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面接すっし①


 ベリルは露骨に不満げだ。


「なーんか違うけど、これでいーし」


 地均しした土地に砂利を敷きつめ、覆った混凝土にバンブーでこさえたレールを埋めた。あとは固まるのを待つばかり。

 さっきのは、その出来栄えを検分してのセリフだ。


「どう違う? いまさらだけどよ、もっと早く言えとは言わんぞ」

「それ言ってんとおんなじじゃーん」

「あとから不具合がでるよりマシだ。言ってみろ。直せるところがあるんなら直すからよ」

「んん〜……これもなしじゃないんだけどさー。なんつーかチンチン電車のやつみたーい。あーしが知ってるのは横に木があったり石がゴロゴロ転がってるイメージ。でも、どうなってんのかよくわかんねーし、とりあえずこれでいーや」


 ホントに大丈夫なんか?


「いちおう、その旨も土工長殿には伝えておく」

「うん。そーしといてー」


 これにて魔導列車のレールはひとまず完成。

 どうにもスッキリせんが、まっ、簡単にひっくり返るようなもんでもねぇだろうしな。気ぃつけるようにだけ言含めておけば充分だろう。



 あくる日——

 常宿の一室を追加で借りて、俺とベリルは訪れる者らを待っていた。

 誰が来るのかっつうと、かねてから王妃殿下が募集かけてくだすってたチビっ子ハウスの指導教員の志望者だ。


「ねー、父ちゃーん顔怖いし」

「うっせ。生まれつきだ」

「いやマジで圧迫面接なっちゃうレベルだから」


 ったく、口を開けばしょうもないことばかりほざきやがって。


「そういうオメェこそ無理難題押しつけて、せっかく来てくれた者らを困らせるんだろ。目に浮かぶぜ。今後に響くから滅多なことせんよう気ぃつけろよ」

「はあー? あーしめちゃんこ良識的だし。ふつーのことしか聞かないもーん」


 どこが良識的だ、どこが。一度だってそんな姿みたことねぇわ。


 戯言はさておき。

 面接についてだが、今日と明日を予定していて一回こっきりで決める。

 時間になったら面接を受ける者らはここを訪れることになってるんで、俺らはずいぶん早くから支度して待機。

 これは万が一、気の早ぇヤツがいたとき待ちぼうけさせんよう配慮してのこと。


 ちなみにヒスイは部屋で待ってるんじゃあなく、例の話をするため、イエーロを連れてダークエルフのコミューンへと出向いてった。

 そっちも気になるんだが、ベリルを放っておくのは不安でしかたねぇんで、こうして面接の方に付きそってるわけだ。


 俺らが待ちくたびれたころになって、

 ——コンコン。

 ようやっとドアが軽く鳴らされた。


「どーぞー」


 ベリルが招いたら「失礼します」と生真面目そうな中年の男が入室。


 俺らが並んで座る前には、テーブルを挟んでやや離れたところにイスがある。そこへその男は腰掛けた。

 すると、いきなりベリルは手元の覚え書きにペケをつける。

 いったいなんのマネだ? 相手からは見えてねぇようだが感じ悪ぃぞ、それ。


「お名前からお願いしまーす」


 面接がはじまった。名乗った相手に対して、ベリルはどんどん質問を重ねていく。

 例えば、


「自分の長所はどんなとこですかー?」

「私は平凡な人間なので、これといって……」


「いままでで一番やっちゃったなって経験を教えてくださーい」

「物事は慎重に行うタチですので、大きな失敗は経験ありません」


「志望の動機をどーぞ」

「ミネラリアの明日を担う子供たちに学問を教えられる機会を得たいと思いまして」


 こんな具合に、聞いてどうすんだってことからありきたりな質問まで、いろいろ聞き倒していく。

 当然だが、答えてる方も横で聞いてる方もグッタリだ。


 そして疲れきったところへ問う。


「これ最後の質問でーす。算術のセンセーを希望してるって言ってたけどー、どーゆーところが面白いですかー? どれだけ話してもいーんで興味を持てるよーに魅力を話してみてくださーい」

「…………」


 志望者は黙った。

 それほど難しい問いではねぇと思うんだが。

 いまのは俺が算術の教員を目指してる前提で考えたとしてだ。どっちかといえば苦手な部類なんで、たぶん聞かれても答えられんけど。


「算術は生きていくのに必須であり、豊かに暮らすためにも欠かせられないかと。金銭のやり取りにも役立ちますし、大きさや広さを求めるのにも使えます。ですので……はい。以上です」

「ありがとーございましたー。んじゃ結果は明後日くらいにお手紙送りまーす」

「はい。よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げて、帰っていった。

 するとまたすぐ——コンコン。ドアが鳴る。


「次の方どーぞー」


 以降も似たような場面の繰り返しで、昼が過ぎ、日暮れまでつづいてった。


 そうして本日、最後の面接を終える。


 俺ぁ付きそいだから、ほとんどなにも喋ってねぇけどよ。それでも草臥れたぜ。


「ふぃ〜。けっこーしんどかったし〜」

「だろうな」

「父ちゃーん、肩揉んでー」


 ったく。偉っそうに。


「ほれ。こんなもんでいいか?」

「ちょ——きゃはっ、くすぐったっ」

「ぜんぜん凝っとらんじゃねぇか」

「なんつーの、そーゆーきぶ〜ん」


 どうもベリルは面接の成果が不満らしい。


「そういや毎度最後にしてた質問、ありゃあなんだい? 他のはコロコロ変えてたのによ」

「だってあれが本命の質問だもーん」

「他のは意味ねぇってことか?」

「それはさすがにないけどー、でも最後のが一番大事だし」

「ほぉう。聞かせろよ」


 ベリルはバンザイするみてぇに伸びをして、返事を保留。チビ用の高いイスから俺の膝へ飛び移ると、座り直して、


「聞きた〜い?」


 さんざん勿体つけてから口を開く。

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