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ゲットだし!②


「マジ冒険って感じだし!」


 直に浜へと船を寄せるわけじゃあなく、降ろした小舟に分乗して緑色の小島に上陸——した、直後!


「来るぞ!」

疾風(リッパー)


 返事なんざぁ省いて、ヒスイは風の刃を放つ。

 そうしてからやっと襲ってきたモンの正体がわかった。こいつぁバンブートレントの葉っぱ⁉︎


「おおーう。笹の葉じゃーん。うへぇ、これマジでナイフみたいだしー」


 鞭みてぇにしなる蔓ほどに細く長い枝の先に、物騒なモンを生やしてんだ。そいつでペンペンシュパシュパ仕掛けてきやがる。


「ベリル、下がって他の者に守ってもらえ」

「ほーい」


 これで、とりあえずはテメェのことだけ考えておけばいい。

 と、一息つく間もなく——


「ふおおっ! タケノコミサイル⁉︎」


 地面から鋭い円錐が飛んできた。

 俺は咄嗟に金棒の鞘で叩き落とす。


 振りかえると、ベリルの方はマルガリテたちでも防ぎきれてるようだ。

 ヒスイはといえば、おうおうアイツにしちゃあ珍しく体捌きで対応してんな。


 一発いっぱつは捌けなくもねぇが、いかんせん手数が多い。合間にバンブートレントを切り倒していく余裕なんかねぇぞ。

 こりゃあ撤退すんのにも一苦労しそうだぜ。

 もういっそのこと焼き払っちまったらいいんじゃねぇか。


 こっちは思考も身体も忙しなくしてるっつうのに、ベリルのやつ——


「うっま〜い! タケノコのお刺身マジいけんじゃーん。ちょい大人のビターさが堪ら〜ん」


 うげ。こんどはトレント食ってんのか? 魔物で木だろ、それ。


「父ちゃーん。タケノコ潰さないよーにしてねー。茹でないで食べられるの取ってすぐだけだから。マジでレア食材だし」


 チラリ様子を窺えば、マルガリテたちも呑気に半分にしたタケノコとやらの内側を齧ってやがる。

 それ、オメェらの住まい奪った仇じゃねぇのかよ。ったく。


「あなた、六〇のあいだ守ってくださいまし」

「おうよ。任せとけ!」


 どうやらデカい魔法で片付けるつもりらしい。

 ヒスイが引いたぶんだけ、俺が矢面に立つ。

 

「ひひっ。ママってば、父ちゃんに守られてニッコニコだし」

「もうベリルちゃんったらぁ。ママを揶揄ってはいけません」

「いやんいやん。ママ照れちゃって可愛いし〜」


 ……早くしてくんねぇかな。


 蔓みてぇな枝に繋がってるせいで鋭い葉っぱの攻撃も単調。タケノコなる飛び道具も直線的。だからしばらく()なしとくのくれぇ、どうってことねぇ。 

 だとしてもアイツら、気ぃ緩めすぎだろ。


 ヒュンヒュン切り裂こうとしてくる葉を逸らし、突っ込んでくる尖りを叩き……、ゆうに三〇〇過ぎたくれぇになると——


「〝遍く巡る水の粒よ、気と化けて昇れ。さればかの地は凍てつくであろう……。氷河期(アイスエイジ)〟」


 俺らの周囲を冷凍魔法が襲った。



 瞬く間に、あたり一帯が白銀の世界。



「くっしゅ。ふぃ、寒っ」


「「「……………」」」


 まるで時間が止まったような景色だ。


「さあさあ、いまのうちに必要なぶんを採ってしまいましょう」


 パンパンと、ヒスイはなんでもねぇ様子で手を叩く。と、我に返ったマルガリテとその一党は慌てて働きはじめた。


「触ると手ぇひっ付いちゃうかんねー」


 ベリルにしては気の利いた助言だ。

 これに従って、俺らはカッチコチに凍ったバンブートレントを蹴り倒し、縄を使って船へと運び込んだ。

 かなりの量を得たつもりだが、少し先へ目をやればまだまだ葉や幹に覆われたとこばっかり。

 どうせいま伐採した場所も、次に来る機会があれば元通りなんだろうな。そういう不気味さがある深く暗い緑だ。


「大漁たいりょー。よーし。んじゃ帰ろーう」


 ベリルのやつ、約束守る気あんのか?

 マルガリテたちも俺と同じように見えたらしく「トルトゥーガの旦那ぁ」と不安げな声をあげた。


バンブートレント(こいつ)が使える木材になるっつうんなら刈り尽くすだろうし、役に立たんなら燃やしちまうんじゃねぇか」

「アタイらキッチリ配下に収まるつもりだからさぁ、そこんとこホントに頼むよぉ」

「——こらマルガリテちゃん! ダメっしょ、父ちゃんに色目使ったら。ママが嫉妬しちゃうし」


 いまののどこにそういう色気があった? 微塵もねぇだろ。ムダに煽りやがって。

 ほれみろ。さっきの大規模魔法にブルッたマルガリテはヒスイの目ぇ気にして、一歩二歩と後退(あとずさ)りしてんじゃねぇか。

 で、取り繕うように、


「オ、オマエら、出航だよ!」


 と錨をあげろ大声をあげる。

 こうして無事、目的を果たしての帰還となった。



「おうベリル。あの類のイジりはやめろ」

「そーお。マルガリテちゃんデカパイでキレイ系美人だし、ひひっ、あーし好みだからついつい」


 どういう趣味してやがるんだ、コイツは。


「まあベリルちゃんったら。ああいう蓮っ葉な娘が好みなの?」

「あーゆー強気美人のポンコツシーンとか堪んなくなーい。人魚姫なのにアタイ口調でー、海賊の船長でしょー。設定盛りすぎーな感じも悪くねーし」

「うふふっ。新しいお友達ができてよかったわね」

「まーねー。おウチ帰ったら、まずは衣装をなんとかしてあげなくっちゃ」


 ベリルが思う海賊像に着せ替えさせられるんだろうな。それなりにイイ服だろうし、本人が嫌がらんのなら構わんか。


「んなことより、さっそく実験じっけーん」


 と、ベリルは積荷のバンブートレントのところへヒスイを引っぱっていくのだった。

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