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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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親方すっし⑤

 ちぃとばかり背伸びした酒場は、場に相応しく賑々しい。それでも落ち着いた客が多かった。

 その一角を俺らが占めたわけだが……。


「なぁあれ」

「ああ間違いない。トルトゥーガ子爵だ」

「おい見ろ。ダークエルフが二人も……」

「子爵様の隣にいるの美人が大魔導ってことだろう」

「それにオークとの戦で大暴れした竜騎士団までいるぞ」


 遠慮がちな視線が向けられる。

 俺らぁ意外と繊細な神経してるから、なるべく他の客の邪魔にならんよう気ぃ使う。ただひとりを除いて。それが誰かは語るまでもねぇ。


「やーやーみなさんどーもどーも。大人気のトルトゥーガ竜騎士団ご一行と大魔導ママでーす。小悪魔ベリルちゃんもいるし〜。いぇいいぇーい! みんな見てる〜?」


 ベリルは俺の膝をお立ち台に、メチャクチャ周りに主張する。


「あ、あの幼女が……」

「国王陛下から『カブキ御免状』を許されたという……」

「魔導リングの天才意匠家……」

「スモウの火付け役とも聞く……」

「大魔導の娘……」


 ゴクリと生唾を呑む音が重なった。


「「「……小悪魔ベリル」」」


 うちの娘、スンゲェ心地良さそうな満面のドヤ顔だ。いったいなにがそう思わせるのやら。


「これヤバァァ……。承認欲求ってやつ〜、あーしそーゆーのぜんぜんな方なんだけど、ヤッバァァ……」


 オメェはその手の欲の塊だと思うがな。


「あーしってば意外と人気者?」

「うふふっ。ベリルちゃんは大人気よ。さあ、アセーロさんの膝の上だけではなく、ママのところへもいらっしゃいな」

「はーい」


 ベリルはひょんとヒスイの膝へ飛び移る。


「あのよぉ。ちったぁ行儀を身につけろや」

「はあー? あーしめちゃ食べ方キレーじゃーん」

「それ以外を言っている」

「まあまあアセーロさん。今日は宴ですので、そのくらいにしてあげてくださいまし」

「へへーん。そーだそーだー。お酒の席は無礼講だもーん」


 ったく。


 俺らが席に落ち着くのを見計らい、店の者が表紙付きのメニューを手渡してきた。

 こういう気配りや注文のしかたなんかも、やはり高ぇだけあって慣れた店とは違う。


「お姉さーん。ここのオススメなーに?」


 ベリルのやつ、生意気な口利きやがってからに。


「当店では麦酒を仕込んでいますので、そちらがオススメです。けれど……」

「ビール? エール? とりあえず生で! 麦のお酒ぜーいんぶんくっださいなっ」

「——おうコラ、そこのちんまいの」

「なにさー。あっ、サユサちゃんにお酒はマズいかー。んじゃ一個だけ赤ちゃんでも飲めそーのお願ーい」

「オメェのもだ」

「はあー? そーゆー法律ねーしー。いーじゃん、はじめの乾杯ぶんくらいさー」


 ダメに決まってんだろ。ヒスイもコロコロ笑ってねぇでなんとか言ってやれや。


「もー、しゃーないなー。ねーねーお姉さん。仕込んだばっかしの麦酒ってある? もしくは仕込む前のやつ」

「ええ。煮立てて搾ったばかりのものなら——」

「それそれ! それ濾したのと果物ちょーだーい。あとお水もー」

「はあ……」


 店員は意味がわからんって様子。

 俺もヒスイもその他の者らも首を傾げちまう。


 おおっと、酒の注文に時間を取りすぎちまったぜ。


「とりあえず料理は、これで足りるだけオススメのモンを頼む。追加はのちほど頼むからよ」


 と、大銀貨三枚を差し出すが、


「お代は締めのときにいただきますので」


 と返された。

 いかんいかん。高級店はこういうところも違うんだった。いや知ってはいたけどよ、いつものくせでついな。


「そうかいそうかい。だったら俺らけっこう食うから、腹が落ち着くまではテーブルいっぱいにしてやってくれ」

「かしこまりました」


 そっから、じゃんじゃん運ばれる酒と料理。

 だが未だ乾杯はできてねぇ。


「おいベリル、まだか?」

「ちょい待ち! いまノンアルカクテル作ってるし」


 なんだいそりゃあ。麦の搾り汁に水と果汁を混ぜてるみてぇだが……。


「まだ仕込んでいないのなら、麦の味しかしないのではなくて?」

「ひひっ。たぶんめちゃ甘々なジュースになるし。あーし動画でみたことあるもーん」


 またネットとやらの知識らしい。


「でっきたー。よーし、みんなお待たせー! では、父ちゃんから乾杯の音頭をどーぞー」


 ひとを待たせといてよくもまぁヌケヌケと。

 つうか音頭だぁあ? んなもん乾杯ってカップぶつけるだけで充分。口上なんざ無粋だぜ。

 しかし……だ。ベリルが振ったせいでそういう雰囲気でもねぇか。


「テメェら聞けや。傭兵仕事たぁ勝手は違ったが、今回もなかなかの大仕事だった。なんてったって王都と俺らの家を太っとい道で繋いだんだからよ。これで運送も楽になる。だろ?」


「「「へい!」」」


「明日は休みだ。一日中、二日酔いで唸ってても構わん。好きなだけ飲め。明後日っからのスモウ会場作りで稼ぐぶんを一足先に飲み尽くす勢いでな。いいか!」


「「「応ッ!」」」


「よっしゃオメェら、いまからこの店の食い物と酒ぜんぶ腹に収めちまうぞ。乾杯‼︎」


「「「乾杯‼︎」」」


 こうして鬼の宴がはじまった。

 ワイワイガヤガヤ食って飲んで騒いで。そんなかでも一際喧しいのが、ベリルだ。


「ヤバヤバ! 思ってたとーり〜。めっちゃ甘くって、微妙にほろ苦ぁな感じ……」


 両手でカップを口もへもっていき、傾け、ゴクゴクと喉を鳴らす。


「——ぷっはぁ〜。イイ! これめっちゃイイ。ゼッタイバズるし!」

「ふふっ。もうベリルちゃんったら。すごくいい飲みっぷりね」

「ひひ〜。ママも飲んでみー」

「せっかくだしいただいてみようかしら」


 と、ヒスイも一口。


「……ほっ。驚いたわ。なんとほどよい甘味なのでしょう」


 甘味と聞いて、クロームァも興味を示す。


「わたしもよろしいですか?」

「もっちろーん。クロームァちゃんも飲んじゃってのんじゃってー」


 遠慮がちにチビリ。が——目を見開くとゴクゴクゴクゴク!


「……わ、わたしったら」


 勢いよくぜんぶ飲んじまった。


「クロームァ。そんなに美味しかったのかい?」

「ええ。頭のなかが蕩けてしまいそうな、ほろ苦さを薄っすらと感じる蜜の味でした」


 この感想にイエーロも興味もったのか、すぐ追加で注文して試した。


「——これは!」

「ひひっ。兄ちゃん、これめっちゃ流行りそーじゃね?」

「間違いなく売れるだろうね。しかも虜になる。酒の付き合いが苦手なご婦人方も、これなら夫婦での晩酌を楽しめるようになるんじゃないかな」

「おおーう。目のつけどころ〜」


 イエーロのやつ、いつの間にやら商売人しての嗅覚まで成長してたのか。

 しかし、まだまだ先読みが足りてねぇ。


「つーわけで兄ちゃん。職人さんの確保とかそこらへん丸っとよろー」

「——え⁉︎」

「イエーロさん。わたしガンバります!」

「……え、あぁ。うん」


 思ったとおりだぜ。ベリルにいいように使われてやがらぁ。

 まっ、いっつも一番いいようにされてんのは俺なんだから息子のことは笑えねぇか……。


 くぅうう、今日の酒はなぜだか胸に沁みるぜい。

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