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海に生きる女丈夫⑥


「あなた。私もこの()とお話ししてもいいかしら?」


 そりゃあ構わんが……。


「おおーう。ママ珍しーしー」


 ホントにな。普段ならヒスイはこういうとき口を挟まんのだが。


「うふふっ。珍しいのよ」


 このヒスイとベリルのやり取りに、女丈夫のマルガリテは微かに反応した。


「あなた、魚介種(マーフォーク)の混血よね?」

「まー、ほーく?」

「性別でマーメイドやマーマンなどと呼び分ける場合もあるけれど、海に生きるヒトに近い種をそう呼ぶの」

「ほーほー、マルガリテちゃんは人魚姫さんなのかー」

「…………え? なぜ、それを」


 この口ぶり、ヒスイが言ったマーフォークがどうのじゃあねぇな。ベリルの軽口が思いもよらず核心ついちまったとか、そんなところか。


「そんなんママが物知りだからに決まってるし」

「違うわよ。いまのはベリルちゃんが、彼女を『姫』と呼んだことに驚いているのではなくて」

「ん⁇ ああ〜そーゆーことかー。あーし『人魚姫』って呼んだねー。なんとなーく人魚なら姫かなって思っただけだし」

「あら、面白そうなお話を知っているようね。あとでママにも教えてちょうだいな」

「オッケーイ。つっても、魔女がくれた薬のんで足生えたとか、カレシ寝取ろうとしたの失敗して泡になっちったとか……ん? どっちだけ⁇ とにかくそんくらいしか覚えてなーい」

「そう。ヒトが泡に……ね。塩基に類する魔法なのかしら。それと足が生えた……、身体構造に働きかける魔法の品なんて聞いたことがないわ。アンデッド化との類似点があるのでは…………」


 まぁたヒスイの悪い癖がでた。もうなにを言っても聞こえんだろう。ひとりブツブツと考えに没頭してら。

 さっそく話が頓挫しちまったぞ。


 だが、おかげで一つわかった。それはコイツらがミネラリアの統治下にはねぇ集団だってこと。


「オメェらもヒト種との混血みてぇだが、他所の国の者となると扱いを考え直さなきゃあならんぞ」

「——そんな! アタイら、国とかそんな大それたモンじゃないよっ。ただ小島をアジトに海で自由に生きてきただけさぁ。アタイだって、前の(かしら)の娘ってだけで……」


 だとしても面倒さに大差はねぇ。

 国内の小競り合いなら当事者同士の手打ちで済ませられる。だけども外の者に攻められたって場合は、甘ぇ顔はできんぞ。


 だってのにベリルは『助けてあげる』とか勝手なこと約束しちまったしなぁ……。

 べつに俺としちゃあ反故にしちまっても構わん。手ぇ差し伸べてやる義理はねぇんだからよ。


 一つ大きな救いなのは、ここがタイタニオ殿の飛び地ってことだ。なにかしらの利点を示せられれば、命乞いの目もある。

 

「おうベリル。タイタニオ殿にどう話もってくつもりだ」

「そーゆーの必要なん?」

「そりゃあいるだろ。なにせ飛び地とはいえ、ここはれっきとしたタイタニオ殿の領地なんだからよ。国の外から攻められて『はいそうですか』とはいかんだろ」

「ええー……そーなのー」


 わかってなかったか。


「たとえばコイツらを屈服させて、暮らしてた土地を新たに組み込んだって筋書きにしちまう手もある。これなら戦争に勝利したってオチにできて、タイタニオ殿のメンツも保てるから問題ねぇぞ」

「ふーむふむ」


 これでよくねぇか? もう充分すぎるくれぇ助けてやってんだろ。

 こいつぁハッキリ言ってタダ働き。もちろんタイタニオ殿なら、俺らの働きに感謝して借りに思ってくれるって利はあるだろうが、だからってコイツらの立場まで慮ってやる必要はねぇ。

 なのにベリルは首を捻ってやがるんだ。なにが納得いかんのだ?


「なにを悩んでる」

「海賊たち船ごとゲットのチャンスじゃーん。なーんかイイ方法ないかなーって」


 んなこと考えてたのかよ。

 そういやここまで来たのは船が目的だったな。もっと言えば米を買いに行かせるだったか。


「あの……、いいかい?」


 こっちがマゴついてたら、大人しく黙ってたマルガリテがおずおず口を開いた。


「弁えた発言なら構わんぞ」

「——父ちゃんっ。女の子にそんな怖い顔したら可哀想じゃん。メッだし、メッ」


 おい待て。オメェさっきまで、さんざん脅かしたり圧かけたりしてたよな。

 あとコイツが女の子だぁあ? いまは縛られちゃあいるけどな、かなりの女丈夫だぞ。テメェの親父に海の魔物を嗾けてきたのを忘れたんか。


「でー、なーにー? 言ってみ」

「聞いてるとさぁ、いまんとこアタイらにはロクな未来が待ってない気がしてねぇ……。ホントに助けてもらえるのかい?」

「なにをもって助けるなのかは議論の余地がありそーだけどー」


 まぁたコイツは悪ぶった言い方しやがって。


「マルガリテちゃんたちは、暮らしてた小島を取り戻せて、あとは船乗って生活できたらいーんでしょー。なら、あーしに任しとけばいーし。悪ぃーよーにはしないからさ〜」

「頼むよ! うちの者たちだけは助けてやっておくれっ。さすがに生きたまま食われるのはごめんだけどさぁ、アタイの身が売られるくらいの覚悟はできて——」

「そんなことしないし‼︎ いまのマジでイラッとしたかんねっ。気ぃつけてっ」

「……ぁ、ああ」

「まったくもー。ホント失礼しちゃーう」


 と、プンスカしたベリルだが、コロッと態度を変えて話をつづける。


「つーか、マルガリテちゃんちまで船でどんくらい?」

「……ここからなら三日もあればつくかねぇ。細かいところは海と空にでも聞いとくれ」

「やっぱし帆なのかー。ひひっ、そのうちスクリューつけて改造しちゃおっ」


 ベリルのやつ、またよからんことを企んでやがる。


「父ちゃーん」

「まさかその島に寄ってけってか?」

「当ったり前じゃーん」


 エビルキャンサーにつづいて、バンブートレント退治かよ。


「オメェ、ちぃと人使い荒すぎねぇか」

「ひひっ」


 ったく。性悪なツラ見せやがってからに。

 とはいえ、こうも親父の頑丈さを信頼されたんじゃあ断りきれんか。


 こうして追加の寄り道。バンブートレントの生い茂る小島へと向かうことになった。

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