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スポンサーめぐり⑤


 さて、スッカリ影が薄くなっちまってる魔導三輪車(トライク)だが、ちょうどいまベリル連れて教会に向かってるとこだ。忘れちゃあいねぇよ。


 逆に忘れちまいてぇ案件もある。

 勇者認定の式典だ。とうとう日時が決まっちまって、スモウ大会の前にミネラリアの諸侯を集めて行われるそうだ。

 すぐかと思ってた面倒事が先になったことを喜ぶべきか、それとも先々に億劫なことが待ってると滅入るべきか……。


「ねー父ちゃーん。わざわざ馬車で運ばなくってもよかったんじゃね?」

「まさか王都であんなもん乗りまわすわけにいかんだろ」

「——あんなもんとか言っちゃヤッ。マジ失礼だし」


 おっと失言だったかい。


「これからお供え物にすんだかんね。なのにホントありえねーし」

「んな、怒んなよ。悪かったって」

「つーか今回は、前に手ぶらでごめんなさいしたときの埋め合わせなんだかんねっ。そこんとこちゃーんとわかっててくんなきゃメッだし」

「はいはい」


 しつけぇヤツだな。ったく。


「しっかしあれだな」

「なにさー」

「いまさらだが、例の素材ってそのまんまだと案外脆いよな」

「そーかもねー。ホネホネゾンビにバラバラにされちゃってたし」


 あんとき魔導トライクを粉々にしたのはヒスイの魔法だったはず。ま、細けぇことはいいや。


「ほれ、山から降ったときも壁にぶつかってブッ壊れただろ」

「ふーむ。そー考えると、やっぱし丈夫な素材がなきゃか〜……。それも含めて神官長さんに聞いてみるし」


 ちょっと待て。


「含めてってこたぁ、あれか? なんぞ訊ねることがあるってことだよな」

「あーそれねー。ここらへんに竹生えてないか聞こうと思ってー」

「タケ?」

「んんーと木材? なのかな……、あっ。もう教会だし、神官長さんに話すとき教えてあげっから」


 なんだよ。木か。なら問題なさそうだな。

 こんどはいったいどんな物騒なこと考えてんのかって身構えちまったぜ。



「ひひっ。またお小遣いもらっちったし」


 真っ先に供えた魔導トライクの評価は——金貨五〇枚。フンッ、んな大金くれぇで俺ぁもう驚かねぇぞ。

 ほれベリル、さっさとしまっちまえ。いや、つうかまず貯金すべきか。コイツに持たしておくとロクなことに使わんからな。


「ほっほっほ。ベリル様は神に愛されてらっしゃるのですな」


 神官長殿がさっそく預金の対応してくれた。

 ふぅ……やっと落ち着けるぜ。


「して、今日はラベリント領でのお詫びにいらしたと伺いましたが」

「あーし、神官長さんに教えてもらいたいことあってー。いま時間だいじょーぶ?」

「ええ。さほど混み合ってはおりませんので」


 神官長殿の物腰みてると、仮に忙しくてもベリルの相手をしてくれそうだと感じた。


「それに……聖剣の勇者様を拒む門は我々にはございません」


 間が気になるが、おおよそ印象どおりか。


「ムリなときはムリって言ってほしーし。あーし、ムチャ言うのとかヤだかんねー」

「はい。承知しました。では、あちらの席でよろしいですか? それとも……」

「おうベリル。外に漏れても問題ねぇ話なんだろ」

「うん。ヘーキー」


 ということで、俺らは勧められた席に腰を落ち着けた。


「まずは分度器定規にまつわるお話からさせていただいてもよろしいでしょうか」

「そーいやお供えしてくれるって言ってたよねー。で、どーなったーん」

「その件なのですが、先日、ベリル様は重さの基準について触れられていたと記憶しております」


 あったな。一センチかける一センチかける一センチとかなんとか言ってた覚えがある。で、それがどうした?


「たとえばですが、その根拠を硬貨に置き換えることは可能でしょうか」

「どしてー?」

「仰られた方法は乗算を用いた立方で水の量を測ることになるかと」

「なるし。あっ、温度で水の体積変わるとかそーゆーの気にしてるってことかー」

「え、いえ……水の嵩は温度で変わるのですか? 存じませんでした」


 たぶん神官長は、どこを測っても一センチ四方の枡を用意すんのは至難だと指摘してんだろう。


「べつに水にこだわる必要ねぇやな」

「他にどこにでもあるモンなくなーい」

「硬貨があるだろ。銅貨ならたいていの者は持ってるし、重さは変わらん」

「そっかそっかーそーかもしんなーい。父ちゃんあったまいー……ん? なら最初っから銅貨一枚ぶんの重さとかでいーんじゃね?」

「ええ。ですので分度器定規を広めるにあたり、併せて重さの値も『センチ』や『ミリ』に似たなにかを定めていただけたらと」

「なら、銅貨二枚で一〇グラムで。たしかそんなもんだったはずー。測ったことねーけど」

「とういうことは銅貨二枚で一センチ四方の水が十個と同程度の重さ、ということでございますな」

「たぶん。心配なら測ってみてー」


 この他人任せなベリルの物言いにも、


「ありがとうございます。では、こちらで確かめたうえで神に許しを得て、そののちに分度器定規と共に広めてまいります」


 恭しい態度だ。

 聖女云々があってなのはわかるけどよ、やめてくんねぇかな。そうやって(おだ)てるとベリルはすぐ図に乗っちまう。

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