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亀に跨がる幼女③


 本当にいまさらだが、ベリルがスッポンと呼んでいるのは亀の魔物だ。

 もっと正しくいえば亀っぽい魔物で、似てるかもしれねぇが亀じゃない別モン。牙もあれば爪もある。しかもデケェ。危ねぇ存在なのは間違いない。

 いくつも持ってかえってきた卵のなかから孵化した、たった一匹でもある。


「おまえさ、その魔物を連れてったら戦場つく前に討伐されちまうとは思わねぇのか?」

「なんでさっ、スッポンてばこーんなにカワユイのに!」


 カワイかねぇだろ。眠たそうなツラしてて、まあ、多少の愛嬌はあるかもしれねぇがよ。


「てゆーか、騎士って馬とか乗ってんでしょ。ならスッポンに乗ってもいーじゃーん。チンチンはできない子だけど、ちゃーんと躾けられてる子だし」

「それを知ってるのは俺らだけってことがいけねぇっつってんだ。周りがどう思うかをちゃんと考えたのか?」

「は? そんなん羨ましーって思うに決まってるじゃーん」


 思わねぇぞ。

 それにデカい魔物とはいえ亀に乗って戦場に出向くとか……。間抜け晒すにもほどがある。


「せめて陸竜(ランドドラゴン)とか、そういう恐れられる魔物じゃねぇとカッコつかないだろうが」

「うっわ。それってどうせデッカいトカゲみたいなのでしょー。爬虫類キモっ、ありえねーし」

「たしかにトカゲっぽいが、オメェの提案にしたって亀もトカゲの親戚みてぇなもんじゃねぇか」

「ぜんっぜん違うし! スッポンはあんなキモい動きしたり舌ベロベロ出さないし。目ぇとかめっちゃ優しそうだし。だいたい亀のなにが悪いのさっ」


 だから、スッポンは亀じゃなくて亀っぽい魔物だとなんべんも言ってるんだが……。


 俺が呆れちまってると、ベリルのやつはスッポンの頭をペシペシ叩いてムチャクチャを言い出す。


「ちょっとスッポン、あんたも黙ってないで父ちゃんにガツーンって言ってやんなよー。めちゃバカにされてるしっ」

「kyuuu」

 

 って具合に、こっちへ助けを求めるツラを向けられた。ついでに生臭い息を吹きかけてきた。


「ほら、スッポンも失礼しちゃうって怒ってるし」

「……そうかい」


 カッコいい悪いについては、とりあえず棚上げでいいや。美的感覚なんて人それぞれだ。だが一つ言っとかなきゃならねぇ。


「悪いが今回は却下だ。そいつを連れてって装備の素材がバレるのも、アホらしいだろ」

「スッポンに乗ってんのに、亀を道具の材料にしてるなんて誰も思わなくなーい。そんなんめっちゃ人でなしじゃーん」


 いまのは自己紹介か?


「てゆーかー、そんなん言うならもーいーっ。スッポン、今日からスッポンはドラゴンだからっ」


 なに言ってんだ、こいつ。

 ほれみろ、ご主人様のムチャぶりにスッポンも困り果ててんだろうが。



 俺は、またしてもベリルを嘗めてたようだ。


 本当に亀をドラゴンにしてきやがった。いや、紛れもない亀なんだけど。正確には亀っぽい魔物で、ええい、ややこしい! スッポンでいいや。

 そのスッポンが……。


「へへーん。どーよ、父ちゃん」

「たしかにドラゴンだな。頭だけ」


 黒光りする鱗と厳しい面構え、ギッシリ生えた鋭い牙が迫力満点なドラゴンを模ってる。見栄えも豪華で堅固なのは間違いねぇが……。


「オ、オメェ、どんだけ爪と牙の素材を無駄遣いしてんだよっ。内側は甲羅の素材だよなっ、なっ、なっ」

「なーなー、うっさいし。でもどーお? めちゃイカチくなーい」

「……顔だけな」


 とはいえ出来栄えはスゲェ逸品ではある。


 しかしスッポンは不慣れな兜擬きがうざったいのか、頭を引っ込めた。すると当然——ゴトン、コテッ。


「「…………」」


「ku.kyuuuu……」

「おい、ハリボテの頭が落っこちたぞ」

「こらーっスッポン! ドラゴンになってるときは頭引っ込めちゃダメって教えたでしょーがっ」


 あんまりムチャばっか言ってやんなよ。スンゲェ憐みを呼ぶ目ぇしてんじねぇか。まさか亀に同情する日がくるとは思わなかったぞ。


「しゃーない、改造するしかないかー」

「おいおい、あんまり無体なことしてやんなよ」

「しないってば。頭引っ込めても落ちないよーにするだけっ。あと脚と尻尾にも、めちゃカッコいーの作ってあげるつもりだしっ。やったね、スッポン」

「kyuuu……」

「ひひっ。お礼なんていいってばー。あーしとスッポンの仲じゃーん」


 そいつ、絶対礼なんか言ってないと思うぞ。

 


 んで翌日——

 スッポンは、もっとゴテゴテにされてた。


「頭と脚と尻尾のパーツを一個の輪っかに繋げてあんのー。それをスッポンの甲羅に被せてー、引っ掛けるよーに固定してあるから。にひっ! ちゃーんと着脱可能だし」


 などと言ってるが、動けるのか?

 ちゃんと動けるんなら乗れないこともねぇか。全身が装甲になってて強そうではあるし、ありっちゃあり……か。


「んしょんしょ、よっこいしょっと。よーし、フルアーマーパーフェクトスッポン、はっしーん!」


 よじよじ首裏によじ登ったベリルの号令で、スッポンは広場を駆ける。

 あんなにガチガチに装備を固めてるのに、めちゃくちゃ速ぇ。もちろん馬の全力疾走には劣るが、ちっとも疲れる気配がない。これなら戦場での使い勝手は馬より優れてるかもしれねぇ。


「スッポン! さんはい、飛んでっ!」


 デッカい図体がピョコーンと跳ねて——ドスン!


「スッポーン、あんたドラゴンなんだから空くらい飛ばなきゃー。あっ、もしかして羽とか必要だった? ほしーならつけてあげるけど」


 もうこれ以上はやめてやれって。


「おいベリル。こっちこい!」

「ほーい」


 ——ぬお! 

 お、おおう……。正面から寄ってこられるとなかなかのド迫力だな。こりゃあ普通に怖ぇしイケるかもしれねぇ。


「採用だ」

「ええ〜? なになに聞こえなーい。こーゆーときは、ちゃーんと言わなきゃダメじゃね? ほれほれー父ちゃん言ってみー。ガンバったあーしとスッポンになーんか言うことあんでしょー」


 いちいち俺の神経逆撫でしないと気が済まねぇのか、こいつは。まぁでも一理あるか。


「ベリルご苦労だったな。いい出来だ。スッポン、悪ぃが戦場で頼りにさせてくれ」

「ひひっ。スッポーン、父ちゃんに返事は?」

「kyuuu」

「しゃーねーなー、だってー」


 俺には『勘弁してくれ』って嘆きに聞こえたぞ。

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