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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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海に生きる女丈夫①


 用事も片付いたんで、俺らは半月余り滞在した王都をあとにした。


 しっかしイエーロのやつ、アッサリ送り出しやがったな。もうちょい寂しがりゃあ可愛げがあんのに、最後に一杯やろうぜって誘いもなくだぞ。

 アンテナショップが忙しいのはわかるがよぉ、見送りなしはあまりに素っ気なくねぇか。アイツも大人になったってことなんだろけど、母ちゃんが寂しがるとか考えてやればいいもんを。

 まっ、手紙のやり取りも頻繁だし元気にしてるツラも見れたんだから、べつに構わんのだがな。


 でだ、俺としちゃあこのまんまトルトゥーガへ戻りてぇところ。だけども……、


「父ちゃん、海うみうみうみ〜」


 まだベリルは漁村へ寄ってくって話を覚えてやがったんだ。むしろ出発を急かすほど楽しみにしてるんで、いまさらなしとは言えんかった。


「なんなら、おウチ帰ってから魔導トライクでいくのでもーいーし」


 んな面倒なマネするか。帰ぇったら余計に出掛けたくなくなっちまう。


 で、結局は馬車でトロコロと漁村へ向かうことに。


 だいたい十日前後の退屈な道のり。

 気ぃ張ってた日々のせいか落差もあって、アクビが出ちまう。


 ヒスイはまた馬車んなかで、


「オメェもなか入ってろ」

「ヤっ。もーちょい進んだらピラミッド山でしょー。こないだちゃんと見れなかったし、今回は見とこーかなーって」


 っつう理由でベリルは御者台。俺の膝のあいだで喧しくしてる。


「あと、馬車んなか狭いし」


 そりゃあオメェが買い込みすぎたせいだ。

 米は言うまでもなく、乾物やら調味料やらも山ほど積んである。こないだ魔導トライクを供物にして得たカネでこれでもかと、しこたま買い込みやがったんだ。

 

「オメェはホント考えなしだな」

「はあー? あーしほど頭使ってる六歳児いねーっしょ」

「そうかぁ? これから漁村に向かうってのに、もう荷を積む余裕が残っとらんぞ」

「——は⁉︎ お魚っ。干物っ」


 そういうこった。寄り道して帰るんだから、領地の者らに土産の一つでもあって然るべきだろ。


「父ちゃん!」

「なんだ」

「すぐ戻って! トルトゥーガ軍団全員出動だしっ」


 どんだけ買ってく気だ。


「んな食いきれるか。腐れちまうだろうが」

「てひひ。そっかそっかー」


 だから考えなしって言ったんだよ。ったく。

 

 こんな具合にベリルの他愛もない戯言に付き合ってると、


「おおーう! やっぱしピラミッドじゃーん。どー見ても四角錐ってやつだし。木ぃボーボーに生えてっけど」


 ラベリント領の山が見えてきた。あのアンデッドが根城にしてたダンジョンがある山だ。


「いまのうち見納めしておけ」

「そーいや、あの山潰しちゃうんだっけ?」

「正しくは内部のダンジョンを埋めちまう、だな。中の空洞がなくなったぶん山の形は変わるんじゃねぇか」


 どんくらい奥深くまでつづく迷路になってるかは知らんけど。


「ちゃんと調べたら歴史的発見(はっけーん)とかありそーなのにー」

「んなことして、万が一にも俺らが過去の歴史になっちまっちゃあしかたあるめぇ」

「おお〜う。父ちゃんってば、なんかカッコいいっぽいこと言ってるし。マジ似合わねーの〜」


 うっせ。なんか恥ずかしくなるからそういうツッコミ入れんなや。


 焼け野原になってた旧ラベリント領は、いまは王家直轄地で、とりあえず土地を均すってとこまでは進んでるようだ。

 つまり、ほぼなんもねぇ。


「ポツンと教会あって、あとは見張りの兵隊さんのテントが少しだけかー」

「アンデッドで大賑わいの街並みより、こっちの方が遥かにマシだろ」

「たしかにー。ゾンビいっぱいだったもんねー。マジグロでビビったし」


 ちっとも怖がってたようには見えんかったが。つっても、あんときはベリルも必死だったもんな。

 銅貨を投げるって機転がなきゃあ……いまさら考えても詮のねぇことか。もう済んだことだしな。


「ちぃと日暮れには早ぇが、せっかくだし寄ってくかい?」

「いやいや父ちゃん、新鮮なお魚さんたちがあーしを待ってるし」


 近頃のベリルは食い気が勝りすぎてねぇか。少しデブってきてるしよ。

 言うと拗ねるから黙っとくけど。



「なんもトラブル起こらないといーねー」


 縁起でもねぇ。


「やめてくれ。そういうこと言ってると、フラグってやつになっちまうだろうが」

「ひひっ。この前はホネホネゾンビやっつけたし、次はデッカいイカとか魚とか? あーし的にはイカも魚も捨てがたいけど、エビとかカニがいーなー」


 テメェは魔物の話してんのか食いモンの話してんのか、どっちだよ。


「カニとエビかい。聞かんな」

「固い殻の中身がめちゃ美味いしーやつだし。脚とかパキッてして食べんの」


 食いモンの話だった。

 つうかよ、パッと想像した感じ……。


「それって虫じゃあねぇのかい?」

「ぜんぜん違ーう! 身体が節に分かれてて、なかのほんのり赤みががった白い身とかミソとかめちゃ美味(うま)だもんっ。あとハサミついててカッコイイし」


 …………それ虫だろ。海んなかに住んでるって違いだけじゃねぇか。


「俺ぁ遠慮しとく」

「ふーん。あとで『一口ちょーだい』っておねだりしてきても分けてあげないかんねー」

「ああ、ぜひそうしてくれ」


 他者(ひと)の食い物にとやかく言う趣味はねぇが、選べるんなら食い慣れたモンがいい。


「お刺身にしたらめっちゃ美味しーのにー」

「サシミ?」

「んんーと、捌いて生で食べる感じ」


 本気か? んなもん生臭くって食えたモンじゃあねぇだろ。


「ヒスイがいるから生命(いのち)に関わるようなことにはならんと思うがよ、腹ぁ壊しちわねぇか?」

「新鮮ならヘーキヘーキ。いちおーカチコチに凍らしてから解凍すっし〜」


 ったく。妙なモンを食いたがるやつだぜ。


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