親方すっし④
視察三日目——
混凝土の板を砕いて砂利に。そいつを地均しで平らにしては、また混凝土を敷き詰めてく。
道作りの一連の工程を見せたあとは各々で好きに見学してもらうことにした。
俺らとしても、ずっとチンタラやってるのはカッ怠ぃ。
王都へ向けてドンドン道を広げ、サクサク整えてかねぇと。あっちについてからも大仕事が待ってるんだからよ。
◇
二ヶ月ほどが経ち……。
「かんせーい!」
俺らも視察団も、敷いてきた道を振り返り——わっと歓声があがる。
「トルトゥーガ様。大変参考になりました」
ホクホク顔の役人や学者たちが、それぞれに礼を告げていく。
そんななか軍の者が、トルトゥーガと王都間の道の完成を告げに走っていた。
「誰か来るのかい?」
「将軍閣下と左大臣殿がお見えになるかと」
直々に? なら待っとくべきか。
そのあいだに、各領地との折衝を任せた役人から細かいところを確かめておく。
例えば、
「切り倒した木は、それぞれの領地で利用ってことでいいんだよな?」
「ええ。道だけでなく木材にも喜んでいる領主様が多かったですよ」
こんな具合に。
そうこうしてると、ポルタシオ殿と左大臣殿がやってきた。
「ほお……。見ると聞くでは大違いだのう」
「まったくですな。まさかこれほどとは……」
ホントに来たのかい。お偉方だってのに腰の軽ぃ爺さんたちだな。
二人はひとっきり道の出来映えを検分したあと、ヒスイに目礼して俺んところへ。
「トルトゥーガ殿。まっことご苦労であった。感謝する」
「いえ、とんでもない。大事なお役目だったんで無事に果たせてホッとしとります」
「ワシも参加したかったんだがのう……」
ベリルと軍関係の者らが施工専門の兵科がどうのと話してたから、これからきっとイヤってほど関わる機会あるんじゃねぇのか。
このままだと延々と礼を告げられそうなんで、聞くべきことを先に聞いちまう。
「左大臣殿、閣下。スモウ大会を開く場所は確保できたんですかい?」
「おお、それのう。前に招いた練兵場は覚えてるおるかの?」
「はい」
「広い用地となるとその辺りしかなくてな。併せて魔導列車も試走させるなら、ちょうどいい距離であろう」
どこだろうが構いやしないさ。
でもそうか。本当に走らすつもりなんだな。
どんくらい王都の方で研究が進んでんのかは知らんが、言い出しっぺのベリルは近ごろ船に夢中で魔導列車のことなんてスッカリ忘れちまってるっぽい。
そういやあの問題幼児はどこだ? いつもならすでに口挟んできててもいいころなのに。
「いっいぇぇーい! 左大臣どの〜う、将軍さま〜あ!」
ベリルはできたての道で魔導トライクを転がしてやがった。黄色い兜を被り、羽織った真っ赤な半被を風にはためかせて。
そして近くなると——これ見よがしに急制動。
「ほう。それが魔導歯車で動く乗り物かの」
「うん!」
「して、四輪にしたモノが魔導列車になると」
「そーそー。いちおーゲンブツ持ってきてるし置いてくねー」
「さようか。それは研究を担っておる学者らが喜ぶであろうて」
「いーっていーってー、お礼とかいらねーしー。あーしも魔導列車できんの楽しみだもーん。あっ、でもでも魔導歯車二つぶんのサブスク料金はもらうかんねっ。道作りのギャラといっしょによろー」
ちゃっかりしてやがる。
ちなみに国との取り引きをした場合、いったん代金はイエーロが受け取る。で、のちに教会でうちの口座に預け入れしてもらうんだ。
かなり手間が減って俺としては助かってんだが、ベリルに言わせると『振り込みできないとかマジメンドーい』だそうだ。
ひととおりの話が済むと、俺らは宿へ。
今日明日は参加したうちの連中全員、常宿の高ぇ部屋をとってある。明後日からはスモウ大会の会場作りがはじまっから、この一泊二日は骨休めさせる予定。
でも自由にさせる前に、
「オメェら、ちゃんと身綺麗にしておけ。おさえた店は酒場だが、そこそこ立派なところだからよ」
宴会だ。
「「「応ッ!」」」
「なになにー、今日って貸し切りってやつー。もしかして父ちゃんの奢りなーん?」
「当然だ。それともベリルが払ってくれんのか」
「はあー? あーしまだ六歳だし」
ったくコイツは。あんだけデケェカネ動かしてるくせに、都合のいいときだけ幼児ぶりやがって。
◇
常宿につくと、
「トルトゥーガ御一行様、お待ちしておりました」
以前、ベリルのムチャを聞いて茶ぁ持ってきてくれた者が出迎えてくれた。
当時は気にしてなかったが、コイツはこの高級宿の主だ。
「宿主、まいど世話になる。コイツら騒がしい連中だからよ、もし迷惑かけたら遠慮せず言ってくれ」
「とんでもありません。王都でも話題となっているトルトゥーガ様のみならず、竜騎士団の皆さま方までお持て成しさせていただけるこのような機会、当宿にとっては名誉でしかありませんので。ぜひ、普段どおりお過ごしくださいませ」
キッチリと各部屋へ茶と軽い菓子が用意されていて、至れり尽くせり。
うちの連中もこういう姿勢からなにか学んでくれっと、なぁんて淡い期待をしていたんだが……。
隣の部屋からはデッケェ声で、
『——ワシのぶんの菓子は!』
『こらテメェぜんぶ食うなや!』
『ァア? こんなちんまいの一口だろ』
頭ぁ抱えたくなる野蛮人っぷりが聞こえてくるだけだった。
「あーしら先にお風呂もらっちゃうねー」
先にヒスイとベリルが入浴して、次に俺か。
親父を差し置いて一番風呂を掻っ攫ってくたぁ太ぇヤツめ、とは言うまい。
ヒスイは別として、ベリルは身支度にやたら時間をかけるからな。
二人のあとに俺も溜まった疲れを洗い流して、いつもより気ぃ使った格好に着替えた。
「あなた。そろそろ参りましょう。イエーロくんたちを待たせてしまいますもの」
今日の宴には、イエーロとその嫁のクロームァも呼んである。孫娘のサユサも連れてくるそうだ。
「ひひっ。やっぱしブロンセはカノジョ連れてくんのかな?」
「俺ぁそう言いつけておいたぞ」
「くひっ。父ちゃんマジ悪だし」
「へへっ。オメェほどじゃあねぇさ」
酒の肴にも抜かりはねぇ。
それじゃあ、たまの贅沢と洒落込むかい。




