ゲットだし!⑭
一日あたり、だいたい二〇〇〇くれぇのバンブートレントを切り倒せている計算。だから俺はざっくりとだが、この調子ならひと月以上はかかるだろうと見積もっていた。
しかし小島に戻ると、
「おおーう。思ったとーりだしー」
バンブートレントの切った節から濁った液体がピュウピュウ溢れ出してた。
残ってた者らに聞いたところ、再生してってるバンブーもあったそうだが、進捗の半分ほどを超えたあたりから弱ってきてると感じたらしく、ここしばらくは攻め手も緩くなってるっつう話。
そういや心なしか地面の湿り気も減って、歩くとザクザクした感じだな。
「急いで刈っちゃわなきゃかもねー」
つうわけで俺も伐採に専念。
マルガリテたちは、船でここと漁村とを往復。
そうやって小島を丸っと刈り終えた。
一面、一メートルほどの節がズラズラッと生え残ってる。
「トドメに燃やしちまうか?」
「やめといた方がいーって。根だけにしたら、また元気になっちゃうかも。いまは地面から吸いあげた栄養を切り口からお漏らししちゃうおバカ状態だし」
つまりはこのまんま放置が一番ってことか。
粗方の伐ったのを運び終えたら、木箱んなかにここの土とバンブートレントの根を詰める。真水を張った壺に沈めたりもした。
タケノコはとってすぐが美味いってことで、みんなで食っちまった。
「んんー……思いつく方法はこれでぜんぶかなー。ダメならしゃーないって諦めるし。ゆーて二万本ちかくバンブーあるんだし、しばらくは困らないっしょ。また生えたら伐っちゃえばいーし」
魔物を植えかえて増やすなんてマネ、かつてやったヤツはいねぇだろう。だから正解なんてわかりっこねぇ。
「オメェのこったから、禿山でダメならこの小島をバンブー畑にするとか言いだしかねんと思ってたぞ」
「んなことしないし」
ホッとした。冗談じゃあなく割と本気でな。
「最悪は、元のバンブーが生えてた南の方を探せばいーだけじゃーん。あーし、マルガリテちゃんとの約束守んなきゃだもーん」
「そうかい」
さて、積荷もこれでぜんぶ。
次に来るときがあれば、きっと見違える景色になってんだろうな。
「てか、マルガリテちゃーん。ホントにバンブーいらないのー?」
「ああ。たとえ枯れてても、そいつで建てた家なんて真っ平ごめんだよ」
「ふーん。んじゃ別の木ぃ買わなきゃかー。砂浜あったし、セメントもありかもねー」
「そうさねぇ。これからは小悪魔オーナーがたっぷり稼がせてくれるんだろう。せいぜいそのカネで立派な住処を用意させてもらうさ」
◇
漁村についたら、マルガリテたちとは別行動だ。
「アタイらは、指示されたところに中継地を作っておけばいいのかい?」
「おう。タイタニオ殿が土地の者には話つけてくれるそうだ」
「なるべくなら、人の手が入ってない小さな島があるといいんだけどねぇ」
「無人島かー。ひひっ、いーかも。そのうちプライベートビーチとか作っちゃう? 見っけたらゼッタイ地図に書き込んどいてねー」
「あいよ、小悪魔オーナー」
このあいだに、うちの連中が船から降ろしたバンブーを荷車に積んでる。
だが乗り切らねぇ。なんども往復せんとか。
今後についての確認が終わると、
「バルコ!」
マルガリテは手下の一人を呼んだ。
「うちで一番船の作りに詳しいのは、コイツさぁ」
紹介されたバルコは、船の保守を役目にしている男だ。あと、こないだベリルに説教かましたヤツでもある。
細身だが、不安定な足場でも仕事を熟せそうな、みっちり内側の筋肉を使いこんでる身体つき。
よく日に焼けた面構えからも、生粋の船乗りっつう陽気さと融通の利く律儀さが垣間見える。
間違いなくコイツがマルガリテの片腕で、うちで言うならゴーブレみてぇに重要な立ち位置の者だ。
そんな人物をよこすって言ってんのにもかかわらず、
「つーかマルガリテちゃんがくればいーのにー」
ベリルは苦手そうにしてみせた。
こないだコッテリ説教されたのを根に持ってるんならわかりやすいんだが、コイツのことだ、なんぞ意図した振る舞いに違ぇねぇ。
そこらへんは注視しておくとして、
「こらベリル。マルガリテと仲良くしてぇってのはわかるが、いまのはねぇだろ」
叱るべきところは叱らんとな。
「……そーかも。バルコごめーん」
「いえ、アッシはそんな……」
「んじゃ仲直り♪ ってことで、いっしょに世界最強の小悪魔艦隊つくって、七つの海を制覇しちゃおーう!」
あんなデケェ水溜りが七つもあんのか? 聞いたことねぇぞ。
んなとこより、しれっと商船団が艦隊になってんのはなぜだ。毎度のことだが、いちいち口にするたび目標を上方修正すんのやめてくれねぇかな。
言われたバルコもゲンナリだろうと思いきや、
「——その船長に、アッシらの姐さんが就くんですかい?」
スンゲェやる気……。
しかし、ここで性悪幼女が素直に頷くはずもなく「んーんーちがーう」と首を振った。
当然、バルコは「そっすか」と肩を落とす。
俺ぁこのあとの展開を知ってる。こいつはこれまでなんども見てきたベリルの常套手段。
「マルガリテちゃんは提督だもーん」
出た。お得意の上げて下げて、また上げるだ。
「……てい、とく?」
「そー。船長たちを束ねる海の司令官のことだし。マルガリテ提督っ。めっちゃ響きよくなーい」
「めっちゃイイ響きですぜい!」
「でっしょ〜。ひひっ。それもこれもぜーんぶ、バルコのガンバりにかかってるし。わっかるかね〜?」
「アッシにできることなら、なんでもやりやすぜ!」
あーあ、言っちまった。
ベリルはニンマリ口の端を釣り上げる。意地悪ヅラでポツリ「計画どーりだし」だとよ。
「あ、あのさぁ小悪魔オーナー。こんなんでもバルコはアタイらにとって大事な男で——」
「姐さん! アッシのことを大事とまで言ってくれますかい。くぅうう〜。アッシ、必ずやり遂げやすから!」
「そーそーそのちょーし〜。マルガリテちゃんはマジ大船乗ったつもりでいーし。ひししっ、いまのちっと上手くね?」
ちっとも上手くねぇよ。
とはいえだ、ベリルは人を乗せるのだけは上手いよな。相手の弱いところにつけ込んでるとも言えるが……。




