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スポンサーまわり④


 結論から言やぁ、ベリルが話したチビたちの境遇はそこそこボカした内容だった。

 その程度の配慮はあって然りなんだが、なぜかタイタニオ殿はやや不満げ。

 ったく。そこまでして末娘に甘えられてぇんか。呆れるぜ。どいつもこいつも目的のために手段を選ばんのだな。


 しかしチャリティーの概要を知った効果はてきめんで、気の毒な子たちの役に立つんだとプレシア嬢は奮いたってる。


「このシャツをオススメすると、プレシアと同じくらいの子たちの助けになるのですね」


 満足にメシが食えん子供がいるなんて、いままで考えたことすらなかったんだろうな。それだけでスゲェ衝撃を受けてたくれぇだ。

 さらには学院に通うことで同年代の少年少女と知り合ってたこともあり、想像が膨んじまったのかもしれん。


「お父さま。もうプレシアはお小遣いいりません。ですから——」


 だから恵まれん子らに与えてくれってプレシア嬢の発言に、タイタニオ殿は愕然。なにも言えずワナワナ震えてる。

 たぶん娘に小遣いやるのも親父としての喜びだったんだろう。俺にはまったく理解できんが。


 グイグイくるプレシア嬢にタジタジ。そこへベリルは「ちょい待ち」と待ったをかける。

 で、なにを話すかと思えば、


「プレシアちゃんは教会にいったことある?」


 ぜんぜん関係なさそうな話。


「……はい。お父さまに連れられて、なんどか」

「そっかー。んじゃーお供え物するとこ見たことは?」


 意図がサッパリでも、素直なプレシア嬢は聞かれたことにコクリ。頷いた。

 これがベリルなら『はあ? なにそれ。質問の意図がわっかりましぇ〜ん』などと生意気を——っと、いかんいかん。まだ話の最中だったな。


「あーしも神官長さんに教えてもらったんだけどねー、お供え物って、父ちゃんとかママに買ってもらったモノはダメなんだってー」

「そうなのですね」

「らしーよー。でね、その理由ってのがー」


 語ってく道筋は迷子のまんま。それでも興味深いってんでプレシア嬢は、たっぷり間をおくベリルが紡ぐ言葉を待つ。


「女神さまへじゃなくってー、父ちゃんとかママがあーしのために買ってくれたモンだから、だってー。たしかにそーゆーのもらっても女神さま困っちゃうもんねー」

「…………あっ」


 聡いな。これだけ遠回しな話でも、伝えてぇところは伝わったようだ。


「お父さまがくださったお気持ち、プレシアが他の人にあげてしまったらいけませんね」

「そゆことー」


 本当はテメェで稼がせて『チビたちの自立を促す云々』って理由もあるんだが、そこは相手の年齢に合わせてってつもりなんだろう。いわゆる方便ってやつだな。

 しかしベリルがやると、なんだか詐欺っぽく聞こえちまうのは俺の気のせいだろうか。


「だからね、プレシアちゃんの気持ちは、ちゃーんとプレシアちゃんの働きで示してあげるべきだし」

「はい。プレシアはガンバっていっぱいオススメします」

「んんーと、ほどほどでいーかんねー。あんまオススメされすぎっと、なんとなく『いらね』ってなっちゃうしー」

「……そういうものなのですか?」

「ものだし。つーか、プレシアちゃん可愛んだから、シャツ着てくれて普通にオシャレするだけで話題になるってー。ねータイタニオどのー」


 ベリルの問いに返ってきたのは、これまで見たなかで一番の、渾身の「うむ」だった。


「して、ベリル嬢。件のシャツはいかほどなのだ?」

「ひひっ。いくらだと思う?」


 これはワル商人ことノウロですら、誤った見立てだ。

 さぁて、タイタニオ殿ほどの金持ちはいったいどう評価する?


「大銀貨三枚、と答えるのが妥当なのであろうな」

「やっぱしわかっちゃうかー。ヒントが多かったもんねー」

「であるな。ベリル嬢の意匠を元にサストロが図を引いたのあろう? そう考えるといくら数が作れるとはいえ、大銀貨二枚を切るのが精一杯なのではないか。見る限り、縫製も大変手が込んでいるようだ」

「魔導ミシン使ってっからねー。でもでもなんと! 気になるお値段は銀貨三枚ポッキリ!」


 言い方……。途端に如何わしく聞こえちまったぞ。


「それは、スゴイな」

「あーし的には三万円って感じだから、そこまで安くないんだけどー」


 そうは言うがな、タイタニオ殿が語彙を失うくれぇの値だ。さらにいえば品自体の評価も高かったからなおさらイイ反応でもある。


「ベリル様。このシャツは子供の大きさだけなのですか?」

「ひひっ。大人用のサイズもあるし」

「では——」

「とりあえず百着だ‼︎ 私のシャツももらおうではないか。素晴らしい出来の服が手頃であり、買うたびに慈善活動に貢献できるのだ。これほど良いことはない。必然的にプレシアとお揃いにはなってしまうが、モノが服飾の基本とも言えるシャツなのだからな。うむ。お揃いになっても気にはすまい。うむうむ」


 最後のが本音か。


 あーあ。いまの、待ってりゃあプレシア嬢が『お父さまへ』って贈り物してくれたと思うぞ。ちぃと残念そうな顔してるしな。

 そんな親子の行き違いなんぞ気にせず、


「だからまだそんなに作れないってばー。てゆーか今日は三着プレゼントしちゃうし」

「私とプレシアと……、オパーリアのぶんもかね?」

「せいかーい。お姉ちゃんたちのぶんはサイズわかんないし、またこんどってことで。てかプレシアちゃんママめっちゃゴージャス系美人だしー、ママ友のあいだで流行らしてくれっかなーって」


 ここでタイタニオ殿は微かにだが、残念そうというか期待が外れたような顔を覗かせた。


「ふむ。最初のうちは流行るであろうな」

「ひひっ。そーゆーことねー。流行んのは、はじめだけでオッケーだもーん」

「というと?」


 スゲェ細かく、でもタイタニオ殿の表情がコロコロ変わってく。


「そもそも狙ってる客層が違うし。タイタニオどのみたいなお金持ちじゃなくってー、普通の若い人たちがターゲットなの」

「ほう。目新しさがなくなれば裕福な層が離れることまで計算ずくとはな」

「まーねー。いわゆる隙間産業ってやつ。だから最初に高品質だけどお手頃みたいなブランドイメージついちゃえば充分なわけー。このあとに作ってく服も、いろいろオシャレ楽しみたい年頃のコたち狙いの服だし〜」

「となると売れる数の桁が変わる、か」

「そゆこと〜。あーしとしては百人のお金持ちだけに着てもらうより、一万人の『オシャレしたいけどおカネが……』って人に着てほしーもーん」


 ベリルは打算を明け透けにしちまった。


 前回はタイタニオ殿のツテを辿ったおかげで、装飾品のときは市井を飛び越え一気に王宮まで噂を広めてくれたからな。期待は大だ。


 やや会話を咀嚼する時間が空き、それからしみじみと言葉は紡がれた。


「しかし、ベリル嬢はよく考えるものだな」

「なんの話?」

「シャツについてもそうだが、そもそも福祉などの事業は税で賄うものだ。それを贅沢品を売ることで得ようとするとは……。加えてその子らの行く末まで視野に入れてとなると、どのような治世を記した書でも参考にはなるまい。まるで世の先々まで見てきたようではないか。そう……。かの初代皇帝(・・・・・・)のように」


 おっと、やっぱり油断ならん御仁だな。さっきまでの親バカのまんまでいりゃあいいもんを。

 だが、ベリルはそんな緊張感を裏に隠した物言いなんか「なにそれー」と、どこ吹く風。


「ひひっ。あーしいつか小悪魔大帝とか呼ばれちゃう感じー? てかすでに『シェフ』でしょー『会長』と『理事長』と、あと『司令』もあるしー。そろそろ肩書き多すぎじゃね」


 ぜんぶ自称だけどな。つうか司令ってなんだよ。まさか俺らをアゴで使うつもりか? んなもん真っ平ごめんだぞ。


「いやすまん。いまのは忘れてくれ。ただ『私も気にしている』と、それだけをトルトゥーガ殿には知っておいてほしかったのだ」

「恩に着ます。ぜひ、これからも変わらぬお付き合いを」

「無論だ。こちらこそよろしく頼む。まずは、魔導歯車にスモウ大会、それにベリル嬢の意匠した衣服か。しばらくは盛りだくさんであるな」

「プレシアもお手伝いします」

「そいつぁ心強ぇ」


 と、タイタニオ殿との会談を締めくくった。

 あとはしばしプレシア嬢にモデルとやらになってもらい、


「ファッションショーだし」


 に付き合ったのち、俺らはお(いとま)した。

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