ゲットだし!⑦
バンブートレントの討伐——ってよりは伐採の方が合ってるか——を済ませちまおうと気合いを入れたってぇのに、すぐに出発とはならなかった。
「もーちょい待っててねー」
と、ベリルが言い出したからだ。
あんまりチンタラしてたら道作りの時期と被っちまう。
「バンブー弄りなんか、刈ったあとでいくらでもできんだろうが」
「いま魔導三輪車の改造してもらってるし」
「もしかしてバラしちまってんのかい?」
「まーね〜」
今回は移動時間を短く済ますために、魔導トライクと人力で荷車を引っぱるって話になっていた。
これなら少なくとも半分の期間で済む。
だから多少出発が遅れても俺の気はそこまで急かねぇ。しかしな……。
「マルガリテだって、子分や船の心配してんじゃねぇのか」
「いやいや、そのマルガリテちゃんのための改造なんだってー」
「どういうことだ?」
「ひひっ。せっかくだし見にいこーよー」
すぐに答えりゃあ事足りるだろうに。勿体つけやがって。
とはいえ留守のあいだに溜めてた仕事も済ませたし、バンブートレント退治に赴く者らの編成も終わらせてある。ならいいか。
こっちの返事も待たず、ぴょんっと背中にへばりついてきたベリルをおぶり直して、俺らはホーローたちの工場へ向かった。
◇
「あっれ〜。誰もいねーし」
それどころか魔導トライクもねぇな。
「アイツらどこ行ったんだ?」
「んんー、もしかしたら倉庫じゃね」
ということで、今度は倉庫に。
するとそこにはガッカリな光景が……。
「こ、この魔導歯車がカラクリを動かしてて」
「マ、マルガリテさん。こっちの仕掛けがスゴイんッス」
「ホーロー。早くマルガリテさんが座るイス持ってきてさしあげろよ。一番上等なやつなっ」
「いやいやオマエらさぁ……」
マルガリテに骨抜きにされた若い衆がいた。
「うわ、めちゃ必死じゃーん。引くわ〜。まんまオタサーの姫チヤホヤする非モテ男子だし……」
このベリルのボヤキにも、マルガリテ以外は反応しない。
若い衆を咎めてるっぽかったホーローでさえ、
「マジ鼻の下びよーんなんだけどー」
みっともねぇありさま。
ったく。情けなくって泣けてくらぁ。
「おうテメェら‼︎」
「「「——だ、旦那っ」」」
連中、怒鳴りつけられてようやくこっちに気づいたみてぇだ。
「あ〜やらしー。アンタら、そんなふーにマルガリテちゃんのおっぱいばっかり盗み見してっと嫌われちゃうかんねー」
「「「——み、見てないって」」」
ベリルにイジられると見事に全員、視線を斜め上へ。それじゃあ認めたのといっしょじゃねぇか。
「これ、けっこー本気でハニトラ対策しとかなきゃヤバくなーい」
色仕掛けの罠だったか。
たしかにコイツらのだらしねぇさまを見てると、戯言などと聞き流せねぇな。近いうち真剣に考えた方がよさそうだ。
「こ、小悪魔が頼んできたやつは、もうできてるから」
「なら早く言ってー。あーしもマルガリテちゃんもそれ待ってんだしー。ねー」
「ああ、待ちくたびれちまったよぉ」
あと俺といっしょに出張る連中もな。つうかなにを作らせたのかは知らんが。
「それならそうと早く言ってくれよ!」
「なに八つ当たりしてんのさー。そもそもホーローたちがエッチぃ目でマルガリテちゃん見てたのが悪いんじゃーん」
「「「み、見てないってばぁ……」」」
なぁ、とホーローたちは互いを庇う。なんとも嘆かわしい助け合いしてんだ、コイツらは。
「ふーん。嘘っぽいけど、まーいーや。んじゃ出来上がったの見してー」
「小悪魔が思ってるモンとは違うかもしれないけど、言ってたバンブーのしなりで、だいぶ揺れはマシになってるはず」
そう言って、ホーローは改造したってぇ魔導トライクを持ってきた。
つづけて、パカリと後輪の足周りを覆ってる部品を外し、俺らへ説明をはじめた。
この場合の『俺ら』にはマルガリテも含まれていて、訴えかけの割合は俺一割にベリル一割。残りのほぼほぼは年上美人へ。
その証拠に「ぐぬぬっ」と他の若い衆がイイとこ見せようと役目を代わりたそうにしてやがる。
「つまり! 車軸に一枚バンブーの板を挟んであるのと、他にも細く切ったものを曲げて交互にして組み合わせてある。これは場所の節約にもなっててね、いかに大きさや重さを増やさないで弾力を増すかって、工夫を凝らした結果さっ」
おうおう饒舌に語りやがる。
「ほーほー。板バネってやつかー、よく知らんけど。だーいぶあーしが思ってたのと違うし。でもこれなら揺れもだいぶマシになりそー」
「オレらの努力がマルガリテさんの快適な乗り心地に繋がるんなら、ガンバった甲斐があるぜ。小悪魔、くれぐれも飛ばしすぎるなよ」
「「「ああ、ホーローの言うとおりだ」」」
「じとー…………」
「な、なんだよ」
「アンタらガッつきすぎー。つーかマルガリテちゃんが乗るのは引っぱられる荷車の方だかんねー」
「「「————っ⁉︎」」」
驚くことか? 魔導トライクの小ささ考えたらわかるだろうに。
「オマエら、いますぐ荷車を直すぞ!」
「「「応っ!」」」
「はいはい。ちゃっちゃと終わらしてー。マルガリテちゃんが故郷を取り戻したいって待ち遠しくしてるし」
「マ、マルガリテさん、オレらガンバりますから」
「おいホーロー抜け駆けすんな!」
「オレもオレも! 最高の出来になるよう気合い入れるんで」
だったらさっさと取り掛ればいいもんを。
「おうマルガリテ。オメェがいるとコイツらの気ぃ散って作業が進まねぇ」
「あいよぉトルトゥーガの旦那。じゃあお兄さん方ぁ、よろしく頼むよ」
「「「あ、あいあいさ〜!」」」
ったく。揃いも揃ってデレデレしやがって。
こりゃあどっかしら時分を見計らってシメねぇとダメだな。
こう考えたのは俺だけじゃあねぇようで、倉庫から談話室へと向かう途中、
「父ちゃん。ゆゆしき問題ってやつだし」
「オメェもそう思うか」
珍しくベリルが懸念を示した。これまた見慣れん真剣な顔して。
「このままじゃマルガリテちゃんのデカパイオツに、あーし、アイドルの座ぁ奪われちゃう」
「…………あっそ」
どうやらベリルと俺とでは見てたもんが違うらしい。




