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ゲットだし!④


 ベリルが魔導三輪車(トライク)で引く荷台の上から、


「——ひっ! こ、小悪魔オーナー、この丘の船、揺れっ、ヤバいよぉ」


 マルガリテの泣きがはいる。

 さほど、どころか馬車と並走してる程度の速さでもダメらしい。


「これ船じゃねーし。つーか船はヘーキなのにヘンなのー」


 と、ベリルはまったく聞き入れん。

 で、一日二日も経てばマルガリテも大人しくなる。当然、騒ぐ元気もなくなったからだ。


 気の毒に思わなくもねぇが、馬車でヒスイと二人きりをイヤがったのもマルガリテだし、コイツの歩きに付き合ってられんってのも本音。

 いまの時点でもかなり寄り道に時間くってるんだもんよ。悪ぃけど、俺ぁ早ぇとこトルトゥーガへ帰りてぇ。



 王都に戻ったはいいんだが、いきなりタイタニオ殿の屋敷に押しかけるわけにもいかん。

 たとえ面倒でも、今回は事がことだけに丁寧に振る舞うべき。

 つうわけで、到着したその日は宿で一泊。

 若干一名グッタリしてっからちょうどいい。

 そのあいだに、俺はブロンセを使いに出しちまうことにした。


「んで、なんでオメェまでついてくんだよ」

「だってー、ブロンセの一人暮らしとか気になるじゃーん」


 ちっとブロンセんとこ行くだけなのに、ベリルがついてきた。……ゲスな理由で。


「前にプライバシーっつたか、個人のなんちゃらが云々いってなかったか?」

「知る権利だし」

「んだそりゃあ。ずいぶんとテメェに都合よさそうな権利だな」

「よく知んなーい」

「そうかい」


 っと、ここか。

 ブロンセの住まいはトルトゥーガにある長屋と大して変わらん木造二階建て集合住宅の一室だった。

 外観は漆喰でキレイにしてあるし、なんども補修した跡がみえる年季の入った建物。


 そして一階にあるブロンセの部屋の前へ。


「ひひっ。こいつの出番だし」


 と、なぜかベリルはリュックから魔導メガホンを取り出し、逆さまにして壁に当てた。


「なにしてやがる」

「しっ。父ちゃんお静かに。いま報道の自由してっし」


 その意味はわからんが、使い方を間違ってんのだけはわかる。


「ぎっしきっし、あーんあん♪」

「——はあ⁉︎ オメェなんてモンに聞き耳たててやがんだ‼︎」

「いや、ぜんぜん聞きとれてねーってばー。ブロンセ、カノジョできたっぽいし、致しちゃってんじゃねって期待しただけー」


 なんつう期待してんだか。ったく。


「んで?」

「なになに〜、実は父ちゃんもなかの様子気になっちゃってんの〜? めちゃエッチだし。なんなら代わろっか?」

「取り込み中なら出直そうって考えただけだ。テメェといっしょにすんな」

「そーゆーことにしといたげるー。つーか、なんも聞きとれないって言ったじゃーん」

「なら、留守か」

「……ひひっ。ブロンセじゃなくって、女の人っぽい声は聞こえるんだけどねー」


 やっぱり聞こえんじゃねぇか! つうことは……、そういうこったろ。


「——出直すぞ」

「ええー!」

「気まずいだろうが!」

「ヤダヤダ、あーしスクープすんのー!」


 ここまで玄関先で騒げば当然……、ガチャ。


「あの……、なにかご用ですか?」


 ってなるよな。


 扉から姿を覗かせたのは、


「おおーう。ママのおトモダチじゃーん」


 ダークエルフだった。たしか『ルリ』って名の、アンテナショップを遠目に護衛する役割のヤツだったはず。


「ベリル様……、トルトゥーガ様までっ」

「あ、いや、使いを頼もうと思ってな」

「ひひっ。ルリちゃんとブロンセってそーゆー仲だったんだぁ〜」


 ここでブロンセも顔を見せた。


「ねーねー、アンタ前にカノジョいなーいとか言ってなかった〜」

「小悪魔殿これはそのっ……。だ、旦那ぁ」


 んな情けねぇ声出すなよ。あんとき話しておけばよかったもんを。まっ、テメェの自業自得だ。


「ふふ〜ぅん。ルリちゃーん。こんど詳しく聞かしてねー。あーし応援しちゃうし」

「ブロンセ。今回の報告漏れは、のちに詳しく聞き取りすっからよ。へへっ。楽しみにしとけや」


 イジるってぇ方向で気まずさは避けられたわけだが、用件を忘れちゃあならん。



「……つうわけで、タイタニオ殿と込み入った話をせねばならんのだ。悪ぃが先触れを頼む。今回ばっかしは、いつもみてぇにいきなり顔出すってわけにはいかんからよ」

「へい。他にも知らせておくところはありやすかい?」

「できれば、他には知られたくねぇ」

「わかりやした」


 こっちの話が終わると、ベリルは「ふひふひっ」いかがわしいツラで口を開く。


「ルリちゃーん。せっかくイチャコラしてたとこなのにマジごめーん」

「いいえ。これも大事なお勤めですので」


 対してニッコリ笑みを浮かべたルリは、部屋んなかへ戻っていった。

 そのさまに、ベリルの口許はいやらしさを深める。


 たぶんルリはブロンセの他所行きの支度をしてるんだろう。

 それだけでもかなり入り浸ってんのが伝わって……っと、いかんいかん。これじゃあうちのマセガキと変わらんぞ。


「邪魔したな」

「とんでもねぇ。あの、旦那……」

「安心しろ。この件、しばらくオメェの妹(クロームァ)には黙っといてやる」


 コイツにも言いだす時分ってもんがあるだろうしな。


「恩に着やす」

「おう。ベリル、テメェも引っ掻きまわすなよ」

「そんなことしないってー。でもなーんかブロンセってさー、ズルズル引っぱってゴールインまでめちゃ時間かかりそーじゃーん。あんな可愛いコなんだし、ちゃーんと責任とんなきゃだかんねっ」


 そのあたりはオメェよりわかってるだろうさ。

 もし遊び半分でダークエルフに手ぇ出した日にはどんな末路が待ってるか、ってな。

 とはいえ寿命の差もある。ベリルが考えてるほど簡単にはいかねぇよ。

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