研究すっし①
青々した木材を満載にした荷車を引いて、俺らはトルトゥーガまで帰ってきた。
とりあえず広場へ降ろすが、このあともバンブーは増えるから置き場所も考えなきゃあならん。
運搬を担う者らは二日ほど休ませたら、また行き来してもらう……、と。
このあたりの段取りをつけたら早めに解散しといた方がいいな。
まとまった休暇を与えんのは伐ったバンブーをぜんぶ運び込んだあとになっちまうが、そのぶんは給金に色つけて納得してもらう他ねぇか。
「おうオメェら。仕事つづいちまうが頼めるかい?」
念のため不満がないか聞いてみると、
「行って帰ってくるだけの楽な仕事でさぁ」
「だな。旦那、今回も小悪魔殿が面白ぇモンを作るんでしょう?」
「ワシらにゃあなにがなんだかサッパリだが、うちの女房もチビも楽しみしてるからな」
「それうちもだ。なら、やるしかねぇでしょ」
「木材運ぶのくれぇわけねぇですぜ」
思ってたより平気そうだ。
「助かる。バンブーの運搬が済んだら、道作りまでは深酒しても大丈夫なように予定組むからよ」
これ聞いた面々はホックホク顔で家路についた。
しばらくはベリルのバンブー弄りに付き合わされるだろうから、問題ねぇだろ。
◇
「あなた、おかえりなさい」
「おう。ただいま。……ん、ベリルは?」
「バルコを宿舎へ送りがてら、チビっ子たちの様子を見てくると言って出掛けてしまいましたよ」
「ったく。落ち着きのねぇ娘だぜ」
「うふふっ。しきりに『忙しい忙しい』と訴えていて可愛かったですよ。いつもどおり元気でなによりかと」
相槌を返すと、俺の前には酒を満たしたカップが、コトリ。
「ちぃと早くねぇか?」
まだ晩メシどきでもねぇのに。
「今日はゆっくりなさるのでしょう」
そう言ってヒスイは摘みと自分のぶんのカップも用意して、俺の隣へ。
まっ、たまにはいいか。ここんとこ俺も酒とは無縁だったからな。
カツンッ。
軽く木製カップをぶつけて、そっからグイグイッとあけちまう。
「久しぶりだと余計に美味しく感じるのではなくて?」
「ああ、格別だ」
なにも言わなくても、おかわりが注がれる。
「よほどお酒が恋しかったのですね」
「まぁな。つっても酒を飲まんと、やたら疲れの抜けがいいんだ。なんつうか若ぇころみてぇに翌朝には全快でよ」
「ふーん。ならお酒やめたらー」
…………ベリルか。
いつの間にってツッコミはもうしてやらんぞ。
つうか家に帰ってくんのにいちいち気配消すなや。いったいなにを期待してなんだか。ったく。
「ベリルちゃん、おかえりなさい」
「たっだいまー」
「いまの隠形も悪くはないけれど、家の前でいきなり気配を消すのはオススメしないわ。それではベリルちゃんがイタズラしようとしているのがバレバレよ」
「なーる。次からもっと早めに隠れるねー」
余計なこと教えんなって咎める目を向けると、ヒスイはコロコロ笑ってゴマカし、台所へ。
それを追っかけるようにしてベリルも手ぇ洗いに風呂場へ。で、戻ってくるなり席に飛び乗り、足をプランプランさせる。
「あーもーめちゃお腹すいたしー」
「待ってろ。いま支度してくれてんだろ」
「はーい。あっ、これもらうねー」
酒の肴をパクッと摘み食い。
「チビたちはどうだった?」
「みんな元気だったよー。あっそーそー、チコマロとエドって覚えてる?」
「たしか後家さんところのわんぱくボウズと、按摩を職にしたがってた年長のチビだったか。覚えてるぞ」
「あの二人、めちゃ仲良しなってたし」
さらに俺の摘みをパクリパクリと減らして、ベリルはつづける。
「でね、チビッコ大相撲に出たいんだってー」
「二人ともか?」
「んーんー。選手がチコマロで、エドはトレーナーみたいな感じー」
どっちも出りゃあいいのに。いまのうちなら旅費の支援くれぇしてやれんぞ。
「ああ、ちゃうちゃう違うし。そーゆーんじゃなくってね、あーしがお出掛けしてるあいだに体力テストとか身体測定の記録とか、エドに頼んどいたわけー。したらハマっちゃったらしくってー」
どうやら鍛錬の計画を立てて、その成果を数字で見ることに喜びを見出したらしい。按摩の研究の一環ってことで、身体のことも自分なりに調べてるんだとか。
「ほぉう。ずいぶんと賢いんだな」
話した限りでは、そこまで頭の出来がいいようには思えなかったけど。
「オメェが入れ知恵したんか?」
「してなーい。ゆーて興味あることならそんくらいやるっしょ。やりたいって気持ちが一番のヤル気の源だし。遊んでんのと楽しさ的には変わんないんじゃーん」
「そうかい。他のチビたちも、やりたいことが見つかるといいな」
「ねー。これからいろんな人が来てくれるし、社会科見学みたいなのお願いしてみよっかな」
「それもいいがよ、うちに来る客だと偏っちまうだろ。なんならパスカミーノ領を見せてもらえるように頼んでみるか」
「それ、だいじょぶなん?」
どうだろう。少しは誤解が解けてると信じたいところだが。
「道作りがはじまったら挨拶する機会もあるだろう。頃合い見計らって聞いてみてやるよ」
「お願ーい」
と、話がひと段落したところで。
「うふふっ。お食事の前にも打ち合わせかしら。ベリルちゃんったらお仕事熱心なのね」
「そーそー。あーしマジ忙しーしー」
「あらまあ。それなら、たくさん食べなくてはいけませんね」
いや、放っておいても最近のコイツはアホほど食うだろ。
「なにさー……。父ちゃんなんか言ったー?」
「いやなんも」
「ふーんだ。明日っからもやることいっぱいだし、ちょっと食べすぎてもヘーキだもーん」
そうかぁ? お気に入りのシャツワンピとやらのボタンが悲鳴あげてんぞ。
「ママー。スープおかわりー」




