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茶会議、二日目③


「いーい。ぜんぶ同じ長さの三角形を半分にすっとー、三〇と六〇と九〇がわかるし。んで、そっから一番とんがってんの半分にすれば、十五度単位で正確に計れちゃうってわけ」


 それのなにがスゲェのか俺にはいまいちピンとこねぇが、学者らはえらく盛り上がってる。


「かつての初代皇帝が六芒星の城砦を普請する際に用いたと云われる、角度を……」

「こうも幼い少女が……」

「高度な算術を用いて導くとは……」

「いかに大魔導殿の教えがあるとはいえ、信じられん……」

「失われた技法に酷似している……」


 ってな具合に沸々ブツブツと。


 ベリルはベリルで、チラリ、チラチラチラリと、しつこいくらいに俺へ『どうよ』って顔を向けてくる。

 はいはいスゲェスゲェ。人の苦労を台無しにする浅はかさには恐れ入るぜ。

 いい加減止めてやらんとな。もうそろそろ賢いだけのガキで済まなくなってきてる。


「おいベリル。控えとけ」

「そーお。こっから重さの単位まで突っ走るつもりだったんだけどー」

「そうかいそうかい。オメェがそんなに母ちゃんに叱られてぇってんなら止めねぇよ。告げ口は任せておけ」

「——ヒィ‼︎ イヤァァアアア〜! やだやだやだダメダメ、ダメだってー」


 神官長殿の膝から飛び降りたベリルは、こっちてってく駆けてきて、


「マジマジマジやめてホントやめてっオニギリ半分あげっから! お願いお願い、あーしめっちゃイイ子にするし〜。父ちゃんだーい好き、ねっねっ、だからねっ」


 ズボンの裾をグイグイ引っ張りまくる。

 おうおうスゲェ必死なツラしてんな。


 あんまりにも喧しいから抱きかかえるようにして、隣のイスに座らせてやった。

 そんときに耳打ちだ。


「ぜんぶヒスイのせいにしろ」

「ラ、ラジャ」


 ここでゴホンと咳払い。


「みなさん、お騒がせしてすみません。まだまだベリルはちんまいガキなもんで」

「ガキじゃ——」

「ガキだよな」


 ギッと睨んで念押し。


「は、はーい。あーし、小っちゃくて可愛いベイビーちゃーん。お騒がせしちゃってごめんなさーい。さっきのもぜーんぶママから聞いた知ったかでーす」


 白々しい。が、まぁいいだろう。


「その、さきほど重さの単位と言っていたが……」

「それもぜーんぶママのせいでーす」


 ママのせいってなんだよ。そうしろたぁ言ったけど。


「ということは、求める方法を知っているという認識でよいのですか?」

「そんなん一センチ一センチ一センチの水でよくなーい」


「「「一センチ一センチ一センチ⁉︎」」」


「——ってママが言ってたし〜。あーし幼女だからよく知んなーい」


 つうかよ、ここで得意の『記憶にございません』の出番だろうに。ったく。


「静粛に。卿ら、まだ質疑の最中であるぞ」


 こうポルタシオ将軍閣下が咎めるくらい、文部長殿も学者らも興奮を抑えきれずにいた。


「教会から一つ提案があります」

「どうぞ、神官長殿」

「では……。まず、ここからの話は国王陛下にご採択いただいたうえでの話とご認識ください」


 あたりから同意を得ると、神官長殿はつづける。


「大魔導様の叡智でお作りになられた分度器定規という品ですが、奉納は私どもで、と存じます」

「トルトゥーガ殿が納めるのではなく、ですか?」


 文部長殿からの尤もな疑問だが、いまのは神官長殿がベリルの秘密を守るのに気を回してくれたんだろう。ならここは乗るしかねぇ。


「こちらとしては構いません。広めるってんなら、うちみてぇな小身の者が納めるより、神官長殿が納めてくださるほうがいいのでは。分度器定規が広まったぶんだけうちも儲かりそうですんで。ああでも、神様から賜ったカネについちゃあこっちに」

「うっわー。父ちゃんめちゃケチくせーしー」


 違うわ、ボケ。

 こう言っとかねぇと奉納を譲るってのが不自然に見えちまうだろうが。ったく。


「ほっほっほっ。そこでどうでしょう。模倣品が出回らないよう教会の刻印を押すというのは?」

「へへっ。そいつぁ信用抜群だぜ。販売数に応じてのお布施を納めなきゃあならんですな」

「そのあたりにつきましてはお気持ちの問題ですので」


 うわぁ。これじゃあまるで銭ゲバ貴族と悪徳神官のやり取りだな。だが、多少は真実味が増すだろう。

 まさかベリルの存在感を消すために一芝居打ってるたぁ誰も思うまい。


 ……いや、ちっとウソくせぇか。


「これこれトルトゥーガ殿。神官長殿も。ここは茶会の場であるぞ。個々の儲け話はあとにしてはどうかの」

「おおっと、これは失礼しました」

「うむ。では、筆頭殿と文部長殿から質問は以上のようなので、次はワシから軍政に関する話をさせてもらってもよいかのう?」

「ええ。異論ございません。重さの求め方については、後日、大魔導様よりお伺いいたしますので」

「うちもそれで構いません」


 ポルタシオ将軍閣下も乗ってくれて、なんとか文部の長官殿の質疑は打ち切れた。


 さてさて次は閣下からか。なら間違いなく軍政の話だよな? まったく心当たりがねぇんだが。


「うむ。ワシからは大きく二点ある」


 ——え、そんなにあんの?


「まずは先のウァルゴードン辺境伯領との小競り合いで使用させたという魔導メガホン及び魔導太鼓について、詳しく聞かせてくれんかのう」


 まさに予想外ってやつだぜ。まさかあんなオモチャを追求されるとは思ってもみなかった。

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