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茶会議、延長①


 やっぱり四日目も五日目もある。覚悟はしていたが。


 魔導歯車の話が時間いっぱいまでつづいちまった結果、初日から結論に至らなかった議題の残りは明日明後日へ持ち越し決定。

 こうなるんじゃねぇかと思ってた。


 よかったことと言っちゃあなんだが、日程が追加されたってことで陛下との晩餐はなしに。

 おかげで数日ぶりにのんびりメシが食えたわけだ。


 で、いまは与えられた王宮の客間で寛いでる。

 もう風呂にも入ったし、早めに休みてぇところなんだが……。


「ベリル、まだ寝ねぇのか?」

「眠くなーい。つーか父ちゃん先に寝ちゃえばいーし」


 そうするとテメェがコッソリ部屋を出てかねぇか心配なんだよ。初日に『パジャマパーティー』とかほざいてやがったからな。

 もう面倒だから縄で俺と括りつけとくか? いやダメだな。捕らえたと安心した隙にスルッと抜け出してっちまいそうだ。


「なーにー、こっちばっか見て〜」

「やらかさねぇように見張ってんだ。つうかオメェよぉ……」

「ひひっ。やっぱしわかっちゃーう?」


 そう。ベリルの挙動がおかしい。そいつが俺をソワソワさせるんだ。

 コイツがヘンなのは毎度のこと。しかし今回は種類が違う。なにやら宙を眺めてやたらとニタニタ。怪しさ満点だぜ。


「なにしてんだ?」

「ママとメッセしてんのー」

「メッセ?」

「メッセージのことだし。ゆっても、いまはまだ何文字も送れなくってー。数字四文字だけー」


 言葉足らずにも限度があんだろ。話の輪郭しか掴めねぇよ。


「そりゃあヒスイの魔法か?」

「そー。あーしにはムリっぽーい。でもメッセもらってすぐなら返信はできるし」

「俺にはなんも見えねぇが、オメェにはここらへんになんか映ってるってことか」


 と、ベリルの目の前を手で遮ってみる。


「それなんの意味もないし。目ぇ閉じてても見えちゃうもん」

「ほぉん。んで、ヒスイはなんて?」

「ママから『一〇』って来たから『〇九〇四』って返しといたー」

「それ会話なってんのか?」

「『どう?』って聞かれて『遅れっし』って返事。んで『一二(いつ)』ってきたから『五』って返したしたとこー」


 語呂合わせってやつだな。しっかしわかりづれぇ。まるで暗号文じゃねぇか。


「あっ、またきた。ママ『三三四一(さみしい)』だってー。『三二(ミートゥー)』って返しとこっ」


 よくヒスイはついていけるな。いちおうはアイツの魔法だとしてもよぉ。


「前にさーあ、ホネホネゾンビの声みたいのあったじゃーん」


 あったな。直に頭んなかで聞こえる声とでも言い表せばいいのか、不思議なのが。


「あーゆーテレパシー的な魔法ないのってママに聞いたら、いろいろ試してくれたみたーい。でも結局、あんましたくさんの情報とか送れないらしくってー、概念と認識がどーたらーって難しーこと言ってたし」

「んで、オメェが数字にしたらどうだって助言したと?」

「おおーう。よくわかったねー。そーそー、ポケベルっつってー、あーしの(いにしえ)の知識だし。ママってばマジ喜んでてー、これなら誰とでもやり取りできちゃうってさー」


 ……む? ならどうして俺にはなんもない。


「ひひっ。父ちゃんもしかして嫉妬しちったとかー?」

「んなわけあるか」

「ふーん。ママにメッセしちゃお。王宮のキレイなメイドさんに父ちゃん鼻の下びよーんだったってー」

「——おいバカよせ」

「ぷぷっ、めっちゃ焦ってるし。さっき四文字の数字って言ったじゃーん。そんな長いのムリだってー」


 ったく、このイタズラ娘め。


「いちおー、解読のルールみたいな感じでー、三なら『サ』とか『ス』とか『ミ』って読むよーって決めてあるし」

「んで。いまのいままで俺に黙っておいて、オメェらはどんな悪巧みしてたんだ?」

「そんなんしてねーし。普通に『〇八四三(おはよーさん)とかそーゆーのばっかー」

「そうかい。まっ、なんでもいい。明日もあるんだ。さっさと『〇八三三』とでも送って寝ちまえ」

「おおー。さっすが父ちゃん。もう『おやすみ』使いこなしてっし」


 こんなもんがなんだってんだ。


「しゃーない。んじゃ寝るし」

「おう。そうしろ」


 そう告げて灯りを落とした。だってのに、

 

「そーそー」


 と、ベリルはゴロゴロ寝返りうって話しかけてくる。


「ママから父ちゃんにメッセないのってー、魔力の大っきさで相手見つけてるかららしーし。だから離れてっとあーしくらいしかわかんないみたーい」


 そういう理由か。なら納得だ。

 王宮には、魔力量だけとれば俺以上のヤツはゴロゴロいるもんな。


「ひひっ。ママから『八八(パパ)』『〇八三三(おやすみ)』だってー。よかったねー」

「そうかい。なら『一三一』『〇八三三』とでも返しといてくれ」

「一三一……? ああ〜ヒスイかぁ〜。うししっ父ちゃんやるじゃーん」

「うるせぇ。生意気言ってねぇで、いい加減寝ろ」

「ほーい」


 はしゃぎ疲れてたのかベリルは目ぇ瞑ってすぐ、スピースピー寝息をたてはじめた。


 ったく、ヒスイのやつ。

 ベリルに隠形まで仕込んで厳しく育ててんのかと思えば、過保護なマネをする……。俺がついてんのにそんなに心配か?


 まっ、アイツの好きにすればいいんだけどよ。


 とはいえ、いろいろと教えんのは構わんが、さっきの魔法だけは却下だとキツく言っておかねぇとな。

 じゃねぇと、ひっきりなしにベリルからくだらんメッセージとやらが送りつけられかねん。

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