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茶会議、二日目⑧


 もう食えん。腹がポンポン。

 陛下たちはメシに満足したら、あとは面白がってあれこれ作ってはよこしてきたんだ。


 サボリ関ことプラティーノ王子殿下は、コッソリ席をたって以降戻ってきてねぇ。逃げたな。


 俺と同じくベリルもフヒーフヒー息苦しそうにしてる。

 大食い娘に関しちゃあ、ライスバーガーが出てきてからの勢いがとんでもねぇんだ。

 ホント、コメんなかに危ねぇ成分でも入ってんじゃねぇかと心配しちまうほどのドカ食いだった。


「ふぅ〜、めっっちゃ食べたし〜」


 行儀悪ぃと叱りてぇとこだが、俺も人のことは言えん。陛下の前だってのにイスに背ぇ預けてちっとでも楽な姿勢とろうとしてんだから。


「愉快な晩餐であった」

「ええ、本当に」


 どうやら陛下は、王女殿下が手ずから用意したハンバーガーが甚くお気に召したらしい。


 そして食後のまったり感もそこそこに、


「して、ベリルよ。此方に相談があるとのこと。申してみなさい」


 王妃殿下が話を振ってきた。


「そーそー、お妃さまにも聞いてもらいたくってー」


 とベリルは、ラベリント伯爵領から連れ帰ったチビたちを育ててるってぇ話をしていく。

 アイツなりに若い王女殿下に気ぃ使ってなのか多少ボカしてはいた。が、チビたちが奴隷として売られた先でどんな生活を強いられてたかにも触れてった。


 当然、ガラリと空気が変わり、


「なんと不憫な……」


 王女殿下は同情してらっしゃる。


 それは王妃殿下もだが、ちぃと趣きが異なるようだ。

 どっちがどうとかじゃあなく、ここらへんは為政者として切り盛りしてるっつう感覚の違いからなんだろう。

 もっというなら、いまに責任を負う者とこれからを作る者の差ってところか。


「ベリルは、他にも貧困に喘ぐ子供らを救いたいと。此方に話したのは、その助力を求めているのですね」

「んんーと、最終的にはそーゆーふーな感じ」

「——いますぐにではないのですか⁉︎」


 王女殿下はまだ世情に疎いらしい。甘いとは言わん。きっと王家にとって必要なモノの見方をされてるんだろう。

 誰しもが現実ばかりを追ってちゃあ息が詰まるもんな。


「いますぐはムリかもしんなーい」

「どうしてでしょう? もし費用の問題でしたら、わたくしの歳費から援助させていただきますよ」

「どー説明したらいーかなー。ねー、父ちゃん」


 言いづれぇからって、ここで俺に振るか。

 だがまぁいい。数ヶ月だが俺が見てきたことを伝えちまえばいいんだ。

 いちおう陛下が頷くのを確認してから、俺は実情について語っていく。


「王女殿下のお気持ちは、無骨者の私なんぞでも多少は理解できるつもりです。いますぐ腹いっぱいメシ食わせて、風呂に入れてやって、あったけぇ布団で休ませてやりてぇ。かくいう俺も、はじめはそれだけを考えてました」

「トルトゥーガ様は躊躇う理由が他にあると?」

「ええ。アイツらぁひでぇ目に遭って、とんでもなく卑屈になっちまってます」

「そーそーマジ闇深ぇし」

「……闇、心の闇と捉えてよろしいでしょうか?」

「はい。そいつを取り払うのは難儀です。たとえ恵まれた生活を与えても、早々どうにかなるもんじゃねぇ」

「わたくしには、想像すらできないお話なのですね……」


 いまさらだけど、これ、俺からじゃなくって陛下が話してくれたらよくねぇか?

 優しいばっかりな王女殿下に酷なこと聞かせるのって、かなりしんどいぞ。めちゃくちゃヘコんでるしよぉ。

 だからって途中でやめるわけにはいかんのだが。


「コイツにもキツく忠告したんですがね、手ぇ出した以上はチビたちの人生に関わっちまうわけで、ヘタこくと助けたつもりが逆に路頭に迷わすってことにもなりかねんと」

「ちょっと父ちゃん、言いすぎー。お姫さま、シュンってしちゃってんじゃーん」


 オメェが振った話だろうが。ここでハシゴ外すなや。


「お姫さま。あーし『いますぐは』って言ったし」


 ここで黙って聞いていた王妃殿下が、


「クリスティア、落ち込んでいる場合ではありませんよ。ベリルの話をよくお聞きなさい」


 王女殿下に発破をかけた。

 つうかクリスティアって名前だったんだな。知らんかったわ。


「ぶっちゃけ、おカネのチカラで助けてあげることはできると思うのー。でもそれって一瞬じゃーん。それじゃーダメだし。でね、あの子たちに必要なのは『お魚をあげるんじゃなくって、自分で取ってこい?』みたいな? あれ? なんか違う⁇」


 コイツ。またどっか聞き齧ったイイこと言おうとして、わけわからなくなってんな。


「いまの言い草だと、端っから事足りてるじゃねぇか。どうせあれだろ『恵んでやるくれぇなら、テメェでオマンマ食う方法を仕込んでやれ』みてぇなこと言いたかったんだろ」

「そーそー、言い方ひでぇけどそんな感じー」

「つまりベリル様は、その教育を担う者から揃えるべきと、そう仰っているのですね!」

「そゆこと〜」


 なにが『そゆこと〜』だ。ったく。補足しておくか。


「チビたちなんで大したことはできねぇんですが、まずは『これはオメェの稼ぎだから好きに食え』ってところからはじめてって、あとはいろんなことに興味もたせてったりと……。そのための講師がいるらしく、そうなると養育費はバカみてぇに嵩む。まぁ、かなり気の長ぇ話です」

「父上——いえ陛下」

「…………うむ」


 陛下も、王女殿下にウルウルせがまれちゃあ断れんってところか。口には出さんが、本格的に動くとなれば奴隷を扱ってるあちこちの貴族と摩擦を抱えちまうからな。


「ベリルよ、其方は余になにを望む?」


 さっさと答えりゃあいいもんをベリルのやつ、こっち見て「ひひっ」とイタズラっぽい笑みを浮かべる。

 べつにコイツに王女殿下みてぇな純真さなんざぁ求めてねぇからいいんだけどよ。


「おいベリル。ほどほどに、必要最低限にな」

「ほーい」


 と、まったく信用ならん軽い返事のあと、


「センセーやりたいって人を募集してほしーし」


 意外にも軽い要望。


「紹介ではなく募ると。して、資金の援助はよいのか?」

「んんー、ドレイにされちゃった子にどんくらいかかるのか知んないし微妙だけど、お相撲大会で稼いだおカネで足りるっしょ。ムリなら、お妃さまモデルとお姫さまモデルが売れたぶんから、分け前渡そーと思ってたおカネを使わせてほしーかもー」

「構いませんよ」

「わたしくもです」

「ふむ。しかし他にも費用は必要であろう?」

「そこらへんは大丈夫! 見てみて、あーし着てるシャツ」


「「「…………」」」


 唐突に話が変わり、揃ってキョトンだ。


「素敵なシャツかと思いますけれど、その売り上げの一部で賄われるということでしょうか?」

「んーんー、実はこれの生地からの切り出し、あーしんちの子たちがやるの。だからお駄賃だせちゃうし」

「まあ、器用なのですね。てっきり熟練の職人の手によるものとばかり」

「ひひっ。半分正解なんだけどねー」


 勿体つけつつ、ベリルはカラクリを語っていく。

 王都でも有名だった仕立て職人のサストロが引いた線どおりに切り出せる道具があると。


「なるほど。魔力を注ぐだけでよいのか」

「ならば、幼い子らでも可能ですね」

「素晴らしいお考えですわ」


 おうベリル、わかったって。充分わかったからいちいちこっちにドヤドヤ威張ったツラ向けんでくれ。


「つーわけで、お相撲大会の儲けも考えたら、ご飯代もセンセーのお給料も問題なーし。シャツ売れればだけど」

「あいわかった。ベリルの考え読めたぞ」

「はい王様。どーぞ」


 陛下は不適な笑みを浮かべ、答えを述べる。


「余にそのシャツを着ろというのだな」

「…………え……えっと……あーうん。そーそー、そーゆーのもありかもー」


 違ったみてぇだ。

 だがベリルは忖度して本音を呑みこむ。こういうところ大人だよなと常々思う。


「王様に一番お願いしたいのはー、シャツも限定モデルの指輪もハンバーガーショップもぜーんぶチャリティーでーすよーって、お相撲大会で大々的に宣伝してほしーし」


 こりゃあ明日以降の議題が増えちまったな。

 ——って、おい待て。いま『ハンバーガーショップ』とか言わなかったか?


「ほう。ハンバーガーの屋台を出すのか。ならば余も売り上げで貢献せねばならんな」

「おおーう。王様のお気に入りとかなったら、めちゃ宣伝になっちゃーう」


 いつどの時分に描いた()かは知らんが、ベリルやつ、また話を膨らませやがった。

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