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ゲットだし!⑩


 なんどか小舟に分乗して俺らと積荷を下ろすと、船は引き返していく。物資のおかわりのためだ。

 それを見送ってる間もなく——


「半分は俺につづけ、盾になるぞ! 残りは隙みて刈れるだけ刈れ!」


「「「応ッ‼︎」」」


 バンブートレントの熱烈歓迎だ。


 ナイフみてぇに鋭い葉っぱが、しなる枝でもってヒュンヒュン不規則に切りつけてきた。

 そいつに対処したら、お次はタケノコってやつが死角から。


「地面からの塊は潰すな! そこそこ加減して——払い落とせ! 食い物になる——らしいぞ!」


 固さは緑色の幹には遠く及ばねぇが、それでも尖る塊は充分に速さが乗っていて、まともに食らえば動きの妨げになっちまう。


『だいたい一メートルだし。あーしのアホ毛より上くらいの高さで切っちゃってー。このバンブーめちゃ成長早いし、ほっとけば切ったとこから栄養ぴゅーぴゅーして枯れるし、たぶん。知らんけど』


 後方よりベリルの指示が飛んだ。

 つうかアイツから魔導メガホン取り上げるの、スッカリ忘れてたな。

 俺ぁついつい忘れちまう呪いにでもかかってんのか? いや違うな。きっと次々と起こる面倒ごとで頭んなか占められちまってんだ。


 半数がバンブートレントの攻撃を引き受けてるあいだに、残りの連中がカンカンコンコン幹を切り倒していく。


 タケノコの射程以上に切り進めちまえば、一息つけそうだ。それまでは淡々とした作業をこなすのみ。


 キリのいいところで——


「役割交代!」


「「「応ッ!」」」


 気の長ぇ仕事で思わぬポカをせんよう、疲れを感じる前に盾役を入れ替える。


『父ちゃん! したした下っ!』


 は? 俺がなにしたってんだ?

 などという油断が、一手ぶん対応を遅らせた。


 ベリルが叫んだのは俺の足元って意味で、


「くっそ。植物っぽいんだから、その攻めもあって然るべきってか!」


 細い根が槍みてぇな束になって真下から突いてきたんだ。

 もちろん無様にブッ刺されたりはせんが、躱したせいで体勢は崩されちまう。

 ——まだ終わりじゃねぇ。

 厄介なことに、腰あたりまで突き出た根の束はバラけ、脚に絡みついてくるんだ。体捌きのたんびにブチブチと根を千切るんだが、動きを妨げられる。


 他の攻め手だって緩むわけでもなし。

 こりゃあマズい。邪魔で邪魔でイラつくのもあるが、んなことよりも体力がグングン削られてくってのが大問題。


「ベリル! 一部でいい、地面を焼け」

『ほーい』


 あまりベリルは攻撃の手に加えたくなかったんだがな。


「マルガリテはいますぐ目と耳を塞げ! なにやるか見たら、ヒスイに消されちまうぞ!」

「——ひっ! そんなのごめんだよぉ!」


 悲鳴交じりに(うずくま)ると、マルガリテは膝で目許を両手で耳を覆う。


 それからベリルは辺りを見回し、


『んじゃ、いくかんねー。〝パッチーン〟』


 と指を、鳴らせず——途端に青白い炎が。


 後衛の者らが切り倒したうちの一角は、メラメラ轟々と燃える。

 その熱に怯えたのか、根は解けて地面に逃げていく。


「幹を半端に残すのは、安全地帯を確保してからだ! ベリル! 次はどこぉ燃やすのか指示しろ!」

『おおーう。とーとー小悪魔司令のデビュー戦だし。上官の命令はゼッターイ。敵前逃亡はピストルの刑だかんねー』

「——戯言はあとにしろ‼︎」

『はーい。んじゃ、次あっち燃やすねー』


 あっちじゃあわからんぞっ。

 いまハッキリした。ベリルには指揮の才はねぇらしい。


「海岸から向かって右ッ‼︎ 魔力の察知も怠んな!」


 代わりに指示を加えていく。


 また新たな場所に火の手があがり、一つ前んところが燃え尽きる。


 ここまでを繰り返していって…………、やがて一面が灰になった地面が現れる。


「ベリル、まだ熱ぃだろうから踏み入れんなよ!」

『わかってるってばー。つーか命令しないでっ。司令官はあーしなのっ』

「いいから手ぇ休めんな!」

『マジ父ちゃん人使い荒いし』


 オメェにだけは言われたくねぇよ。



 無事、海岸から渡し五〇〇メートルほどを確保した。

 だってのにベリルのやつはブーブー文句垂れてる。なにに対しての不満かと言えば、司令官云々じゃあなく、


「せっかく切り倒したバンブーもタケノコも、ぜんぶ燃えちゃったじゃーん」


 だとよ。

 回収する間もなかったからな。


「しかたねぇだろ。勿体ないとか言ってられん状況だったじゃねぇか」

「そーゆーのが将来の環境破壊とかになってって、シーオーツーとかでめちゃ大変になんだかんねっ」

「将来云々の前に、俺らが全滅しちまったら意味ねぇだろうが」

「ん? そんなヤバかったん⁇」


 コテリと不思議そうに首を傾げやがって。

 好意的に受け取れば信頼の証でもあるんだろうけどよ。


「まず大前提として、ギリギリで戦うってのは避けるべきなんだ」

「ほーほー。それたしか安全マージンってやつ」

「その言葉は知らんが、とにかく余裕もってねぇとマズいってことだな。じゃねぇと咄嗟のときに対応できんだろ。今回だって必死こかんでも足りる状況だったから根の束に対処できたんだ」

「ひひっ。あれだ、これ士官教育ってのじゃね」


 士官もなんも、オメェを軍人にするつもりなんかねぇぞ。傭兵にもな。

 つうか教育ってんならよ、テメェには礼儀作法を躾けんのが先だ。


「スンスン……。ふむ。そろそろゴハンじゃね」


 こんな焦臭ぇなかスンスン言ってメシの匂いがわかるもんかねぇ。あざといやつめ。

 とはいえ、俺の腹もベリルとおんなじこと訴えてらぁ。


 設営とメシの支度、そんでもって周囲の警戒と、それぞれ役目についてた者らが順にメシを食っていく。

 そんななかでマルガリテはひとり、スゲェ居心地悪そうに話しかけてきた。


「ねぇ旦那ぁ……」

「なんだ?」

「アタイ、なんもやってないんだけど」

「しかたねぇだろ。テメェはメシも作れねぇし、設営にしたってうちの者らは慣れてる。見張りに立たせて怪我でもされたらオメェの手下に申し訳がたたん」


 よっぽど大事にされてきたのか、マルガリテは雑用関係がてんでダメだった。

 それを気に病んでの態度なんだろうけどよ、なんも任せられる仕事がねぇんだ。


「気にしなくっていーのにー。でも、あのデッカいカニでエビみたいのいれば違ったのかもねー」


 そいつを食っちまったのはオメェだ。いや俺も食ったけどよぉ。にしてもオメェが言うなってやつだぞ。


「父ちゃん。もーキャンプ張れたし、あーしいなくってもヘーキ?」

「ずいぶんな言い草だな」

「ヘーキってゆーんならさー、マルガリテちゃんと魔物探ししたいなって。ゲットだぜいするとこ見てみたいし」

「……えっ」


 マルガリテの表情が強張る。


「ま、また食うつもりかぃ?」

「…………。食べない食べない」


 いまの間は、食うつもりだったな。


「あっそーそー! テイムしたモンスターにお魚とか取ってきてもらえばよくなーい。鵜飼とかそーゆーノリでっ。いっや〜、あーしマジ天才だし。これで新鮮な魚介類食べ放題じゃーん」

「……ハァ〜。漁に従魔を使うなんて聞いたことないよぉ」


 マルガリテは心底イヤそうだ。

 コイツだって得手に自信もあるんだろうし、納得いかんのだろう。


「ちっちっち。前例は作るためにあるし」


 ベリルのやつ、まぁた意味不明な論法で言いくるめようとしてやがる。

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