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親方すっし①


 王都から役人たちがやってきた。事前に報せのあった道作りの視察団だ。


 なんぞ持て成しが必要かと思ったんだが、滞在できる期間が限られてるってんで会議室で工程を説明したら、さっそく工事に取り掛かることに。


 こっちの準備は万端だ。

 すぐ動かせるオッサン連中二〇名ほどを投入して、道作りがはじまった。


 今回、俺ぁ参加せず。いちいち作業の手を止めさせんよう、やってることの案内や質問に答える役に専念する。

 ベリルも魔導三輪車(トライク)で地均しを引っぱるとき以外は側にいて「親方すっし」と張りきってる。


 ちなみにヒスイはエドにかかりっきり。

 回復魔法を仕込んでるんだが、別の理由もある。それについては後ほど詳しく。


「では、道の幅を広げるところから」


 俺の説明に被せて、


『みんなー、縄張っちゃってー』


 ベリルが魔導メガホンで縄張りの指示をだす——って、待てコラ。役人の前でそれ使うなや!

 ほれみろ、ツラに『え? なんで持ってるの?』って書いてあんのがチラホラいんだろうが。


「おいベリル。そいつぁ没収だ」

「なんでさー」

「茶会議んときポルタシオ閣下と約束しただろう。忘れたんか?」


 なるべく役人たちにも聞こえるように、わかりやすくベリルを咎めた。トルトゥーガがさっそく決まりごと破りしてたなんて報告されたら堪らんからな。


「ちっちっち、父ちゃんこそ忘れてるし」

「は?」

「売る売らないの約束はしたけど、これ売ってねーしー。最初っからあーしの持ちモンだもーん」


 屁理屈を……。

 まぁいいや。いま持ってる魔導メガホンを取りあげちまえば解決だ。

 あまり実力行使は好かんが、この際しのごの言ってられねぇ。バッチリ使う現場を役人に押さえられちまってるんだからよ。


「あれは王国軍以外の所持を認めんって趣旨だったろ。ほれ、わかったらよこせ」

「ふーんだ。見解の相違(そーい)ってやつだしー」

「オメェを含めたトルトゥーガの立場が悪くなると俺ぁ言ってんだが」

「…………。はーい」


 しぶしぶベリルは魔導メガホンを渡してきた。

 

 いちおうは取り上げるって絵を示せたわけだ。これであとから煩く言われることもねぇ。役人たちも見て見ぬフリしてくれてるし、このぶんなら問題にはされんだろう。

 膨れっツラしたベリルからは喧しくされそうだが。

 

 開始早々から道作りと関係ねぇところでヒヤッとさせられちまったぜ。ったく。

 

 しかし、ホッとできてたのも束の間——


『線ズレてるし。そーそー、右みぎーっ』


 ベリルは魔導メガホンで指示を出していた。

 ハ? 俺の手にも同じモンがあんのに……。


「おうコラ。そりゃあなんだ?」

「あーしの私物だし」

「よこせ」

「ええーまた〜? しゃーないなー」


 また魔導メガホンを取りあげ、俺の手には同じモンが二個。

 ベリルはリュックをゴソゴソ、文句をブツクサ。

 でだ、


『こんど左に曲がってるし。そっちじゃなーい。うんうんオッケーイ』


 またまた指示を、新たに取りだした魔導メガホンで。


「——オメェいくつ持ってやがるんだ!」

「ひひっ。こーゆーこともあろーかとってやつだし」


 結局、俺はリュックごと取りあげた。



 パスカミーノ領から王都へ向け、今日の手をつけるぶんの縄張りをおえたら、つづいて道沿いの樹木や石なんかの邪魔になるモンを除いていく。


 辺りにはガンガンメキメキと、けたたましい音が響く。


「トルトゥーガ様。道具は斧槍を?」

「慣れたモンを使いたいんでな。うちはこういう作業にも調練を兼ねてんだ」

「それは興味深いですね。土工が練兵にも使えるとは」

「だがオススメせんぞ。普通の武器だと傷んじまうからよ」


 俺が質問に答えると、役人はカリカリと覚え書きに記す。

 そこへベリルが首を突っ込んできた。


「ヘンなのー。陣地作る専門の兵隊さんとかいてもよさそーなのにー」

「ベリル嬢が仰るような兵科は、聞いたことがありません」

「そーなんだー。ショベル部隊とかあったら、めちゃ強そーじゃね」

「ほう……。して、ショベルとは?」


 この疑問に対して、ベリルは荷台から実物を引きずってきて「これー」と応える。


「槍のようですね。こちらも魔導ギアで?」

「違ーう。武器じゃなくって穴とか掘る道具。でも武器にも使えっし、ある意味最強(サイキョー)だし」

「最強、ですか」

「陣地工作の兵に武器にも使える工作道具を持たせる、ですか。ふむふむ、兵站の負担も減ると……」


 これを聞いた視察団は、所轄の垣根を超えて議論をはじめちまう。


「これは一考の余地がありそうですね」

「私は外より内向きの利点を感じました」

「よい視点かと。辺境では王国軍は歓迎されますが、その逆は……。しかしこのショベルを担いだ兵たちが平穏な土地に道を作れば、その印象は大きく変わりそうですね」

「たしかに。嘆かわしいことではありますが、敵対種の少ない土地では王国軍は税のムダ遣いと揶揄されてすらいますからな」

「前線が崩れたら、次は我が身だというところまで考えが及ばないのでしょう」

「それを愚かとは言えませんよ。誰でも目に見える己の利がないところに税が使われるのは、気持ちのいいものではありませんから」


 こりゃあ国全体で考える者と、そうでない者の違いか。

 俺は間違いなく後者だ。とはいえ役人たちの言ってることもわからなくはねぇ。


「つーか道作ったりもそーだけどさーあ、災害救助ってゆーの? こないだのゾンビんときみたく、緊急事態に活躍できたらいーんじゃね。そーゆーのをちゃーんと宣伝すればいーし」

「ベリル嬢。その広報に、なにかよい案がありますか?」

「んん〜………新聞?」

「しん、ぶん?」

「やっぱしないかー。そーいやうちにもなかったかも。てーなると、あーしが作るっきゃなくね、小悪魔新聞」


 なぁんか話が逸れてきてんな。あと猛烈に面倒ごとが増える予感が……。


「——そ、そのへんは追いおいってことにしたらどうだい。道作りの視察を疎かにしちゃあなるめぇ」


 もちろん全員が全員、ベリルと話してたわけじゃねぇ。しっかり具に観察して報告をまとめてってる者もいる。

 だがさすがは役人。空気を読むのに長けてるだけあって、俺が強引に打ち切ろうとしたのを察してくれた。


「おっと失礼。そうでしたね」

「ベリル嬢。またの機会に詳しくお聞かせください」

「オッケーイ」


 ぜひともその機会は当分先にしてくれ。


 こっちが話してるあいだに、ずいぶんと遠くまで道幅を広げる作業は進んでいた。


 このあとは、せっかくなんで魔導ショベルで地面を掘りかえすさまを見せ、終いにベリルが魔導トライクで地均しを引くところまで進めたら、つづきはまた明日。


 視察団はトルトゥーガまでは戻らず、作業中の領地で世話になるっつう段取りだ。

 いちいちゾロゾロ引き連れて歩いてたら移動の時間がムダだからってのと、土地の領主との折衝や交流なんかも兼ねて厄介になるんだそうだ。


 俺らはといえば、ダダッと自分ちまで引き返しちまう。


 正直なところ、役人を世話するハメにならなかったと心から安堵している。

 面倒くせぇのもあるが、ベリルがなに言い出すかわかったもんじゃねぇからな。

 実はそっちの方がデカい。さっきの流れを見てりゃあ、俺の取り越し苦労じゃあなかったのは明らかだろう。


 こうして一日の仕事を終えた俺らを待っているのは、女房のニッコニコ笑顔。

 なにも俺らを労うって意図じゃあなく、これ、もう一つの仕事がはじまる合図。


「では、疲れた身体を癒して差し上げましょう」


 ……だそうだ。

 俺らにはまだ、先日から仕込みはじめたエドの回復魔法の実験台にされるってぇ仕事が待っていた。


 ちぃと不安ではあるが、


「よ、よろしくおねがいします!」


 こうチビに真摯な眼差しを向けられちゃあ、否とは言えねぇ。

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