茶会議、二日目⑦
一国の王が、調理場に立つ……。
とんでもねぇ光景だぜ。
しかも王妃殿下も王女殿下もヤル気になってらぁ。
給仕の者らは前掛けを用意したり追加の調理器具を運び込んだりして、てんてこ舞いだ。
「これぞホントのバァキンだし」
で、なぜかベリルだけはしたり顔。
「おいベリル。ちゃんと収めろよ」
「大丈夫だってー。お腹いっぱいになれば満足っしょ」
スゲェいい加減なこと言ってんぞ、コイツ。
「いーい、料理人さんたち聞いて。いきなしテキトーにブッ込まないよーに、まず王様たちに具の試食をしてもらうし。そんで食べ合わせとかを見っけたら、最初は三種類のハンバーガーからチャレンジって感じでー。オッケーイ?」
「「「はい。小悪魔シェフ」」」
「次から返事は『ウィームッシュ』にして。んじゃ、具材についての説明とかよろー」
本当にいまさらなんだが、俺もこれに参加しなきゃあならんのか? できることなら凄腕料理人が作ったモンを堪能したいんだが。
「ああー。父ちゃん空気読めねーこと考えてっしー」
「そうは言うがよ」
「王様直々に作ってくれたハンバーガーなんて、めったに食べらんないじゃーん。そっちの方がレアじゃね?」
大きな声では否定できん。
「そうかそうか。やはりベリルは面白いことを申すな。よかろう。トルトゥーガには、余自らハンバーガーを供そうではないか」
「……こ、光栄の至りです」
つうわけで、俺は席についたままだ。
ホント頼むぞ。食えるモンを用意してくれよ。美味いって返すのに必死こくようなメシはごめんだからな。
「なぁトルトゥーガ。くくっ、ベリルはやりたい放題であるな」
「王子殿下も笑ってねぇで、なんとかしてやっちゃあもらえませんか」
「おや、他人行儀な。べつにサボリ関と呼んでも構わんのだぞ。ベリルだけでなく卿にも『カブキ御免状』は有効なのであろう」
「……勘弁してください」
知ってる。たぶんこれってあれだ。ベリルが言ってたパワハラってやつ。
「困りましたわ。たくさんありすぎて迷ってしまいます」
「お姫さまの好きなモノはー?」
「オリーブの実や瓜のお酢漬け、かしら」
「おおーう。めちゃお姫さまっぽーい。だったらそれが引き立つ組み合わせでー、白身魚のフライとかいーし。料理長さーん、ソースなにがいーい?」
「でしたら同じく酢とオイルを主にしたソースが相性よいかと」
「あーあれねー。マヨみたいなの。だったら半熟ゆで卵は外せねーし」
「ふふっ。では、ベリル様の仰るとおりにしてみましょう」
なんだかあっちは楽しそうだ。
「ベリル。此方にも助言なさいな」
「はいはーい。お妃さまの好物はー?」
「正直に申せば果実ですが……」
「ふむふむ。フルーツサンドみたいにしちゃうのもあり? もしくはパインみたいなのでお肉に甘酸っぱさでいっちゃう?」
「王妃殿下、小悪魔シェフ。差し出がましいマネをお許しください」
「ええ。許します。料理のことなら其方に勝るものはおりません」
「恐縮です。では、王妃殿下がお好みの焼きリンゴと生のリンゴを組み合わせてはいかがでしょう」
「いーじゃんいーじゃん。んじゃパンじゃなくってパンケーキみたいにしてー、バターとハチミツもいっとこーう」
「美味ではありそうですが、ベリル、それではもうハンバーガーではないのでは?」
「いーのいーの。挟んだらぜんぶハンバーガーだし」
とうとう料理の前提までおかしくなってらぁ。
「ベリルは善いことを申すな。ということでトルトゥーガよ。余の好物をこれでもかと挟んだぞ」
陛下のハンバーガー、いまにも倒れちまいそうなんだけど。
「おおーう。さっすが王様バーガー、めっちゃ映えるし!」
ベリルが出来栄えにパチパチ手を打つ。
そんな喜ぶんなら代わりに食ってくれねぇかな。せめて食い方だけでもご教示願いたい、切実に。
さて、目の前にそびえ立つ陛下自ら供してくだすったハンバーガーだが、真っ茶っちゃだ。パンのあいだにぎっしり肉、肉、肉……。
ハンバーグ、干し肉に火ぃ通した肉、ハンバーグ、厚切りの焼肉、ハンバーグ、塩漬け肉、ハンバーグ、湯掻いた薄切り肉、ハンバーグ、ソースと絡めたコッテリ肉、とにかく肉々しい肉尽くし。
「食わんのか?」
「いえ、感動で胸がいっぱいでして」
つうかどっから手ぇつけていいかわからねぇんだよ。ヘタにナイフなんて当てたら崩れちまいかねんし……。
「父ちゃん、はいこれ〜」
とベリルから手渡されたのは、長い串。
そうかそうかその手があったな。
「では陛下、遠慮なくいただきます」
「うむ」
満足げに頷く陛下を見届けたら、上から山みてぇなハンバーガーに串をグサリ。んで、あとは顔色を確認しないで一気に食っちまう。
その感想は、まぁ、あれだ。半分ハンバーグで残りほとんど肉料理の味だ。パンの味が新鮮に感じる。だが、うん、普通に美味ぇ。
「まあ、トルトゥーガ様は健啖家でらっしゃる」
「ほっほっほ。まっこと」
いやいや面白そうに見てねぇでさぁ、殿下たちも食ったら。
一個食い終わると、なんでか二個になってた。
さっきの陛下のほどデカくはねぇが、菓子っぽいのと上品なハンバーガーが二つ。
はいはい。どういう展開か読めちまいましたよ。
「両殿下が手ずから用意してくださるたぁ、光栄ですな」
と、ワクワクッて様子で待ってる二人のハンバーガーを食っちまう。片方はハンバーガーと呼んでいいのか疑問が残るが、気にせずパクパク平らげた。
偏った味がつづいたせいか、満足感がスンゲェな。
バレんよう腹を摩ってると、ベリルが性悪な笑みを浮かべた。
「ひひっ。ねーねー父ちゃーん。どれが一番だったー?」
こんのやろ、それを聞くか! 紛れもねぇ悪魔の質問だ。んなもん答えられるわけねぇだろ。
ほれみろ。陛下たち『自分のだよな?』って顔して圧かけてきてんじゃねぇかよ。
「どれも——」
「甲乙つけがたくー、とかなしだし」
「「「…………」」」
正直に答えるんなら最初に料理人が作ったモンだ。考えるまでもねぇ。が、参ったな。
「ワッハッハッ。トルトゥーガよ、すまぬ。ちと悪ふざけがすぎた」
「はぁ……、ホントですよ」
「許せ。では我らも、各々が作ったハンバーガーを食べ比べてみるとしようではないか」
「それいーかもー。今日のはパン小っちゃめにしてあるし、小食なあーしたち女子でも、いろいろ楽しめちゃ〜う!」
ベリルめ。調子いいこと言いやがって。
つうかコイツちょいちょい小食だって自己申告してくるけどよぉ……。
「あっそーそー、サイドメニューもあるし。最後にあーしオススメのライスバーガーも! だからちゃーんとお腹空けといてねー」
あんな腹に溜まるモンを最後に持ってくるあたり、実はけっこう食うよな。




