スポンサーめぐり③
タイタニオ殿は、スモウ大会の出し物関連の後援をアッサリ頷いてくれた。
「費用対効果バツグンだし」
「フッフッフ。まったく、ベリル嬢の悪知恵には恐れいる」
「ふっひっひ。タイタニオどのほどじゃねーし」
悪どい顔が向かい合ってる。
二人がいったいどんな悪巧みしてんのかってぇと、至って良識的な企てだ。賭けの胴元をタイタニオ殿が引き受けてくれるっつう話。
その収益は賭け金の一割。とはいえリリウム領でやったスモウ大会とは規模が違う。なにせ王都でやるんだからな。
で、タイタニオ殿はその稼ぎを丸ごとチビたちの費用にって寄付してくださるそうだ。
だから利益はねぇが、実際に出すのは人手なんかの費用だけで済む。もちろん動かすカネがデケェから桁違いの種銭は必要になるが、それだけで各方面からの信頼や尊敬、そして大きな名誉を得られると勘定したらしい。
「して、ベリル嬢。その不憫な少年少女たちを養育する施設はなんというのだ?」
「ああー、そーいや名前まだ決めてなかったし」
「まずは呼称から決めんとな。広く資金を募るにしても、ゆくゆくは巣立つ子らが職に就く際にも、出身は明らかな方が有利であろう」
「なーる。てゆーと、あんまし可哀想って思われない名前の方がいーかもー」
またケッタイな名称つけそうだな。
「おいベリル」
「なーに父ちゃん。なんかアイディアあんの?」
「いや、これといってねぇがよ」
なんの代案もなく、まとも名付けしろとは言えんか。
「とりあえず『チビっ子ハウス』っことでー」
「ほお。チビたちの家って意味だよな。ほんのりと実情が伝わってきて、いいんじゃねぇか」
という具合に深く考えることなく、これから営んでくチビたちの養育施設の名が決まった。
それとちょうど同じくらいの時分に、応接間のドアが——コンコン、と。
プレシア嬢が帰ってきたらしい。
「お父さま! ベリル様がいらしていると——」
「こらこらプレシア。気持ちが逸るのはわかるが、先に挨拶をなさい」
「あっ……てへへ。トルトゥーガ様、ベリル様、ごきげんよう」
「ごっきげんよーう! てかめっちゃ久しぶりー。てかてかなにそれなにそれガッコの制服? マジ可愛いんだけどー」
相変わらずの昂りようで、ベリルはプレシア嬢の手をとりブンブンブン。まるで一年前の焼き直しみてぇだ。
だが、ちぃとばかし身長差は開いてる。
「プレシアには、まだ大きいので……ヘンじゃないですか?」
「だから可愛いってー。ふへへぇ……ちょいブカッとした感じ、マジたまんねッスわー」
「えへ……なんだか、恥ずかしい」
引っ込み思案も変わらずか。
「ヤバッ。マジいまのキュンしたし」
「おいベリル。いつまでも手ぇ握ってたら、プレシア嬢が座れんだろ」
「おっといけね」
ベリルはしれっと握ったままの手ぇ引いて、自分の隣へ。タイタニオ殿から向けられる『え、そっち?』って視線なんかお構いなしで。
「でねー。さっそくだけどお願いあってー」
「プレシアに、ですか?」
「そーそー。実はさー」
と、ベリルが切り出したのは、
「あーしが着てるシャツ、プレシアちゃんにも着てほしーんだよねー」
自ら手掛けてる服の宣伝か? おいおい、いくらなんでもいきなり不躾すぎだろ。
「ステキなシャツですけれど、プレシアのお小遣いで買えるでしょうか?」
「んーんー。買ってって話じゃなくってー、プレゼントしちゃうし。でー、モデルさんになってほしーのっ」
「モデル、さん?」
「えっとねー、服を着て宣伝する人っ。スタイル抜群の美人さんがするお仕事でー、それ見たコたちは『あんなふーに可愛くなりたーい』って欲しくなっちゃうし」
この説明を聞いたプレシア嬢の反応は……、語るまでもねぇやな。耳まで真っ赤にして「プ、プレシアにはムリです」とポツリ呟き、俯いちまった。
だが、この程度はベリルも想定の範疇のようで、むしろさっきのは別方向へ投げかけた口説き文句だろう。
「——百着もらおう。まずは百だ!」
ほれやっぱり。
つづく親バカな反応に、性悪娘は「ひひっ」とほくそ笑む。
「いやいやタイタニオどのー、そんなたくさん作れねーし。つーかねプレシアちゃん、プレシアちゃんにはシャツ着てもらって『それ可愛い、どこの?』って聞かれたときに、あーしのブランドって教えてあげてほしーのっ」
「で、でも……」
まだまだ羞恥心に囚われたまんま。
「私はプレシアならと思うがな。それに、ベリル嬢たっての願いなのだぞ」
するとプレシア嬢、テメェの親父は頼りにならんと、ウルウルに潤んだパッチリお目々でもって俺に助けを求める上目遣い。
なるほど逸材だ。ベリルの目利きは確かってことらしい。しかしな、
「ベリル、あんまりムチャ言うなや。困ってんだろ」
本人が望まねぇんだ。無理強いはやめとけ。
「私はプレシアの可愛いらしさを、もっと世のために人のために役立てるべきだと思うが」
「そーそー。めちゃチャリティーになるし」
「チャリ、ティー?」
あぁあぁ〜その話題を振っちまうか。もう反則技の域だぞ、それ。
「タイタニオ殿。どうか冷静に。いくらなんでも刺激が強ぇ」
王宮での晩餐の席で、王女殿下が心を痛めてた姿を思い出す。それが幼いプレシア嬢ならなおさらだ。
「あの、お父さま……、またプレシアにはナイショのお話ですか?」
「ふぅむ。トルトゥーガ殿の言うとおり、少々早い話かもしれんな」
「けれど、ベリル様は知っていますよ」
同い年の者がよくて自分がダメってなると、余計に興味持っちまうわな。そういう好奇心旺盛な年頃でもあるんだ。
どう答えたもんかとムゥムゥ唸るタイタニオ殿に、
「ねーねー、ここはあーしに任してくんなーい」
緩い調子でベリルは声をかけた。
さすがに見過ごせねぇ。
「おい待て。軽はずみなマネすんな」
「トルトゥーガ様も、プレシアにナイショするのですか?」
「そーそー、そーゆーのよくねーし。つーか父ちゃんって、あーし以外の小っちゃい子にめっちゃ甘いよねー」
んなことねぇよ。
「てゆーか、もし怖い夢みちゃったり眠れなかったら、パパんとこ行って寝たらいいし」
「——素晴らしい! さすがはベリル嬢。完璧な対策ではないか。プレシア、約束できるかい? もし夜、怖くなったり悲しくなって眠れないときには父の元へくると」
「お、お父さまっ。プレシアはそんな子供ではありません! で、でも……お約束したら、お話してくれますか?」
満面の笑みで頷くタイタニオ殿。
それをニシニシ眺めるベリル。
こりゃあ、俺が内容に年齢制限かけるしかねぇようだ。




