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長男の帰郷③


 本音はもっとゆっくりしていけと言いてぇところだが、イエーロが王都に戻る日がきちまった。


 予定どおり魔導歯車の納品と合わせて出立。

 国に納めるのははじめてってことで、俺も同行している。ついでにヒスイとベリルの迎えも兼ねてだ。


 俺らは交代で荷車を引き、王都を目指した。

 整えられた道のおかげでスイスイ進むぜ。もう急がなくっても片道五日もかからん。


 並走する長男には、後ろ髪引かれるって様子がねぇ。ずいぶんとアッサリしたもんだ。


 短い滞在のあいだ、イエーロはトルトゥーガの変化を目の当たりにして驚きこそすれど、ありのまんまを受け入れていた。

 こういった適応の早さはやっぱり若さだよな。コイツ自身の成長もあってのことなのは否定せんが。


「親父、どうしたの?」


 いかんいかん。じろじろ見ちまってたか。


「なんでもねぇよ。オメェは可愛げのねぇヤロウだと思ってな」

「いきなりだね。オレもうそんな歳じゃないよ」


 正直、領地の変化を目の当たりにしてびっくらこくと期待してたんだけどな。そうでもなかった。

 不満が顔に出ちまったのか、イエーロの察しがいいのか。どっちにしろこっちの心中は筒抜けのようで、


「あははっ、そういうことか。オレは物心ついてからずっとベリルを見てたからね。だからきっと新しいことが起こっても、そこまでの違和感がないんだよ」


 笑って済ませられちまったぜ。


「そういうもんかい」

「そうだよ。アイツがやらかすことにいちいち驚いてたら、心臓がいくつあっても足りないじゃないか」


 なーんて偉っそうなこと言ってたくせして、王都につくと——


 イエーロはあんぐり大口開けて間抜けヅラを晒すハメに。



「「………………」」

 

 言葉がねぇ。いまがまさにそれ。


 俺の記憶にあったアンテナショップはどこを探しても見当たらん。

 その代わり同じ場所には、


「な、なぁベリル。こりゃあなんだ?」

「ひひっ。小悪魔ヒルズだし」


 隣の空き物件まで敷地にしたドデカい建物が建っていた。

 ……四、いや五階まであるぞ。


「ねーねー兄ちゃん、びっくりしたー?」

「ああ、した。したけどさ……。なんで出発前に教えてくれなかったの?」

「だってサプライズだもーん」


 なんぞ企んでるたぁ思ってたが、これかぁ。

 うちの連中を十も滞在させたり、ヒスイと二人して残ると言ったりと、怪しさ盛りだくさんだったもんな。


「ちゃーんとバンブー筋コンクリートにしてあっから、めちゃ丈夫だし。あとあとー、五階と四階は二世帯住宅みたいに仕切ってあるからんねー。四世帯いけちゃーう。これでブロンセとルリちゃんもいっしょに住めるし、兄ちゃんの奥さん増えても平気だし〜」


 なにからなにまで手回しが早ぇな。ついでに気も早ぇ。


「つうことは下の三階までが店ってことか」


 スッカスカになりそうだ。そこまで品物ねぇだろうに。


「じゃーさっそく、小悪魔ヒルズを案内しちゃいまーす。ついてきてー」


 ベリルに手ぇ引かれて、俺らは新しくなったアンテナショップのなかへ。


 まずは一階

 だだっ広い。当たり前だ、だって以前の倍の広さなんだからな。

 隅には衝立があり、奥には四人掛けのテーブルがいくつかあるようだ。


「あっちは商談スペースだし。基本的に一階は目玉商品とか新製品を並べて、宣伝する場所にすんのっ。前までのアンテナショップの展示するところってのがメインな感じー」

「それはいいがよ、案外地味だな」


 もちろんベリルが考えたにしてはって注釈はつくが。


「あーしもそー思ったんだけどさーあ、ここっていろんなモノ扱うわけじゃーん。信頼感ってゆーのー、そーゆーの大事じゃね。あっ、でもでもフェアとかやるときは飾りつけとかして内装とかめっちゃ変えるし」


 なるほど。自由度が高い作りってことか。飽きっぽいコイツらしい。


 つづいて二階へ。

 ここは四つに区切られていた。つっても壁があるわけじゃあなく、柱がいくつかと壁の色と模様で違いを表してるようだ。


「あっちがアクセの売り場でー、こっちが武器とかねー。そんでここがサンダルとか小物になってて、階段側が革製品だし」


 ほぉう。この階は亀素材のモノでまとめてあるんだな。


「もーちょい細かく分けたりもできるから、後から品物増えたらそーするつもりー」

「ということは、オレは基本的に一階でお客さんと話して、品物を手にとってもらうときにここまで案内するって頭でいいのかな?」

「んんー。そこらへんはクロームァちゃんと相談してほしーんだけどー、たぶんお客さん真っ直ぐここまできちゃうかもしんなーい」

「だったら誰か常駐してもらわないとか……」


 さっそくイエーロは店をどう回すのか考えを巡らせてる。

 いきなり敷地が倍になって階層も増えた。こりゃあ頭が痛いに違ぇねぇ。


 さらに登り三階へ。


「ここがオメェの作りたがってたショップってやつか」

「どーお、マジよくなーい?」


 踏ん反りかえる勢いでベリルは自慢してくる。が、俺にはよさがまるでわからん。


「三階も四つに分けてあってー、メンズ、レディース、子供服のフロアにする予定っ」

「男物と女物って意味か。あとの残りは? 四つなら一つ足らんだろう」

「アウトレット品の売り場にする予定だし」


 アウトレット?


「亀素材の品物も含めて、返品されたやつとか検品で引っかかったやつを割引して売ろーかなって」

「それなら一階の方が便利だろ」

「ちっちっちっ。わかってないなー、父ちゃんは〜。兄ちゃんは理由わかる?」

「掘り出し物を目当てに、ちょくちょく店に来てくれそうだね。しかも毎回三階までよってくれるから売り場ぜんぶを見てもらえる、かな」

「だいせーかーい!」


 合点がいった。

 コイツらしいなんとも狡い考えだ。


「父ちゃん不満そーだけどさーあ、見て触ってしたら欲しくなるのが人情ってもんだし。買うつもりなくってもついつい買っちゃーう、みたいな。ゆーて品物見てるだけでも楽しーじゃーん。ひひっ、したら『アウトレットで安く買えた分で別のモノ買っちゃお』ってなっちゃうし」


 やはり狡猾だ。

 でも文句はねぇよ。それが商売のコツってやつなんだろう。べつにズルしてるわけでもねぇしな。


「でね、ママに相談してダークエルフの販売員さん、たくさん雇っといてあげたし」

「……え、ああうん」


 これ、なにげにイエーロの包囲網が着々と狭められてねぇか?

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