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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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親方すっし③


 道作り二日目は、地均しを中心に観てもらう。

 もちろん一方では道幅を広げる作業も進めてもらってる。


「ゆーて、やること単純だし」


 ベリルに説明する気なし。これで充分だと思ってる節もありそうだ。

 だから代わりに俺が細けぇところを話してく。


「いま魔導三輪車(トライク)で引いているのが、地均し。この混凝土の筒を転がして地面のオウトツを平らにするんだ」

「以前、人の手でも引けると伺いましたが……」

「見た目より重くはねぇぞ。やってみるかい?」


 ここで地均しの体験を勧めてみた。


「四人一組で、前の引き手に二人、後ろの押し手に二人だ」


 運動不足ぎみな役人たちでも扱えるよう、少し工夫してある。


「いいか。必ず声をかけ合ってくれ。前の者が転けちまったら轢いちまうからな。掛け声で足並みを揃えるんだ」

「どのような発声をするのでしょう?」


 んなもんテメェらで決めたらいいだろうに。

 とはいえ、こういう細かいところまで見聞きすんのがコイツら視察団の仕事でもある、か。


「とりあえず一と二でやってみてくれ。どこが担うのか知らんが、王国軍でやんなら規定の発声なんかがあんだろ」


 今回はこれで納得してもらい、さっそくゴロ……、ゴロ……、役人たちには順番に地均しを転がしてもらう。

 そして少し進むと、


「止まれ!」


「「「いっち、に!」」」


 丁寧に呼吸を揃えて停止。

 そしたら交代。引いてた者らはすぐに感想をぶつけ合う。


「見た目よりもかなり軽く引けました」

「しかし四人一組でつづけると、保ちませんな」

「たしかに。他にも目付け役の者が必要なのでは?」

「ふむ。いまは掘り返した土を均しましたが、これが砂利の上を転がすとなると、前後の掛け声だけでは事故の不安が残りますか」

「ええ。あと辺りに注意すると同時に、身体を休められるのも利点かと」

「なるほど。稼働時間も伸びますね」


 このあと俺に意見を求めて、また組を作り直して再開。飽きることなく役人たちは地均しを体験してった。



 そして昼をすぎると、こんどは魔導トライクでの地均しに挑戦。

 握り手と座席を、大人の体格でも乗れるように替えたら、さっそく乗車だ。


「ほっ。これが、魔導歯車で動く乗り物ですか……」


 おっかなびっくりって様子だが、一番手に名乗りをあげた宮廷魔導士は見事に進めてみせた。

 要の動力以外はバンブー素材を使ってっから、以前より遥かに楽に動かせるはず。とはいえ、さすがだ。


「おおーう。上手じょーずー。もし使うんなら、大人用にボディから作った方がいーかもしんなーい」


 言われてみりゃあ重心の具合がよくねぇな。ムリに乗ってるって感じがすんぜ。


 つづいて他の連中も乗っていくが、まともに動かせたのは学者と軍人のみだった。

 結果、このあと地均しを繋げて試してみてもらうつもりだったけど、やめになった。

 たとえ魔導四駆で引いてみても、どうせすぐに魔力切れを起こしちまうんで効率が悪すぎるってぇ結論だ。



 ——翌日。

 とうとう宮廷魔導士や学者らのお待ちかね、ヒスイの出番がやってきた。


 実は昨夜、なるべく気持ちよく仕事してもらえるよう、俺は女房の機嫌取りに骨を折ったってぇ裏話がある。がしかし、そいつぁ内々の話。


「ママ、めっちゃイヤがると思ったのにー。なーんかゴキゲンだし〜」

「うふふっ。内緒よ」

「ふーん。むひひっ。父ちゃんがガンバったってことかー」


 ベリル、いいから黙っとけや。


 ヒスイはコロコロと笑みを零していたが、一転。視察団の前に立つと、大魔導と恐れられるに相応しい冷えた眼差しに。


「『石板(ストーンパネル)』は新作の魔法ではありますが、広く知られる『石柱(ストーンピラー)の亜種だと考えてください」


 丁寧な言葉使いで一線を引いているのがありありと伝わってきた。

 どうしてここまで他人に魔法を教えたがらんのかは理解できんが、イヤなもんはイヤなんだろうと納得はしている。


 スッと腕を肩の高さまで。遅れて、開かれた手指がついてくる。

 テメェの女房を褒めんのは自賛してるみてぇで微妙な気分にもなるが、それでも手放しに褒めたい洗練された所作で、ピタリと静止。


「〝石板ストーンパネル〟」


 そう魔法名を告げると、桶に用意してあった石灰と砂なんかの混ぜ物がふわり舞い、一枚の板に化けた。

 そして音もなく地面を覆う。むしろ、


「これが大魔導殿の……魔法……」

「途轍もない完成度だ……」


 感嘆のため息の方が煩く感じるほどの出来栄え。

 しばらくは己の心中を零すだけの視察団だったが、


「——だ、大魔導殿!」


 一人の学者が思わず声を挙げてしまう。


「なにかしら?」

「ぜひご教示願いたい。なぜ、かようなカタチに変えることができたのかっ。なにとぞ!」


 ヒスイがイヤそうな顔を見せた。とはいってもほんの一瞬で、たぶん俺しか気づいてねぇくれぇ些細なモンだが。


「逆に聞きますけれど、どうして石柱(ストーンピラー)が魔法として成立するのか、そのことを考えたことはあって?」

「…………いえ。魔道書に従い、起こって当然の事象とばかり」


 恥じ入るように学者は言葉を絞りだす。


「それが私が知る答えです」


 と、ヒスイは切り捨てた。


 俯く学者。ヒスイの魔法に興味を持ってた面々も似たようなもんだ。

 きっと己の探求が足りないと痛感したんだろう。興味が先立ち、安易に解を求めたことにも羞恥を覚えたに違ぇねぇ。


 ちぃと微妙な空気が流れちまう。

 だがそこへ、ベリルはなんの気なしに口を挟む。


「いやいやママ、いまのだと不親切すぎー。マジ説明足んないってー」


 オメェが言うな。


「あらそう?」

「当たり前って思えることが魔法だって、最初に教えてくれたじゃーん。たぶん学者しゃんたちに、そーゆー意味で言ったって伝わってねーし」


 ヒスイは不思議そうに小首を傾げる。まさかそんなわけがないと。部類は違うが学者たちも同じくだ。


「きっとさーあ、このカタチがいーなって決めた出来上がりを、いっぱい観察したり触ったりしたらいーし。重さとか固さとか、ちゃーんとイメージすればできそーじゃね。ゆーてこれマンガ知識でー、そもそもあーしにはこの魔法ムリなんだけどー」


 このベリルの発言に反応はそれぞれ。

 学者たちは目から鱗のお手本みてぇな表情だ。

 そしてヒスイは、


「ベリルちゃん。いまのお話は後ほど詳しく聞かせてね。もしそのような手法で結果を思い描けない者の内を磨けるのであれば、新たな魔法習得の鍛錬方法にもなり得るわ。素敵……。嗚呼、この世の誰しもが諦めていた頂きに手を伸ばすことができる。たとえ魔法の才に恵まれない者であっても……。素晴らしいわ。ママは心の底から感激よ」


 早口で感情を捲したてた。もう誰の声も届かないところへいっちまったようだ。


「ベリル、覚えておけ」

「ん?」

「口は災いの元だ」

「——はっ⁉︎」


 間違いなく家に帰ってから質問責めだと、ベリルはテメェが撒いた種に悩まされることを悟ったらしい。だが、いまさら。


「と、父ちゃん!」

「知らん」

「そ〜んな〜……。とほほだしぃー」


 このあと作業が再開するまでに、かなりのあいだ視察団を待たせたのは語るまでもねぇな。

 今回は質問した学者のせいでもあるし、すまんが待ちぼうけさせちまったのは大目にみてくれ。

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