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茶会議、三日目②


 手を挙げた主計長殿には応えず、俺はすぐさまデタラメほざくベリルを制止した。


「まて待て。オメェは魔導歯車に制限かけられてもいいんか?」

「しゃーなくなーい。そんないっぺんにあれこれ変えんのなんてムリだし。たださっきのは、抑えつけるだけだとなんの解決にもなんねーしって言いたかっただけー」


 さっきと言ってることが真逆に感じるのは俺だけか? 好き勝手に競争させるんじゃねぇのかい⁇


「さすがのご慧眼です。ベリル嬢の仰りよう、まったくもってそのとおりかと。どのような条件になるのかはいったん置いておくとして、魔導歯車の貸与に王国を通していただけるのであれば、我々としてもどの産業にどのような影響があるのか予想が立てやすくなります。また推し量るだけでなく調査も」

「え……あーうん、そーそーそれだし!」


 コイツホントにわかってんのか? 絶対考えなしだろ。

 なんかベリルの言い分って、結果だけ知ってて中身を知らんふうに聞こえちまうんだよな。これ、あながち間違いでもねぇと思うんだが。


 それと主計長殿。一昨日の態度とは打って変わってベリルをヨイショしてんのも気になる。


「ワシからもよいかのう」


 ここでポルタシオ将軍閣下も口を挟む。


「国の管理が必要と考える根拠にはの、先日のアンデッドの件も関係しておる。こちらで使い方を確かめていかねば、危ういことをする輩も現れようて」

「あるあるー。前も『どーせダンジョン掘るんだろーなー』って思ってたけど、こっちもあんましダメとか言えねーし」

「うむ。その点、国を通した場合は査察や指導なども容易だの」


 なんだか上手いこと乗せられてる気もするが、いまんところ異論はねぇ。


 つづいて外交を担う右大臣殿も、


「国外への持ち出しも防ぎたい。というより、絶対に不可と言わせていただきます。これはなにも技術の独占を計りたくて申しているわけではありません。サブスクでしたか、現状の契約内容ですとなおのことです。もし制限をかけなければ、いずれトルトゥーガ殿と諸外国との軋轢が争いに発展するのは必至。ヒト種同士での大きな戦にも繋がりかねませんので」


 んな大袈裟な、とは言えねぇか。

 例えば大公国の誰それと取り引きしてゴタ起こしたら、実力行使の末に……。うん、あり得るな。


「加えて、こちらの都合にもなりますが、魔導歯車は交渉において大きな譲歩を得る材料にもなりえます。ひいてはミネラリア王国全体の利にも繋がりますので」


 そんなことまで考えてやり取りするなんて、俺にはムリだ。


「おうベリル」

「ん?」


 コッソリと確認をとる。

 いちおうはコイツが考えたもんだからな。


「売り上げが筒抜けになっちまうが、もう管理ぜんぶ任せちまって構わんよな?」

「ふーむ。てか、あーし決めちゃっていーの?」


 いまさらなにを言う。これまでもだいたい勝手に決めてきただろうが。

 頷いてやると、ベリルは「はいはーい!」と声をあげた。

 いや、だから先に俺を通してくれと何度も……ったく。


「えっとー、そーする必要性ってやつは理解できたし。でもさーあ、あーしらのメリットがまだじゃね。やっぱしこーゆーのって『お互いの利』ってやつをもとに話してかなきゃじゃーん」


 ベリルの生意気な物言いに、主計長殿は待ってましたばかりにピンッと手を挙げる。


「時間も差し迫っておりますので、駆け引きは省きましょう。主計として譲歩、いえ、提示できる利点はズバリ『魔導歯車の税率一割』です」

「十パーかぁ〜……」

「ご不満でしょうか?」


 俺はいいと思うがな。

 煩雑な契約から解放されて、あとは国が勝手に管理してくれんだろ。いいこと尽くめじゃねぇか。


「不満ってほどじゃないけどー、何個か聞いてもいーい?」

「どうぞ」

「まずー、契約はサブスクでいーのかってこと。あと宣伝とか研究のおカネはどーなんのかってのも心配かも。実はけっこー研究会とかおカネかかってっからねー。ここまで広めた費用とかもあるしー」


 さほど広まってねぇだろうに。

 とはいえ半分行き当たりばったりの成り行き任せにしても、あんなケッタイなモンに興味持たせるんのには、なかなかの苦労があったのも確か。

 そのあたりは、ぜひとも考慮してほしいところだ。


「お答えします。はじめに契約についてですが、こちらで管理する場合も月々の料金で構いません。もちろん貸し出し額も、トルトゥーガの——いえ、ワル商会へお支払いする額も従来どおり変わらずという認識です」

「ふーむふむ」

「諸々の手数料とでも言えましょうか、契約代行を国で行うと考えていただければ、そちらの利は大きいかと」


 それはどうだろう。ベリルにとっちゃあ、そこはタダだ。なにせ俺に丸投げして無料でコキ使ってんだからな。

 と、思ったんだが意外なことに、


「そっかー。父ちゃんも大変っぽかったし、それめちゃ助かるかもー」


 ベリルは殊勝なことを言い出す。

 しっかし似合わんマネするな。なぜだ?


「そうでしょうそうでしょう。このまま件数が増えていった場合、近いうちに手がたりなくなるのは確実です」

「……あーし、父ちゃんに頼りすぎてたかな?」

「いえいえ。トルトゥーガ殿はベリル嬢と領民のことを想い、熱心に励まれたに違いありません。ですので我らがその負担を肩代わりさせていただこうと、そう提案しています」


 そんなんじゃねぇよ。ったく。


「ああ〜主計長殿、ちぃと休憩を挟ませてもらえませんか?」

「でも父ちゃん」

「いいから、オメェは黙っとけ」

「…………わかりました。将軍閣下、トルトゥーガ殿の申し出どおりでよろしいでしょうか?」

「うむ。性急に決めてしまってはシコリが残るでの。では、しばし休憩としよう」


 そうポルタシオ将軍閣下が告げると、各長官殿と参議殿らは声の届かん隅っこに固まり、なにやら話しはじめた。

 役人や学者たちは、議場から飛び出していく。


 んで、うちの問題幼児は、


「父ちゃんも食べる?」


 ケロッとして、昼メシにとこさえさせてたオニギリに手を伸ばす。


「いらん。つうかさっきのなんだ?」

「ん?」

「似合わんマネして、なに企んでやがる」

「ひひっ。さっすが父ちゃん。バレちったかー」

「声を落とせ」

「おっといけね。んっとねー、ここまではぜんぶキテー路線ってやつ」


 俯くようにオニギリに齧りつくベリルは、口角から笑みが漏れてる。そりゃあそりゃあフヒフヒとスンゲェ性悪なツラしてて、


「でもー、宣伝とか研究とか、めっちゃおカネかかんのホントだもーん。そこらへん主計長どの、ぜーんぜんわかってねーし。あと職人さんの学校も本格的にやってもらわなきゃだし〜。だからしばらく父ちゃんは反対ってポジでいてー」


 などと悪巧み。


 なるほどな。払った税金以上に諸々の労力を払わせようって魂胆か。どう持ってくのかは知らんが。

 しかしやっぱり、コイツはこうでなきゃあ据わりが悪ぃ。


「つーかあーしみたいな可憐な幼女が父ちゃんの心配してるのってさーあ、父性くすぐられちゃうっしょ。忖度ってゆーのー、ワガママ聞きたくなっちゃうじゃーん」


 はいはい。親父への心配はフリってことだな。

 まず俺がワガママ聞きたくなくなっちまったんだけどな。そのへんわかってんのか?


「ほれ、あーしってばめちゃ可愛いし」


 絶対わかってねぇな、こりゃあ。


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