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ゲットだし!⑬


 しばらくは危なげなく見てられる。そう思っていた矢先、海に落ちる者が。

 船喰らいの骨無し(クラーケン)が首——つってもどっからどこまでもが頭かわからんが——とにかく尖り帽子を揺すって、振り落としたんだ。


 あっと言う間にドボン——とはならなかった⁉︎


「すごいすごーい。トランポリンみたーい!」


 ベリルがはしゃぐのもわかる。

 それはあり得ん光景だった。落ちてきた者を海面が跳ねかえしたんだ。

 水の上に立つだけなら、いや、それでもスゲェたぁ思う。だがそいつはさらに上をいった。


 信じられるか? 水に押しかえすチカラを生じさせて、クラーケンの頭上まで飛び上がったんだぜ。


 これが魚介類(マーフォーク)の戦か……。


「マルガリテちゃんいけいけー!」


 この声援に応えたわけじゃねぇだろうが、マルガリテたちの動きが変わった。積極的に海面を使いはじめたんだ。

 さっきまでよりスレスレのギリギリ。何本もあるクラーケンの脚に追われてる連中が、正面からぶつかりかねんギリギリで交差していく。それもなんども。


 クラーケンも赤黒く滑る肌を真っ赤にして、右へ左へ縦へ横へとチョロチョロするマルガリテたちを叩き落とそうと、脚を振る。星形の吸盤が追っかける。


 そうやって長い交戦の果てに、なんとクラーケンを完封しちまったんだ。


 もしこの展開をもっと遠目にしていたら、俺にもコイツらの狙いがわかったかもしれん。

 だが、こんときは危なっかしい煽りくれてるようにしか見えんかった。


「ありえねー。タコ?イカ?みたいなモンスターのうねうね足を結んじゃうとか、マジ漫画展開だし」


 こうベリルが述べた感想の意味は半分もわからんけど、クラーケンの足は見事に結ばれちまってた。

 未だに藻搔いてるとこをチクチク刺激して怒らせ、みるみる消耗させていく。


「さあ、オマエら! 仕上げだよっ」


 マルガリテはクラーケンの尖り帽子に乗っかり、膝をつくと手を添えた。


「アタイらの勝ちだよっ。このまま嬲られて食われるか、アタイの子分になるか選びなぁ」


 クラーケンに言葉が通じてるかは怪しいところ。だがつづけて魔力を注ぎ込まれると、だんだんと表面の色が赤から黒へ。

 こわばりが緩んでって、徐々に絡まった足も解けていく。


 一瞬『大丈夫か?』とも思ったんだが、それは杞憂ってやつだった。


「ふぅ……。いい子だねぇ。アンタは今日からアタイの従魔だよ」


 クラーケンは穏やかな目色になって恭順を示した。

 その証拠に、頭に乗るマルガリテから順に船の上へと太っとい脚で運んでくんだ。


「おおーう。クラーケン、ゲットだし!」


 ベリルはパチパチ拍手してマルガリテたちを迎えた。

 だがよ、もしあんときエビルキャンサーじゃなくてコイツを嗾けられてたらって考えると、ゾッとせんぞ。


 無意識のうちに腰のもんへ手が伸び、俺は膝を沈めちまう。


「やめとくれよトルトゥーガの旦那ぁ。なに物騒なこと考えてんだぁい。言ったじゃないか、クラーケンは海でしか使えないってさ」


 いまはその海なんだがな。


「アンタはアタイらの島を取り返してくれたり、迷惑かけた土地の領主様に取りなしてくれただろう。アタイらなりに大きな恩を感じてんだよ」

「なーる。父ちゃん、クラーケンと対決になんのを心配しちゃったんかー。つーかビビりすぎー。そもそもあーしとマルガリテちゃんはトモダチだし〜、そんな不安になることないってー」

「……そうか。そうだな。疑うみてぇな態度とっちまって、すまん。あんまりにデケェ魔物なもんでよ」

「そいつはどうもっ。いまのはアタイらのチカラを買ってくれたと思っておくよ。これからも海のことならアタイらに任せとくれ。トルトゥーガの旦那、小悪魔オーナー」


 こっちから不義理はせんように心掛けよう。マルガリテたちはそれだけのチカラを示したんだ。

 尊敬に値する力量。少なくとも、今後もイイ関係を保つために割く労力を惜しいとは思えんほどの。


「ゆーてイカとかタコでしょー。たしか目と目のあいだが急所だし。活き活きに締めるときブスーッてしたはずー」


 なんでベリルはいらんこと言うかな?


「や、やめとくれよっ」

「…………食べない食べない」


 クラーケンにもマルガリテの危惧が伝わったらしく、ちんまいベリルからビクッと目を逸らした。


「どっちかってゆーと、あーし、いまエビ食べたいかもー」


 これを聞くや否やクラーケンは水飛沫をあげ、スゲェ勢いで潜る。

 逃げたのかと思えば……、


「おおーう。めちゃ美味しそーだし」


 真っ赤な殻に覆われた魔物を差し出してきた。


「ハァ〜ア……。この子はアタイの従魔なのにねぇ。どうして小悪魔オーナーの言うこと聞くんだぁい⁇」


 心底理解できんとマルガリテは嘆く。

 おおかた従魔師としての常識でも覆ることだったんだろう。

 しかしな、これからもベリルと付き合ってれば似たようなことはまだまだ起こるに決まってる。

 よって俺からは「慣れろ」としか言えんな。


「ねーねー。このエビっぽいカニみたいやつ、なんてーお名前?」

「カニバロブスター。別名は人喰いエビさぁ」

「……げげっ、ヒト食べちゃってんのー。んじゃいらねっ」

「違うよ、そう呼ばれるほど頑丈でエビに似た魔物ってだけさぁ。こんな遠洋の底にいてヒトなんかにありつけるわけないじゃないかぁ」

「ほーほー。で、美味しーい?」

「アタイらは魔物を食べたりしないよぉ」

「なんでー? こないだのエビルキャンサーは美味しかったのに」

「小悪魔オーナーは相当感覚ずれてるんだねぇ。獲る労力に見合わないだろう。普通に魚をとった方が遥かに楽じゃないかぁ」

「ほーほーガッテーン」


 ベリルの興味はクラーケンに捕らわれたまんまのカニバロブスターに移り、


「よーし。新鮮なうちに食べちゃおーう」


 と俺へ目配せ。捌けってか?

 ここまで俺の聖剣、包丁か鉈の代わりにしか使ってねぇんだけど。そのうち神様がキレたりせんか心配だぜ。



 目的も果たしたんで、航路はマルガリテたちの住処である小島へ。


 ベリルは捌いたばかりのカニバロブスターに舌鼓をうったり、船についてくるクラーケンに餌付けしたりして過ごしてた。

 もちろん俺もご相伴に預かったさ。はじめは気味ワルく思ってたが、食ってみるとこれがまた……堪らん。めちゃくちゃ美味くてハマっちまったぜ。

 いまとなっちゃあゲテモノみてぇに言ったのは、完全撤回だ。

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