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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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茶会議、二日目⑤


「して、スモウ大会の話はまとまったのか?」


 これは陛下が隣席されて早々のお言葉。

 重臣や神官長殿が居並ぶなかでの問いかけで、なかなかに冷たい響き。なんなら昨夜、俺から存念を聞き出してるときよりも語調が鋭い。


「「「…………」」」


 もっと重要な話を詰めてましたってのが、ここにいる全員の本音。とはいえさっきの剣幕を見たあとだと、んなこと言えんわな。


 左大臣殿右大臣殿に限らず、参議の方々や長官殿らまで揃って目を逸らす。

 家臣一同の沈黙を陛下はしばらく見据えたのち、本茶会(実質査問会)を取り仕切るポルタシオ閣下に「どうなのだ、将軍」と視線を向ける。

 するとなんでか閣下はいかにも心苦しいですって顔を伏せたのち、こっちへ目を向けた。


 ハ? 俺が答えろってか! 勘弁してくれよ。


 もし他人事なら『陛下にも人間味があるんだな』と面白ぇ逸話の一つになるかもしれんが、いまの俺にとってはちっとも笑えん話。


 誰も彼もが不用意な発言を避け、その間に陛下の機嫌はみるみる急降下。


 そんな寒い空気が漂うのなか——


「はいはいはーい!」


 と、お元気に手を挙げるアホがいた。もちろんベリルだ。


 他の者らはホッとした顔してやがる。

 俺の心配を察してくれるのは閣下だけ、と思って目ぇやると……、アンタもか。

 安心してる場合じゃねぇよ。絶対ロクでもねぇ結果になんぞ。


「申してみよ」


 あぁあ。陛下から許しが降りちまった以上、もう口の挟みようがねぇ。


「はーいどーもー。えっとー、お相撲大会の話、王様もめっちゃ楽しみにしてくれてるじゃーん」

「であるな」

「でっしょー。だからね、あーしらで勝手に決めちゃうんじゃなくってー、王様もいっしょに考えられたらなーって役人さんたちにお願いしたのっ。たしか王様、昨日『議論を交わそー』みたく言ってたし」


 ベリルのやつ、とんでもねぇテキトーぶっこきやがった。

 ——いや待て! まさかコイツ、端っからこう話をもってくつもりだったんじゃねぇのか。

 スモウ大会の話を()っついてきてもよさそうなもんを一切触れてこなかったのも、いまとなっちゃあそう思えちまう。てっきり飽きたんだと油断してたが、


「いひひっ」


 どうやら間違いねぇらしい。なによりの証拠は小賢しいしてやったりヅラだ。


「ほう、ベリルからの提案であったか。そうかそうか。その心遣い、余は心より嬉しく思うぞ。さすがは聖……オホン、神聖なる奉納試合を企画しただけはある」


 おいおい陛下、いま余計なこと言いかけなかった? 頼んますよ。


 上から下まで、気を良くした陛下に合わせて以降の予定を組み替えていく。それはもう見事な変わり身の早さで。


「書記さーん。お願いしてたの配っちゃってー」


 この偉そうな口ぶりに書記はすぐさま反応。

 各員に一枚ずつ配られてく紙は、ベリルの覚え書きを写したモンのようだ。

 俺らんとこには二人で一枚、つうかベリルが書いた原本のみ。

 こりゃあ確定だな。コイツは少なくとも今日の朝、議場に入った段階からこの展開を狙ってやがったんだ。


 俺が睨んだって問題幼児はどこ吹く風。権力を笠に着て親父を困らせるたぁ、太ぇヤロウだぜ。


「ムリっぽーいとか言いたくなっちゃうかもしんないけどー、まずあーしの話を聞いてほしーし」

「うむ。申せ。卿らも口を挟むでないぞ」


「「「はっ」」」


 あーあ、これでベリルの独壇場だ。もうどうなっても俺ぁ知らんぞ。……とはいかねぇよな。ったく。


「おうベリル、こっちにも紙見せろよ」

「ダーメ。これあーしが説明すんのに使うし。父ちゃんは集中して聞いといてっ」

「トルトゥーガよ。ベリルの邪魔をするでない」

「はっ。失礼しました」

「やーいやーい、父ちゃん怒られてやんの〜」


 テメこんにゃろ! あとで覚えとけ。


「まずー、お相撲大会は大人の部と子供の部、両方ともやりまーす。大人の部は書いてあるとーりのルールねー。んで、子供は手押し相撲やってもらうし」


 と、はじめは先日神官長殿と話したのと同じ内容を伝えていく。

 それが『各領地から代表を選出して大々的に行う』と説明したあたりで陛下を見ると、ニッコニコのホックホクだ。いまにも『良きに計らえ』とか裁可しかねん様子。


「スタジアムの大きさとかは、どこ使っていいかによるけど……、少なくても一万人くらいは入れるよーにしたーい! ついでに、王都から会場まで直行の魔導列車走らせるし。お試し的な感じでー。きっとお祭り気分でちょっと高めでも面白がって乗ってくれそーじゃね?」


 ここらで土工や主計の長官殿の顔色が悪くなる。

 が、ベリルは止まらねぇ。


「あっそーそー、おカネの心配はしなくっていーし。工事はトルトゥーガ組におっ任せ〜。どこよりも早いし安いし立派に作っからねー。ずっと使えるよーにするし、あとあとの管理はそっちでお願ーい」


 さらに左大臣殿と殖産の長官殿も頬をヒクつかせた。

 でもまだつづく。


「そんでー、こっからがマジ重要っ。基本的にお相撲大会はチャリティーにしよーと思っててー——」

「ベリルよ。いまのチャリティーとは?」


 とうとう口を挟むなと言った陛下自ら話を遮った。

 その横で、なんとか表情を保ってた参議殿らはコッソリ胸を撫でおろしてる。


「慈善活動的なやつ。今回のお相撲大会の売り上げは困ってる子たちのご飯代とか生活費にしたいなーって。あとドレイにされちゃった子を『買う』とかあんま言いたくねーけど、そーゆー費用にもするつもりー」

「…………さようか」

「さよーだし。あっそーそー、あの子らのセンセーとかも探さなきゃだけど、そこらへんはお妃さまもいる夕飯のときに別途相談っつー感じでー。そんでー……ん⁇ あーしどこまで話したっけー」

「スモウ大会がチャリティー云々だ」

「おおーう。父ちゃんマジメに聞いてるし。めちゃいがーい」


 そっからもベリルは嬉々としてスモウ大会関連の思いつきを披露していく。そりゃあもうジャンジャカと。

 もうとっくに陛下以外の全員が萎えなえ。俺だってヘナヘナ。


 結局いますぐに精査できんと、明後日に持ち越されることになった。


 つまり帰りが一日遠のいたってことだ。

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