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ゲットだし!⑧


「おやぁ〜。小悪魔オーナー、もしかしてあのなかに意中のボウヤでもいるのかぁい?」


 マルガリテは軽く腕を組んで、ベリルに余裕ある笑みを向けた。どうやらここまでやられっぱなしだったんで、少し揶揄ってやるつもりらしい。

 ……くっだらねぇ。年頃の娘が見た目三歳児になにを仕掛けてんだか。

 

「はあー? なに言っちゃってんのさー。あんなお子ちゃまなんか、あーし眼中ねーしー」

「そうかいそうかい。そいつぁ失礼なこと言っちまったかねぇ」

「むっかー。そーやっておっぱいマウントとってられんのもいまのうちだけだかんねっ。あーしだって、す〜ぐバインバインだしー」


 そいつぁたぶんムリだと思うぞ。理由には触れんでおくが。

 そのあたりはテメェでもわかってんのか、ベリルは実力行使にでた。つってもそんな物騒なもんじゃあねぇ。


「ふーんだ。ちょっと可愛くてスタイルいーからってさー」


 負け惜しみを挟みつつ俺の背中にへばりつく。そして肩を伝い、


「そんなイジワル言うデカパイちゃんは——こーだし!」


 マルガリテの胸許に飛び移った。


「ちょっと小悪魔オーナー、や、やめなってぇ」

「ほりほりえーんかえーんか、これがえーのんか〜。あーしキレちったし〜、小っちゃくなるまでモミモミやめないもんねー」


 あのよ、俺もいるんだが。

 目のやり場に困るぞ。連れだって歩いてるんでどっかへ外すこともできん……。


 マルガリテもさすがにちんまいベリルを振り解けず、っつうより遮ろうとする手を右乳左乳へと移り巧みに躱わす。


「けっけっけ〜、柔っけ〜」

「やぁ、やめぇ……ん、やめとくれよぉ」

「おいベリル! いい加減にしろっ」


 あまりに悪ふざけがすぎると叱りつけた。

 しかしそのときには、


「ふわわぁ〜……やわやわ幸せだし〜」


 ベリルは蕩けきってたんだ。

 チカラ抜けちまってるみてぇで、簡単に引き剥がせた。


「なんか、うちの娘がすまんな」

「あ、ああ。……ねぇ旦那」

「なんだ?」

「服の乱れ直すから」

「——おおっと、すまんすまん!」


 くっそ。ベリルのせいで、ものすんげぇ気まずい思いしちまったじゃねぇか。

 甘えんならテメェの母ちゃんにしとけよな、見境なしめ。



 さて、今日は出発の日だ。


 こないだ帰ってきたばっかりだってのに。

 と、ベリルにはボヤいておくが、正直なところそこまで気乗りしないわけでもねぇんだ。

 なにせこの前の王都行きのおかげで、ゴーブレが思ってたよりも机仕事をこなせるとわかったからな。

 しかも今回はヒスイもトルトゥーガに留守番だ。となればなんも憂いはねぇ。身体動かして稼げる仕事の方が俺の性にも合ってる。


「父ちゃん、準備オッケーイ?」

「おう。オメェの方も大丈夫だな」

「ああうん。つーか……」


 と言葉を濁してベリルが向いた先では、


「チッ。軟弱者どもが」


 マルガリテを囲んで、なにかと構ってるホーローたちがいた。


「まーまー。年上のお姉さんに憧れるお年頃なんだって〜」

「ずいぶんと理解あるじゃねぇか」


 こないだはアイドル云々言って対抗意識ぃ燃やしてたくせに。


「あーしもマルガリテちゃんの魅力わかっちったし……」


 そういやこの六歳児、そっちもいけると自己申告してやがったな。


 待つことしばし、いい加減しびれ切らした他の者らがドヤしつけて、ようやく出発となった。



 俺が率いるトルトゥーガ竜騎士団二〇とベリルとマルガリテは王都方面に進み、途中で折れ、ラベリント方面に。


 ここらで今日は野営だ。

 メシも済ませて、俺らは天幕へ。

 交代で見張りに立ち、休める者は各々疲れをとっていく。


「たった一日でここまで移動できたか。道を整えたら、もっと早くなるな」


 隣にちょこんと座ってるベリルに、なんの気なしに話しかけた。

 聞き流してもらっても構わん中身のねぇ呟きだったが、ベリルは暇こいたのか「ねー」と話を拾い、つづける。


「そのうちツアーとかはじまるかもー」

「旅のことだったか?」

「そー。護衛とガイドに冒険者しゃんとか雇ってさー、都会で遊んだり登山したり海水浴したり、みたいなー」


 好きこのんで山道あるくヤツなんているか? それに海水浴って……、海の魔物に襲われちまうぞ。そうとうお花畑な発想してやがんな。

 まさか勝手に出掛けるこたぁねぇと思うが、いちおう釘は刺しておくか。


「オメェ独りで出歩くなよ」

「だいじょぶだいじょぶ〜。ちゃーんと父ちゃんも誘ってあげるしー」


 そういう意味じゃねぇんだけどな……。まぁいい。俺がついてりゃあ平気だろ。


「そうかい。そろそろ寝るぞ」

「ん。それじゃ、あーしは女子ゾーンでマルガリテちゃんとおやすみするし〜」

「おお、そうか……」


 モゾモゾ立ち、てってくと布で仕切られた先へと潜り込んでっちまった。


 なんでも、隔ててんのは男女の配慮ってやつらしい。

 硬派な俺らが女一人いるくれぇで血迷うかってんだ。で、いちいち布貼るのが面倒だと却下したんだが、


『女子側に対する配慮でもあるし』


 との言い分。

 結局は、そんなもんで気が休まるってんなら好きにしろって許可した。


 その薄布越しに、ヒソヒソと……。


「ねぇ小悪魔オーナー、ちょいと近いよ」

「だって寒いんだもーん」

「甘えんのはさぁ、アンタの母ちゃんにしてやったらどうだぃ」

「いまママいないし〜」

「頼むから妙なマネしないどくれよぉ?」

「しないしなーい。うへひひっ」


 年上の女に甘えたがんのは、なにもホーローたち若い衆だけじゃあねぇらしい。

 まったく理解できんわけでもねぇがよ。俺にだって若ぇころはあったわけだしな。


 この晩はスゲェ青くせぇ夢をみた。

 ヒスイと出会った——いや、カチ合った——ときの懐かしい思い出んなかで過ごした。

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