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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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茶会議、二日目④


「お言葉ですが閣下、あんなオモチャがここで話すほど重要なもんなんですかい?」


 魔導メガホンも魔導太鼓も、どっちも喧しいだけだろ。


「やれやれ。父ちゃんってば、なーんもわかってなーい。太鼓で命令伝えるとか基本じゃーん。つーか、魔導メガホンとかマジ戦略兵器ってやつだし」

「うむ。ベリル嬢の言うとおりだ」

「とてもそうは思えねぇんですが……」


 席を立たずに残った面々も俺と同感って様子だ。

 そこでポルタシオ閣下は、


「ベリル嬢。すまんが実演を頼めるかのう。魔導メガホンを使い相手勢力を撹乱するという狙いでの。ワシの危惧している点を皆にわかりやすく」


 論より証拠と話を振った。


「オッケーイ。てかこれ、新商品の売り込みチャンスじゃね」

「いいからさっさとやって差し上げろ」

「ほーい。んじゃ……」


 と、ベリルは靴を脱ぎ、俺の膝の上に立つ。

 そして「ひひっ」と常より邪悪な笑みを浮かべると——


「ねー聞いた〜? アンタの好きな子。そーそー『戦争から帰ったら結婚しよう』なーんて約束して『無事に帰ってきてね……』とか目ぇウルウルで送り出してくれた、あ、の、子。素朴だけどアンタにとっては世界一大切なルシアちゃん」


 急にはじまった小芝居に、聴衆はキョトン顔。議場はいきなりなんの話だってぇ空気に包まれた。


「実はあの娘、アンタの親友が本命みたーい。いやいやウソじゃねーし。アイツらこないだ内緒でこっそりチューまでしちゃってたもーん。きっとアンタ無事に帰ったら微妙な顔されちゃうし〜。女子は嘘つくときめっちゃ目ぇ合わせてくっからねー。てか身に覚えなーい?」


 そりゃあひでぇ話だな。


「あと新婚のアンタ、これ知ってた〜? 結婚のお祝いしてくれたマルコ。アイツいいヤツっぽいけどー、気ぃつけた方がいーよー。心当たりあるっしょ。それマジっぽいし。ほらほらこないだお酒飲んだ日ぃ。あれちょっと怪しかったじゃーん。てかもー、することしちゃってんじゃね。ぐひひ、エッチすぎ〜」


 まだベリルは喋りつづける。


「最近なんとなーくお財布んなか、減りが早くなーい? おやおや〜ダニエルくーん、さっきから顔色悪いけどヘーキ?」


 や、


「おおーう。今日はソフィアちゃんのカレシくんがたっくさーん。モテるもんねーソフィアちゃーん。くひっ、つーかマジ悪女だし。あれあれ、もしかしてアンタら気づいてなかったのー? あーし余計なこと言っちったかも。ソフィアちゃん、バラしちゃってごっめーん」


 などなど。もう聞くに耐えん。

 挙句、


「隊長さーん。アンタの部下だいじょぶー? こないだ叱りすぎたの根に持たれてなーい? たぶん他のみんなも『あれはさすがにやりすぎ』って思ってるし。いや、イライラしてたのはわかるけどさー。でもマジ戦争はじまったら背中には気ぃつけといた方がいーし」


 以降も、領主が後ろに隠れて威張るだけの卑怯者だの、誰それが不正を働いてるだの、もうめちゃくちゃデタラメこきまくるんだ。


 ふと想像しちまった。もし万が一、これをキッカケに自軍内で『やっぱりテメェ!』なんて私闘に火ぃついたら、と。

 まず収拾つくことはねぇだろう。


 ようやく俺にも、ポルタシオ閣下がなにを言いたかったのかわかったぜ。


「おう。もういいぞ」

「そーお」


 俺がベリルを黙らせたところで、閣下はこの場に残る全員に語りかける。


「これまで戦の口上は自軍の士気を高めるためにおこなわれてきた。本末転倒ではあるが、大義名分なんぞ相手に聞こえなくても構わんかったのだ。だがのう、魔導メガホンを用いた場合、かように対抗勢力を疑心暗鬼に陥らせることもできてしまう。しかも一方的にの。これがどれだけ恐ろしいことか、卿らにもわかるであろう?」


 一人二人は確実にいそうな名前を最初に差し込み、誰か一人でも擦めれば成功だ。カケラでも真実があれば、あとはドンドン疑りの沼に嵌ってっちまう。

 ホントうちの娘、性格悪っ。


「ベリルほど悪辣に使うたぁ思えませんが、士気はガタガタでしょうね」

「トルトゥーガ殿。それでは認識が甘いのう」

「と、言いますと?」

「ウァルゴードン辺境伯からも報告と警告を受けていての」


 あの野郎、チクリやがったな。

 どうせ家宰のジョルドーあたりが吹き込んだんだろう。しょうもねぇ意趣返ししやがって。


「これこれ怒るでない。すべては王国のことを憂いての進言であるゆえ」


 吹かしくせぇが、そう言われちゃあ引き下がるしかねぇか。


「つーかさー、フェイクニュースやったらゼッタイ戦争終わってからの方がヤバいってー。なんもかも疑っちゃいそーだし。めっちゃギクシャクしそー」

「間違いなくベリル嬢が指摘したとおりになるのう。噂が噂を呼び、領内の各地で揉めごとが絶えんひどい有様が目に浮かぶわい」


 一度植えつけた疑惑はずっとシコリみてぇに残りつづけて、挙句は刃傷沙汰ってか。


「しかし冒頭で触れたように指揮をとる際に有効なのも確か。そこで相談なんだがの」


 閣下はいちおう相談って言葉を使ってくれちゃあいる。でもこの件、こっちに拒否権はなさそうだ。

 ヘタに拒んで騒動でも起きたら、そんときうちの責任問題になりかねん。


「閣下の要望は、魔導メガホンの販売禁止と王国軍のみへの納品ってとこですかい?」

「それと魔導太鼓も、のっ」

「将軍さまー、魔導太鼓は売ってもよくなーい」

「そうだのう……。うむ、太鼓だけなら構わん」

「なら、問題ねーし」


 なんでベリルが決めてんだよ。

 とはいえ、俺としてもかなり物騒なもんだと理解を深められた。できるもんなら作ることすらやめさせてぇところだが、そうもいかんか。


 とにかくベリルが私物でもってる魔導メガホンだけは、どんだけ嫌がったとしても早々に取り上げちまおう。

 あれは悪知恵と最悪の相性らしいからな。



 以降は事のついでとばかりに、


「いやはや参るのう。トルトゥーガ殿にとっては降りかかった火の粉を払うためだったとはいえ、戦勝ムードで各地が戦を控えておるなか二度にも及ぶ軍事行動……」


 と、耳の痛い話をコンコンと聞かされた。

 懲罰はなしで苦言に留めてくれんのはありがてぇ限りだが……トホホッて気分だぜ。


 結果、優先的に王国軍へ纏まった数の魔導ギアを納めると約束させられちまった。

 買ってくれるんだから、ありがたい話ではあるんだけどよ。


 回りくどいマネしてくれやがって。

 俺が非難がましい目を向けると、閣下は『すまんの』って悪びれねぇ顔だ。ったく。食えねぇ爺さんだぜ。

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