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ゲットだし!③


 揺れる船の上、甲板に広げたバンブートレントの木片を手にベリルはうんうん唸ってる。


「思ってたより固いけど、魔力通してもあんまし変わんねーし……。いけると思ったんだけどなー」


 亀素材と同じか、もしくは似たようなモンだと当たりつけてたらしいが、バンブーは魔力に反応を示さない。


「あとさーあ、モノによって通り具合ってゆーのー、違くなーい?」

「面白い着眼点ね。たしかに解凍してから時間が経ったモノの方が魔力の通りは円滑かしら。でもそれはまだ生きているからではなくて?」

「——あっ! なーる。そーかも!」


 俺にはこれっぽっちも興味を引かない会話がつづく。

 もうどっか別んとこにいくか。せっかく船の上にいるんだからよ。海とか潮風を楽しむべきだろ。


 と、この場をあとにしようとしたところで「父ちゃん」とベリルに引き留められた。


「これ、真っ二つにしてー」

「縦にでいいか?」

「お願ーい」


 ねだられたとおり聖剣を鉈代わりに。

 こないだも思ったが、こいつの切れ味は怖いくらいだな。相手の固さなんか無関係に刃を当てた方向へ斬れちまう。使い所は要注意か。


「ねーママ、これなにげに回復魔法でくっ付きそーじゃね?」

「接木と似ているわね。できるとは思うけれど……」

「ちゃうちゃう。元通りじゃなくってー、こう入れ違いとか別んとこ合わせてー……これでやってみて」


 ベリルは半円状に切られたバンブートレントを上下の断面で揃えて、縦に並べた。それを繋ごうとしてんか。

 やっぱりベリルは面白ぇこと考えんな。


 そして治癒の魔法名が唱えられると——


「ふあ! なっげー青竹踏みだし。大成功じゃーん!」

「これがなにかの役に立つのかしら⁇」


 ヒスイは長い半円となった木材を手に首を傾げている。だが、ベリルの意図するどおりなら、こいつぁ実に使い勝手がイイ。


「うひひっ。父ちゃんにはわかっちった感じ?」

「まぁな」

「言ってみー」

「ヘンちくりんなカタチのバンブーを、用途に応じたカタチに変えられるってことだろ」

「だーいせーかーい!」

「まあ。そういうことだったのですね」


 女房にいいところを見せられたようで、なによりだ。

 毎度のことだが、うっとり顔でヒスイはこっちにしなだれかかろうとする。がしかし、


「ママ!」

「ベリルちゃん。少し休憩を——」

「ダーメ。いつまでならくっ付くかとか、試すこといっぱいあるし。父ちゃんとイチャコラご休憩すんのは後にしてっ」


 ベリルに手ぇ引かれて、まだまだ実験に付き合わされるようだ。


 ここは女房に任せて、こんどこそと、俺はバンブーの木っ端が散らばる甲板をあとにした。



 三日三晩、ベリルは飽きずにバンブートレントを弄りつづけていた。それにヒスイも付き合わされる。

 それは、ちぃと珍しい光景だった。

 魔法のことに夢中になる女房と、うんざり気味の娘って画なら見覚えあるんだが、今回は真逆。 


 おかげで俺は気ままに船の上を楽しめたぜ。

 下っ端働きだが縄ぁ引っぱったり帆を広げたり、ときには甲板の掃除なんかも体験した。

 老後は船乗りなんてのもありだな。とか思っちまうくれぇには満喫した。


 そうして再び漁村まで戻ったんだ。


 さて、こっから王都に行ってタイタニオ殿に事情をはなさなきゃあならんわけだが、


「マルガリテちゃんは王都行き決定ねー。他の人たちは船の管理と、迷惑かけた村のお手伝いでもしてて」


 ゲンナリする賊——もとい船乗りたちに、ベリルは「くれぐれも、仲良くするよーに」と釘を刺す。


「ハァ〜……、アタイらこの先どうなるのかねぇ」

「ひひっ。あーしにお任せだし」


 まっ、食いっぱぐれることはねぇだろう。

 そもそもコイツらはミネラリアの外からきた略奪者なんだ。いまのですら贅沢な待遇とも言えるが、数日でも親しくしちまうと、なぁ。


「ベリル。いいか、必ずコイツらの命乞いする方向で進めろ。そこだけは(たが)えるなよ」

「よゆーよゆー。ゆーてタイタニオどのもノリノリになるってー」


 ホントかよ。

 そこらへん、どんな算段立ててるのかは道中にでも確認しとく必要があるな。


 村長から預けていた馬車を受け取り、元賊のことを頼む。

 すると当然、


「……はあ。ええと、領主様はなんと?」

「そいつをいまから聞いてくるんだ。まぁ悪いようにはせんから」


 要領を得ない態度。それも当然か。


「残していくヤツらも心を入れ替えて働くらしいからよ、奪われて損こいたぶんコキ使ってやったらいい」

「あのぉ……申しづらいのですが、ご覧のとおりの寒村ですので、ここまでの大人数を養う蓄えがなく……」

「それなら馬車に積んである食料を置いてくぞ」

「——ま⁉︎」


 俺の申し出にベリルは鼻の穴まで広げて驚きやがった。

 つうか当ったり前だろ。こっちの都合を押しつけてんだからよ。


「お、おおお魚っ、海にいっぱいお魚いるし! お米っ、お米だけは〜っ」

「オメェが言い出したことだろ。なんでもかんでもテメェの思いどおり進むと思うな。わかったか」

「……しゅ〜ん」


 高価なのは知ってる。だがもう大して残ってねぇだろうに。こっちでいくらか追加のカネを渡してやらんと足りんぞ。


 それにしたって最近のベリルは食いすぎだ。それもこれも米のせい。となれば、こいつぁちょうどいい機会ってなもんだ。


「くぅううう……。マルガリテちゃん‼︎ ゼッタイ東方とお米貿易してもらうかんねっ。今回のお米は貸しだし!」

「ァ、アタイ、なんか知らないところで小悪魔オーナーの恨み買っちゃいないかい」

「あーしマジだし。本気でスクリューの船作っちゃるもんねっ」


 ったく。どんだけ米に執着してんだか。

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