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研究すっし⑤


 観察をつづけていたバンブートレントだが、無事に根をおろし増えはじめた。

 だいたい半月くれぇで地面から頭を覗かせて、そっからは早ぇもんでグングン伸びていく。


「もうじき道作りにかかりっきりになる。そろそろ増えすぎんように手ぇ打っとくか」

「いーんじゃなーい。道路用のセメントもいっぱい買ったし」


 そいつぁ着服ってやつだろうが。


「おいベリル」

「いやいや、ちゃんと分けてあるってー」

「ホントかよ。すぐにはバレなくっても、作り方ぁ教えたあとは国の方でも道作りするんだぞ。いずれバレる。セコいマネして信用損なうなんてバカらしいかんな」

「だからしないってばー。ここで使うセメントは、小悪魔コンツェルン竹林事業部の経費にすっし」


 コンツェルンとやらの意味はわからんが、たぶんまたコイツの頭んなかでは物事の規模がデカくなってるんだろう。


「そーと決まれば、さっそく工事しちゃおーう」

「これから招いた客の前で道作りするわけだし、その予行演習にはちょうどいいか」


 つうわけで、手ぇ空いてた者らを集めて混凝土の囲いを作っていく。


 途中、ちょいちょいバンブートレントが邪魔してくるもんで切り倒しちまった。

 かなりの量の根が土んなかに残ってるし、どうせまた生えてくんだろ。


 禿山の河っ側を広い範囲で掘り返す作業だったが、そう時間はかからずに終わった。

 いつの間にやら俺らは、この手の作業にずいぶんと慣れちまったらしい。ここんとこ傭兵仕事やってねぇもんな。


「おおーう。トルトゥーガ組の土木作業めちゃ早くなってるしー」

「任せてくだせぇ、小悪魔殿」

「こんなんモノの数に入らんですぜ」

「だなっ。ワシらこっちが本職でもいけるんじゃねぇか」

「まったくだ」


 冗談だろうが、それはそれで困る……。

 うちの連中も楽しそうだし、ならいっか。


「しっかし新しい魔導ショベル、いいですな」

「マジー。感想聞かしてきかしてー」

「へい。柄が前より軽くって、なのに丈夫。魔力が少なくて済むのがありがてぇ」

「それな。ワシも思ったぞ」

「あと手前っ側にある三角の持ち手が、また使いやすいのなんの」

「ひひっ。でっしょー。先っちょ以外バンブーにしたかんねー」


 これまではぜんぶ亀素材で作ってきたからな。

 ありゃあ魔力を通すと固くなるが、ショベルの先端以外はある程度丈夫なら問題ねぇし、魔力の節約にもなる。

 つうかベリルのやつ、さも自分がこさえたかのように語っていくな。テメェは絵図書いただけだってのに、どんだけ面の皮が厚いんだか。

 しかしまっ、使いやすかったのも事実。よくもまぁここまであれこれ思いつくもんだと感心してるのも本音。

 本人には言わねぇがな。


 さあ、バンブートレントの根っこをまとめて埋め直したら、撤収だ。



 切り倒したばかりのバンブーがあるってんで、ベリルは連日ヒスイを引っぱり工場へ出向いてた。


 そして数日経った、ある日——


「父ちゃーん見てみてー。マジすごくなーい」


 ベリルは魔導三輪車(トライク)を見せびらかしてきた。

 その後ろには、珍しく疲れたツラの女房があり、見慣れた躁になってるホーローたちもいた。


「パッと見はあまり変わらんが……」

「いやいや、ボディとか車輪とかぜんぜん違うっしょ」

「今回かなりの大仕事で、動力以外はほぼバンブーに置き換えたッス」

「ほぉう。それじゃあ魔力を帯びさせんでも丈夫ってことかい」


 ホーローの説明を受けた俺の所感に、ヒスイがつけ加える。


「従来までの亀素材で作った魔導トライクですと、本体の強度を高めるための魔力も必要でした。しかし多くの部品をバンブートレント由来の素材に置き換えることで、」

「不用になった」

「ええ。さらに今回は部品の一体化をしていますので、」

「丈夫さが違うと」

「そのとおりです。工作の過程にいくつもの部品を回復魔法で繋げては直して……」

「なんどもか」

「…………はい。なんどもなんども、なんどもです」


 で、ヒスイは飽き飽きさせられちまったらしい。

 イヤなら断ればいいもんを。ったく。どうせベリルに甘えられたんだろ。


「そりゃあ問題だな」

「どこがさー。めちゃ高品質じゃーん」

「その高品質なモンを作るために、なにが必須かわかってんだろ」

「たゆまぬ努力? みたいな?」


 よくもまぁヌケヌケと。テメェはそいつを一度もしてねぇだろうに。


「ヒスイの魔法だ」

「たしかにー」

「ホーローたちの腕はもちろんだが、バンブーをくっ付けんのに回復魔法は欠かせねぇんだろ。そいつを勘定に入れた場合、その部品一つがいったいいくらになるよ」


 俺はヒスイを助けてやる方向で、ベリルに諭した。

 だってのにうちの女房は、


「——チビっ子ハウスの子に回復魔法を仕込みます。ええ、徹底的に」


 斜め上。

 それ、ゆくゆくはって話だろうが……。

 しかもよりにもよって他人(ひと)にやらせようって発想が、ベリルに毒されすぎだ。いいや、ベリルがヒスイ譲りなのか。


「おおーう。ママが魔法のセンセーしてくれんのー。それマジ楽しそー!」

「任せてちょうだい。回復魔法の専門家に育ててみせるわ」


 ヒスイのやつ、よっぽどバンブーをくっ付けてる毎日がイヤだったんだな。


無理強(むりじ)いすんなよ」

「もちろんです」

「ベリルもだ。ちゃんと相手の希望を聞いてやるんだぞ」

「もっちろーん」


 ホントかよ。


「あー! 父ちゃん疑ってるし。ゆーてあーし、ちゃーんとチビっ子たちの将来考えてんだかんねー。なにが好きとか誰と誰がイイ感じとかもリサーチ済みだし〜」


 最後のはいらんとして。

 俺ぁはじめの方に顔出したっきりだからな。個別の希望なんぞ……ああ、そういや一人いたな、適材が。


「エド、だったか」

「そーそー。いまはチコマロのパーソナルトレーナーみたいになってる子っ。年長さんだし、下の子たちがケガしたとき治してあげられるとよさそーじゃね。保健委員的な〜。あとから興味持つ子も出てくんだろーしー」


 こういう流れで、一日一コマ、ヒスイがチビっ子ハウスで魔法の教鞭を取ることとなった。

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