物に。


「「「いけません、旦那っ」」」


 っつうバルコたちの悲鳴は聞こえんかったことにして、俺は靴をポイポイ放りズボンを裾捲り。

 いざ勝負!


 まずは小手調べだ。桶いっぱいに水を掬って、ブッ掛けてやる。


「うおっ⁉︎ 回避かいひー! 衝撃そな——ぇブへッ!」


 へへっ。命中だぜ。


「損害ほーこくー。顔面ひだーん! 怯むなーっ、うてうてうてーい。あいあいさー!」


 船の向きを直すとベリルも撃ち返してきて、足元に水飛沫が舞う。

 膝まで水に浸かってるから回避が思うようにならん。が、その程度でやられる俺じゃあねぇぞ。


 こっちも反撃の反撃。桶でもって波を起こして水面を揺すってやる。


「——うひゃ! ちょ、それ反則っ」

「おうおうベリル。海戦ごっこはもう終わりか? だったら白旗あげろや」

「そんなのこの船積んでなーい」

「じゃあバンザイでもしてみせろ」


 水面の上下や脚から伝わる流れを読み、いっちゃん波がデカくなるよう頃合いを見計らう。ドンブラドンブラと追撃だ。


「ま、まって待って、めちゃ揺れてっし——うひゃ! ら、らめぇ〜こけちゃ〜う! ここ降参こーさん。バンザイだしぃいいい〜っ」


 と、両手を挙げたベリル。


「よし。こんくれぇで勘弁してやろう」


 しかし揺れが収まると即座に——


「うっそーん。小悪魔連射砲全門はっしゃー! 〝ドドドドド〟」


 例のバルカンって魔法でこっちの不意を突いてきた。さすがはベリル、小キタねぇ。

 だが甘ぇ。俺が何年オメェの親父やってると思ってんだ。テメェの性悪っぷりなんざぁ端っからお見通しなんだよ。


 バシャバシャあがる水柱を避け、桶いっぱいの水をブッ掛けて視界を奪う。つづけざまに水面を揺すってやれば、


「総員たい——ひゃ!」


 船は転覆だ。


 勝負ありってことでザブーンと水場に落ちたベリルを拾いあげ、いっしょに船の模型も岸へ。


「——父ちゃん! 大人げないしっ」


 降り立つなり文句つけてきやがって。

 だけど、そんなベリルのイチャモンよりも気になるのは、


「これ、一回バラすしかないか?」

「浸水具合を確かめられたと思えば、な」

「……だな」


 船大工三人の達観した声だった。

 

「そーだそーだー。父ちゃんが悪いしー。つーかやりすぎー。ちょ〜っとふざけただけなのにさーあ〜」


 えっ、俺が悪いの?

 たしかに少々はしゃぎすぎた感は否めんか。


「すまんかったな。俺に手伝えることがあれば言ってくれ」

「いえ。作りの見直しも兼ねてバラすんで。トルトゥーガの旦那はともかく、小悪魔オーナーが濡れっぱなしはよくありませんぜ」

「おおーう。バルコってば何気にジェントルメー——くちゅ」


 言わんこっちゃねぇ。

 バルコにも気ぃ使わせちまったか。なんぞ埋め合わせを考えとかんと。

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