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ゲットだし!⑨


 ベリルが転がす魔導三輪車(トライク)を追うようにして、俺らの引っぱる荷車もつづく。そうやって漁村まで辿りついた。

 なんと以前の半分以下の時間で。うちの草臥れた馬車と比べてもしかたねぇが、にしても早すぎるぜ。


「トルトゥーガ様。お待ちしておりました」


 到着早々に村長が出迎えてくれた。

 聞くと、タイタニオ殿から『くれぐれもよろしく』ってぇ早馬がきたそうだ。


 そんで、残してったマルガリテの手下たちはといえば、


「「「あ、姐さ〜ん……」」」


 ずいぶんと情けねぇツラ。

 村の者らに無体なマネされたとかじゃあなく、単純にマルガリテを心配していたらしい。


「シャキッとおし!」


「「「へい!」」」


 だからたった一言の喝入れで、元どおり。


「オマエたち、船の方は万端なんだろうねぇ?」

「もちろんでさぁ!」

「トルトゥーガの旦那と大鬼種(オーガ)の傭兵団を乗っけてくんだぁ。みっともないところ見せたら承知しないよ!」


 気合いの入った返事のあと、船乗りたちはテキパキと食糧や天幕なんかを運び込んでいく。


 今回は降りてすぐ引き返すんではなく、数日かけてバンブートレントを刈り尽くすのが目的。

 なんでもベリル曰く、


『一メートルくらい残して切っちゃえば、枯れるし。たぶん』


 とのこと。

 その経過を確かめる必要もあるんで、滞在日数は余裕をもたせてある。

 小島といえども島だ。勘定すんのもバカらしいくれぇ伐採できるだろう。そのバンブーの山を逐次この漁村まで運んで戻ってさせねばならねぇ。

 船が行って来てしてるあいだに、俺らはバンブートレント退治に励むっつう予定だ。


 算段を思い返してると、


「やっぱり姐さんは島に残るんですかい?」


 マルガリテの手下の一人が心配そうに、念押ししてた。


「やめなバルコ。アタイが残らないと、トルトゥーガの旦那らが安心できないだろぅ」

「そんな! アッシら裏切ったりなんてしやせん。タリターナ様でしたか、漁村の領主様に執りなしてもらったことも島の魔物を退治してもらうことも、心から恩に着てやす」

「それでもさぁ。いらない不安を抱かせたら今後の扱いに響くってのくらい、オマエにもわかるだろぅ」

「……へい」


 なるほどな。こいつぁ茶番だ。

 わざわざ俺らに聞こえるように『信用しろ』って主張してんだ。

 船乗り兼商売人やってただけあって、なかなかしたたかじゃねぇか。


「しかしですぜ、もし姐さんになにかあったらと思うとアッシは……」


 こっちは本音らしい。

 バンブートレントがヤベェのもあるが、女ひとり見知らぬ男衆んなかに残すってんで気を揉んでるんだろう。

 受け取りようによってはずいぶんと失礼な話だが、マルガリテの美貌もある。コイツらの気持ちはわからんでもねぇ。

 だからこんなことでいちいち目くじら立てん。俺はな。


「なにさアンタ! 父ちゃんたちがエッチだって疑ってんのーっ」


 ベリルのやつ、聞き流しちまえばいいもんを。


「——こ、小悪魔オーナー。アタイらそんなふうに思っちゃいないよ。なぁバルコ」


 慌ててマルガリテがベリルを宥めるが、


「マルガリテちゃんには聞いてないし!」


 効き目なし。

 俺を含めたうちの連中は、外見もあってこういう粗暴者扱いされんのは慣れっこだぞ。それにこれから出航って時分に揉めごとは避けてぇ。

 ベリルがうちの連中のために怒ってくれてんのはわかるが、ここは割って入るしかねぇか。


「おうベリル。んなキーキーすんなって。こういうのは無事に返してからイジってやるもんだ。なっ。あとで笑い話にしちまえばいい」

「はあー? なに言っちゃってんの。父ちゃんたちいっつも硬派ぶってカッコつけてんのにさー、それバカにされたんだよ。怒るべきじゃーん!」


 おい待てい。どっちかってぇとオメェの言い草の方に物申してぇんだが。


「なにも思わんわけじゃねぇ。だが、それだけコイツらにとってマルガリテが大事な存在なんだってのも理解できる。そんくれぇオメェもわかってるよな」

「父ちゃんがあーしのワガママ聞くの大好き、みたいな感じ?」


 だいぶ違う気もするが、まぁ、似たようなモンってことにしておく。

 俺が軽く頷くと、


「ふぅ〜ん」


 ベリルは満更でもねぇツラ。

 で、マルガリテの方はといえば、


「ハァ〜……。ホントいちいちオマエらは過保護すぎやしないかぃ」


 呆れヅラで、少々大げさに手下へ苦言を呈す。


「お言葉ですがね、先代から託された大事な大事なアッシらの姐さんなんですぜ」

「オマエさぁ、アタイらの立場悪くしかねないセリフまで口にしたってのに、トルトゥーガの旦那は穏便に済まそうとしてくれてるんだよ。しかも実際に、このとおりアタイは無事に帰ってきてるじゃないかぁ」

「そーだそーだー!」


 ベリル、あっちの話なんだから黙っとけ。


「…………すんません」

「詫びる相手が違うだろぅ」

「へい……。トルトゥーガの旦那、小悪魔オーナー。無礼なこと言っちまって申し訳ねぇです」

「まーあー、そーやって謝るんなら今回は許しちゃるし」


 ムダに態度デカいな、コイツは。


「さぁせんした」

「うむっ」

「アッシとしたことが……。姐さんに指一本触れられとらんとわかっちゃいても、つい」


 これにて一件落着。

 ——にはならなかった。落ち着きかけたこの場へ、


「ああぁそうそう。そういやぁアタイ、小悪魔オーナーにはいやらしいイタズラをされたっけねぇ」


 マルガリテが意趣返しの一石を投じたからだ。

 途端に雲行きが怪しくなる。


「——どういうことっすか‼︎」

「どど、どーもこーもないしっ。あんなん幼女がお姉さんに甘えただけだもーん。やらしくねーしー。合法だしー」

「小悪魔オーナー。いまの話、船んなかでじっくり聞かしてもらいやすぜ」


 と、船乗りはこっちに確認をとってくる。

 それに対してベリルは俺のズボンをグイグイ引っぱり、


「あーし悪くないもーん。ねっ父ちゃん。あーしの無実を証言してっ。異議あり! ってさー」


 ヌケヌケと助けを求めてきた。

 もちろん俺は親父として娘の将来のために、


「異議なし」


 思いっきりハシゴを外してやった。


「————う⁉︎ 裏切り者ぉ〜!」

 

 こうして出航して島につくまでのあいだ、ベリルは船乗りたちに代わるがわる『いかにマルガリテが自分らにとって大切な人間か』ってことをコンコンチクチクと、それはそれは懇切丁寧な口調で聞かされつづけるハメになったんだ。


 こいつぁアイツにとってイイ薬になるだろ。


「ひぃ〜んっ。もーわかったしぃ〜」

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