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親方すっし⑧


 王都・トルトゥーガ間の道が完成した宴から一日休みを挟んだ、本日——


 俺らはスモウ大会の会場作りに、王国軍の練兵場までやってきている。正しくはその隣に拓かれたまんまの用地だが。


「この辺りを使っちまっていいんだな?」

「はっ! 将軍閣下からはそのように仰せつかっております」

「存分にお使いいただきたいとのことでした」


 キビキビ答えたのは、アルコ・デ・アルマースとランシオ・デ・アルマース。二人はポルタシオ閣下のお孫さんで、以前ここでスモウをとった仲だ。


 一年前より成長が窺える。見違えたぜ。


「ずいぶん鍛えたみてぇだな」


「「恐縮です」」


「オメェらもスモウ大会に出るんか?」

「はい」

「また胸をお借りできたらと」


 次こそはブッ倒すってぇツラで言われちまったぜ。いいねぇ、若ぇ者はこうでなきゃあな。

 俺は二人の胸板をコン、コンと叩き、


「楽しみにしてんぞ」


 作業の指揮へ戻った。



 うちの連中はすでに道具を運び込んでいて、例の黄色い兜と真っ赤な半被っつう土工のお約束になった装い。

 この場合はベリルから押しつけられたんだから、お仕着せと言うべきか。


「集合だ!」


「「「応ッ!」」」


 一昨日の宴の効果か、士気が高ぇたけぇ。

 こりゃあまた会場作りのあとに一席設けなきゃあならんか。早めにリーティオと詩人のおらん店を探しておかねば。


 面々は、ベリルが広げた完成絵図のまわりに集うと車座に。


「工程を確かめんぞ。ベリル」

「はーい」


 俺の確認も兼ねてベリルに説明させた。


 やることはそこまで難しくはねぇ。

 まず、杭打ちと縄張りだ。


 当たりをつけたら、つづいては穴掘り。

 これは土地の強固さなんかも考えてのことらしいが、もっと大きな狙いがある。

 階段状に地面を均して、そこを混凝土で覆うことで丈夫さを得つつ、施工の手間を減らすって算段だ。


 窪地になったところの水捌けが心配だったが、地下に排水用の管を通すって話で、もし雨が降っても水溜りっつう展開にはならんらしい。

 いちおう土工の役人にも確かめてもらったが、問題ねぇとのこと。

 ちなみに、管はバンブーの節を除いて繋げたモンを使う。ほとんど手ぇ入れず使えるから助かる。

 

 で、俺らがやるのはここまで。

 あとの貴賓席なんかの装飾や細かいところは土工庁の者らにお任せしちまう。儀礼も覚束ねぇ俺らに、んなもん頼まれても困っちまうからな。


 おっといかん、一つ忘れてたぜ。

 ここと王都を繋ぐレールを敷くって役目が残ってた。混凝土の道から少しおいた脇に走らせることになってる。

 こいつはただ真っ直ぐなだけで距離も短ぇから、あまり実験やらの意味はねぇらしい。あくまで『こんなスゲェのがありますよ』っつうお披露目のためだそうだ。


 材料はもう用意してある。またもやバンブー素材の出番だ。

 こいつは切って削って整えられて木材なのに水気に強ぇっときたもんだから、もってこい。


 ここまででベリルの説明は終い。


「オメェら工程は掴んだな。日毎に確かめるつもりではいるが、いちおう頭んなか入れとけ。先の作業を見据えるだけでも進捗が変わるだろうからよ。あと、わからんことがあれば逐次声をかけて構わん。適当やってヘマこくようなマネだけは厳に慎め」

「よーし。ケガがないよーに安全第一で、今日もみんなでガンバろーう。おーう!」


「「「応ッ!」」」


 締めのセリフをベリルに掻っ攫われて、スモウ大会の会場作りがはじまった。



 最初に会場の中心を決めた。そこに杭を立てたら長い縄を結んで、グルリと一周。

 すると外側に括られた杭によって、地面に広い円が引かれる。こりゃあ前にベリルがやったキレイに円を描く方法のデカい版だ。

 その線に沿い、これまた幅を揃えた縄を使って目印の杭を打ち込む。


 間隔を狭め、おんなじふうに何周もまわったら縄張りは終了。

 

 つづいて段々の高さがまちまちにならんよう、目安になる長ぇ物差しで逐一確かめながら掘り進めていった。



 真ん中を掘ってる途中、そろそろ日暮れって頃合い。


「よっし。今日はここまで!」


 俺らは練兵場の一角を借りて野営の支度に移る。

 べつに宿代ケチったわけじゃあなく、いちいち往復すんのが面倒だから。

 加えて、丈夫な布が安く大量に買えるようになったんで天幕を新調したばかり。使わんのは勿体ねぇっつう理由もあってだ。


「野営で見張りなしってのは楽でいいな」

「酒飲めるのがありがてぇよ」

「まったくだ」

「物資切れの心配もねぇ」

「ワシぁ酒の補給だったら、なんぼでも走るぞ」

「んなこと言って、持ってくる前に飲んじまうつもりだろ」

「そりゃあ役得ってやつだ」


「「「ガッハッハッハ!」」」


 楽しそうでなによりだ。いい仕事すんには息抜きも大事だからな。


「あーしのキャンプ料理レシピが火を吹くぜーい」

「いよっ。小悪魔殿、どんなん食わせてくれるんですかい」

「やっぱしキャンプっつったらバーベキューでしょ。新鮮なお肉も野菜もいっぱい買ってきたし〜。ソースもいろいろ作っちゃうもーん」


 俺はベリルに指図されるがまんまテキパキと薪を組み、鉄板を熱したら、串に刺したモンを次々ジュウジュウ焼いていく。


「ホフホフッ、串のまんま食うってのが、ホフッ、乙ですな」

「でっしょー。じゃんじゃん焼いて食べちゃってー。あっ、父ちゃんはあーしのお手伝いだし」

「ァア?」


 なんでだよ。俺も早く食いてぇんだが。


「あーし串打つので忙しーのっ。父ちゃんがあーんしてくんなきゃどーやって食べるのさー」


 ったく。甘えやがって。


「ほれ」

「あちちっ、だし。ちっとふーふーすっからそのまんまねー」


 待ってるあいだに反対の手で食っておく。

 が、こりゃあ大問題だ。片手で食える串なのはいいけど酒飲む手が足りねぇぞ。


「旦那、小悪魔殿。ワシもやってみていいですかい?」

「いーけどー。でもお肉ばっかしの作ったらダメだかんねー」

「へへっ。バレちまいやしたか」

「そんなんお見通しだし〜」


 こうして晴れて俺も酒にありつけたわけだ。

 以降は悪ふざけみてぇな串がいくつもこさえられてく。

 辺りはだだっ広くてなんもねぇ場所。殺風景ともいえなくはねぇが、その静けさは程よく、悪ノリした宴の喧しさを和らげてくれるんだ。


 そいつは酒の肴にすんのにちょうどよかった。

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