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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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海に生きる女丈夫②


 なんつう時分に来ちまったんだ……。


「おいベリル。テメェが余計なこと言うからだぞ」

「いやいや父ちゃんだってばー。やっぱモってるねー。間違いねーって、これ父ちゃんのヒキだし」

「あらあら。長閑(のどか)と聞いていましたけれど、賑々しいところなのですね」


 賑々しいっつうより……、到着した漁村は略奪の真っ最中だった。


 見る限り賊共は、武器持って抵抗しなけば怪我くれぇで済ましてるようだ。どっちかってぇと金品を奪うよりかは食い物に夢中で、取り上げたその場で腹に収めちまってるほど。

 あまりに雑な乱暴取りで、身内同士の騒動にも見えなくもねぇ。ちぃとどういう事情か掴みかねるな。


「ねーねー父ちゃーん。どーすんのー?」

「他領のことだしな」

「助けてあげたらいーのにー」

「小競り合いの流れでって可能性もある。考えなしに介入できんぞ」

「いやいや、あれ海賊だってー。あーし知ってるもん。三角帽子と腰巻きないけどゼッタイそーだし」


 ヒスイの意見を目で窺うと、ニッコリされるだけ。意味は『お任せします』だろう。


 さぁて、どうしたもんか。

 腕まくりして出張ってみた挙句、とんだお節介だったってこともあるだろう。おおかたそうなると俺は踏んでる。

 だがな……。見ちまったからには知らんぷりもどうかとも思っちまう。


 経緯がわからん以上ヘタなマネはできん。こないだポルタシオ閣下にも釘刺されたばっかりだしな。


 静観する。こう俺なりの結論を出した。

 だが——


「こらぁー‼︎ 海賊やめなさーい!」


 遅かった。ベリルが突っこんじまってたんだ。いつの間にやら気配を消して、ずいぶんと先まで進んじまってやがる。


「チッ。あのバカたれ」


 食い意地張るにも限度があんだろうが!


「ヒスイ、馬車を頼む」

「ええ、あなた。いってらあ」


 っんと、緊張感のねぇ女房だな。

 俺は聖剣——金棒の鞘付き——を手に、すぐさま追いかけた。


 騒動の渦中へ飛び込んだベリルは、一番手前にいた賊にギャンギャン文句つけてる。

 ソイツは口をモグモグさせたまんま村民に蹴り入れたりして、踞って大事そうに抱える食い物を無理やり奪おうとしてるんだ。


 いまはちんまいベリルを無視してるが、いつ乱暴なマネされるかわかったもんじゃねぇ。


「ベリル!」

「父ちゃんっ。早くはやくー。この人やっつけちゃってー」


 バカ。呑気にこっち向くな。


「なんだオマエ。邪魔するつもりか」

「ベリル、バリヤーは使うな!」


 賊は俺に気づくと、間抜けに傾げたベリルの首へ手を伸ばす。

 テメェはたったいま俺の敵になったぞ。ならヤッちまっても構わんよな。なぁに手加減はしてやるさ。


 瞬時に魔力を巡らせ——加速。

 視界が景色を置き去りに。あらゆるモンの輪郭がブレる。

 うちの娘に危害を加えようってぇ不届き者の手首を掴み、捻りあげた。


「ゔ痛っ、ててて、っ」


 まだまだ賊はうじゃうじゃいるんで、この野郎は腹ぁ蹴っ飛ばして黙らせた。


「おおーう。さっすが父ちゃーん」

「——危ねぇだろ!」


 いかんな。思わず怒鳴っちまったぜ。

 ベリルがシュンとすんのは構わん。まだ叱り足りんくれぇだ。

 だが、んなことより問題なのは、デカい声だしたせいで他の賊たちの注意を引いちまったこと。


「おう。説教は後回しだ。ちぃと雑に扱うけど勘弁な」

「は?」


 またキョトンとしてるベリルを腰から掬いあげたら、


「ヒスイ! 受け取れ——」

「え⁉︎ ————ひぇ、ひえぇええええぇぇ〜っ。マ〜ジありえなぁあああぁぁ〜い‼︎」


 女房んところへぶん投げた。

 無事に受け止められたようで、一安心。あとでギャンギャン文句言ってきそうだが、その倍は説教してやる。

 

 さぁて、こっからどうしたもんか。

 賊にグルリ囲まれちまった。乱取りの手際は悪かったが、だからって雑魚ばかりってわけでもねぇらしい。

 いまいちどういう集団か察しがつかん。

 だが、コイツらの鍛えあげられたガタイ、俺が敵とみるや切り替えるところなんか戦い慣れてやがる。


 穏便に——つっても多少の怪我はさせちまうが——済ませるのは難しそうだ。


「お退きっ」


 それを割って現れたのは、蓮っ葉な若い女。

 まさかコイツが(かしら)か?


「姐さんにかかっちゃあオマエも終いだ」

「んだんだ。姐さんの従魔はスゲェんだぞ」

「エビルキャンサーのハサミで真っ二つだぜ」


 やはり頭らしい。そんでもって魔物を従えてるそうだ。あとは配下にした魔物はハサミがあるエビルキャンサー、と。


「バカども! なに勝手にペラペラとっ。アタイの手のうちバラしちまうんじゃないよ!」


「「「さぁせん、姐さん!」」」


 アホばかりみてぇだが、しっかり統率取れてるじゃねぇか。この女丈夫の力量は見た目よりも高く見積もった方がよさそうだな。


「でぇ、アンタァどういうつもりでアタイらの邪魔したんだぃ?」

「邪魔ってぇほどでもねぇだろ。俺らぁわざわざ王都から寄り道して魚を食いにきたんだ。そしたら困ったことにオメェらが漁村を襲ってるじゃねぇか」

「——ハ? まさかそんな理由でアタイらに手ぇ出したとは言わないよねぇ」

「すまんが、そのまさかだ」


 正しくはうちの問題幼児が首突っ込んだからなんだが、話がややこしくなる。訂正はいらんだろ。


 賊共、会話の最中にもジリジリ包囲を狭めてきてるじゃねぇか。まるで獲物でも追い込むみてぇによぉ。


「アタイらも嘗められたもんだねぇ」

「ハハッ。そんなつもりはねぇ。おおそうだ、アンタらが船出して魚取ってきてくれるってんなら買い取るぞ。奪った干物もな。あとはちょいと船を見学させてくれたら大人しく引き上げるが、どうだい?」

「アンタらをバラして財布ごと奪っちまうって方法もあると思うんだけどねぇ。そこんとこまで頭はまわらなかったのかぃ?」

「あまりオススメせん方法だな」


 こっちの力量についちゃあ底まで読めてねぇにしても、上辺くれぇは察してるって感じか。

 だが配下共はそうでねぇようだ。


「姐さん! この野郎嘗めてやすぜ」

「さっさとヤッちまいましょう」

「おい、あっちの馬車にいる女、ぐへへ、かなりの別嬪だぞ」

「コイツらは漁村の者じゃねぇ。割り込んできたお節介ヤロウだ。ってことで姐さん、今回ばっかりはいいっすよね? 連れの女ァ、アッシらで楽しんじま——っっ⁉︎」


 ここらの田舎じゃあ、大魔導どころかダークエルフについてすら知らんらしい。


「——んぷッ⁉︎」


 まっ、それと俺の気分は別問題だ。しょうもねぇこと垂れ流す口を——


「「「——っ⁉︎」」」


 直に塞いでやった。


 ほぉう。意外と元気じゃねぇか。顔面掴んで持ち上げてやってんのに、まぁだモゴモゴ言ってやがる。


 ここで安易に手ぇ出してこねぇところをみると、身内には甘い連中らしい。


「おう三下。今生最後のセリフはさっきのでいいんか?」

「——っ、——っ‼︎」

「うんとかすんとか抜かしたらどうだい。せめて頷くとかよぉ。ォオン? このまま頭引っこ抜かれるかツラァ握り潰されるか、好きな方を選ばせてやるぜ」


 我ながら余裕かましてるが、もしヒスイの方に行っちまったらって心配はねぇ。

 だってあっちの方が間違いなく地獄。もれなく試したがってた魔法の実験体だ。地面の上で溺れるってぇ珍しい体験が待ってんだからよ。


 いまんところ賊の注意はぜんぶ俺に向けられてる。このあとはどうしてやろうか。

 とりあえず身の程知らずが泡吹いたところで地面にポイッと。さらにダメ押しの一発に蹴りでもくれてやろうとしたところへ——


「待ちな!」


 と制止の声がかかるも、


「俺に言ってんのか?」


 待ってやらずに蹴り転がしてやった。

 足止めすんなら元気な負傷者こさえてやるのが一番だもんな。


「アンタ以外誰がいるのさっ」

「で、なんだ。詫びでも入れて子分の命乞いでもすんのか? べつにそれでも構わんけどよ。いまなら一人につき魚一匹で許してやるぞ」

「バカにしてくれるじゃあないかぁ。アタイの得手を聞いてなかったのかい!」


 声を荒げた直後、女丈夫は指笛を鳴らす。


 すると、ザバッと海面から頭を覗かせた赤茶色の魔物が浜へとあがってきた。

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