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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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茶会議、三日目③


 ベリルの言う『あーし可愛いし』が通用するたぁ思えんが、概ねコイツの要望は通りそうだ。

 いまは文部や殖産の長官殿まで巻き込んで、魔導歯車の利用方法を研究するカネと場を提供するっつう話になってる。


「トルトゥーガ領で催される勉強会に、我らからも研究生を送り、その他の参加者にも旅費などを支給する。これでよいでしょうか?」

「あと学費とご飯代もねー」


 長官殿らは顔を見合わせて、


『そのくらいの出費なら構わないよな?』


 と確認を取り合う。


 本当なら王都で開きたかったんだろう。その方がなにかと利便がいいし、目も届きやすい。

 だけどベリルがちんまいから、うちの領で催してる技術交流会に出向くってぇ方針でまとめてくれた。

 先々、参加者が増えてから王都でもって話になるかもしれねぇそうだが、数年はこれでいくらしい。


「ちぃといいですかい」

「トルトゥーガ殿、なにかご不明な点でも?」


 さて、このまんま頷いちまっても良さそうなんだが、俺は俺で役目を果たさねぇとな。

 その役目とは、


「不明というより懸念ですかね。事は魔導歯車だけじゃあなく、魔導の道具関連すべてに近付かれちまうところにある。他所の者を招くってのはそういうこってす。領主として不安を抱かねぇ方がどうかしてるでしょう」


 とにかく反対意見をだす。

 それを受けてベリルが口を挟むんだ。


「いやいや父ちゃん。もし万が一なんかあったら、ちゃんと言い出しっぺの国がぜんぶ責任とってくれるって〜。ねー、主計長どの〜」

「え……ああ、そうですね。場合によりますが、我らも送り出す人員には最大限の注意を払い——」

「んなもん当たり前でしょうが。俺は王国に管理を委ねた挙句、メシの種になる機密をなんもかも暴かれちまいましたって場合の話をしてるんだ」

「もちろんそのような事がないよう——」

「だから! 不測の事態が起きたときの保証の確約がほしいと言ってる」


 かなり強い口調で揺さぶる。

 ほれベリル、エサだぞ。


「まーまー父ちゃん。てか口悪いしー」

「おっといけね。ご列席のみなさん申し訳ない。なにぶん、うちの者らが食えるか飢えるかって話なもんで……」

「ああ〜、それあるかもー。最初はおカネ出してよくしてくれてても、そのうち他で作れるよーになったら『トルトゥーガいらね』ってされちゃうとか。そーゆーの考えたら、やっぱしなしの方がいーのかなー」


 あくまで俺が役人に意見して、ベリルが俺に物申す。感想として不安も述べる。

 この遠回しなやり取りでジャンジャカ言いづれぇ要望を上乗せしてくって寸法みてぇだ。コイツはホント悪知恵がよく働く。


「でもさーあ、不安あげたらキリないじゃーん。うちで管理するってのも限界あるし。父ちゃんも大変じゃね?」

「ァア? んなもんどうとでもなる。あとから潰せる問題より、目先のオマンマの方がよっぽど重要だろうが」


 一見すると仲間割れ。親子で意見が食い違う状況。

 となるとどうなるかは火を見るより明らか。


「トルトゥーガ殿のご懸念は尤もです」


 ベリルの味方して話をまとめようとしてくる。

 いったんは決まりかけた話だからこそ余計に、この期に及んでひっくり返されちゃあ堪らんと。

 だから、


「ですので、我らとしても身元が確かな者に限り——」

「それだと国の紐付き者しかよこさねぇってことになりませんかい? 一部の者以外には閉じられた会なら、わざわざ開く意味がねぇ」

「父ちゃん違うってー。ちゃーんと安全な人かどーか確かめてから送ってくれるに決まってるし。どーゆーモノ作ろーとしてるとかチェック入れて、背後関係ってゆーのー、周りにヘンな人いないかまでチェックしてさーあ」


 こんな具合にベリルが面倒くさそうな条件を次々と追加してっても、長官殿たちは覆せねぇでいる。


 だがしかし、この仲違いを装うみてぇな茶番はいつまでもはつづけらんなかった。

 ある程度まで要求を積みあげたところで——


「トルトゥーガ殿。ベリル嬢。もう瀬戸際外交のようなマネはせんでよい」


 左大臣殿が割って入った。


「国にも直接の税以外に得る利があるのだ。たいていの要望なら聞き入れよう」

「父ちゃん、もーいいってー」


 このバカたれが。一芝居打ったと認めてどうする。ほれみろ、役人たち警戒しちまったぞ。


「聞いてくれるってゆーんなら言っちゃうけどー、けっこー失礼なこと言うから怒んないでねー」

「率直な物言いで構わんよ」

「どーもー。つーかあーしが心配してんのはー、魔導歯車が利権ってゆーのー、そーゆーのになんないかなって」


 初っ端から不躾がすぎるぞ……。


「賄賂もらうとかまでは言わないけどさー、言うこと聞かない貴族とかは『貸してあげなーい』とかイジワルしそーじゃーん。てかするっしょ?」

「それは危険な者を取り除くうえで、やむなしではないかね」

「やっぱしそーなっちゃうかー。でも職人さんには関係なくなーい。さっきのだと住んでるとこで差別しちゃうみたくなってるし」

「…………ふむ」


 左大臣殿は答えに詰まった。


「あんまし上手く言えないけどー、隣り合う場所って似たようなことして稼いでるわけじゃーん。そんでもって片方の人たちは魔導歯車でたくさんモノ作れて、反対側はそーじゃないってなったら、むっちゃケンカしそーじゃね? それってもっと言うこと聞かなくなりそーだし。ゼッタイ争いの火種ってやつになっちゃうってー」


 詰まるところベリルの要求は、開かれた技術交流会を維持しつつ、悪意ある使用の排除はもちろん事故の責任まで丸っと国任せ。

 オマケに諸侯らへの交渉材料にしてもらいたくねぇと言ってんだ。ムチャこきすぎだろ。


「ふむ……。理解できなくはない」


 左大臣殿だけでなく、その他の面々も渋い顔。かといって露骨に反対もできないでいる。


「だからねー、そこらへんは分けて考えてあげてほしーなーって、あーしは思ってるわけ」

「魔導歯車の貸し出しは申請内容のみで判断せよと、ベリル嬢はそう申しているのだな?」

「そんな感じー。んでね、悪気ない職人さんの研究は自由にやらせてほしーし。ヤバめな雰囲気するテーマでも、実は使いよーによってめちゃ役立つこともあるかなーって」

「その逆もあり得る、か」

「そーそー」


 まるで役人たちの苦労に配慮がねぇ要求だ。しかも自分の利益のためだけに意見してるわけじゃねぇって言い草が、実にコイツらしい。 


「……税率一割は撤回してもよいか?」

「いーけど代わりの条件っ。魔導歯車ぜんぶに国のマークつけてほしーかも。それなら普通の税金でもいーし」

「封を開けた時点で反逆の意思あり。しかも我らにとっての貴重な財源となるため、躍起になって維持するだろう……と。ベリル嬢は幼いのに、持ってまわったことを考えるのだな」

「いやいやそーゆーんじゃなくってー、ブランドイメージ的なやつだし。ジスみたいなー」

「ジス?」

「んんっとー、あーしもよくわかんねーやー」


 なら言うな。

 ただでも頭こんがらがる話してるっつうのに。


「わかった。魔導歯車の秘匿技術については、ミネラリアで保護しているとしよう」

「おおーう。左大臣どの太っ腹〜」


 それこそ利権じゃねぇか。っていうツッコミは俺んなかで留めておこう。


 ええと、ここまでをまとめるとだ……。


 魔導歯車は国が又貸しするってことになって、その判断や管理責任もあっち側。

 んで、研究費用もブン獲れて身元確認もしてくれる。しかも研究の内容には口を挟まん。おまけに今後あぶれるだろう職人たちの再教育まで担ってくれるらしい。

 そんでもって魔導歯車には国の刻印がされて、大々的に保護される……と。こんなところか。


 これ、売り上げの二割を税に納めてもトルトゥーガの利が大きすぎねぇか。いや違うか。トルトゥーガもミネラリアの一部なんだから。


「あとついでにさーあ、良さそうな人いたらうちに引っこ抜いてもいーい?」

「ベリル嬢よ、そのへんで勘弁してくれぬか」

「ひひっ。じゃー個人的にスカウトはありってことでよろー」


 職人の引き抜きまで口にしやがった。


 ここまでで決めたことについて、左大臣殿から文句はねぇようだ。

 となると、こっちへ譲った以上の利があるのかもな。俺にはとんと想像つかねぇけど。


 とにもかくにも、


「仕事楽になってよかったねー。ねー父ちゃーん」


 これに尽きる。


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