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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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茶会議、二日目②


 ひきつづき宮廷魔道士筆頭のボロウン殿と文部の長官殿による質疑なんだが、次の議題は文部長殿が主導するようだ。


「ええー、最近各地に出回っておりますこちらのについてお尋ねします」


 と、文部長殿が取り出したるは、うちでは見慣れた定規だった。

 こりゃあ査問らしくなってきたな。つうかなんでそいつが表に出回ってんだよ。俺ぁ売るの許可した覚えはねぇぞ。


「前提として、かねてより我がミネラリア王国では初代国王の肘から指先までの長さを基準として、長さを定めてきた歴史があります」


 うわ、なんかマズい雰囲気。

 こっちは心臓バクバクしてるっつうのに、ベリルのやつ、早くも弁当のオニギリにバクバクかぶりついてやがる。


「私的な物差しだろうとは察しておりますが、この長さの根拠をお答えください」


 どうやら咎めるつもりはないらしい。

 だが、これがもし俺の身体のどっかを基準にしてんなら、反意ありとみなされちまうとこだった。

 きっと、どっかしらの貴族から垂れ込みか問い合わせがあってのことだろう。面倒くせぇたぁ思うが、こうやって申開きの機会くれたのはありがてぇ話でもあるな。


「お答えします。こちらは定規と言いまして、魔導ギアはじめ我が領の品を作る際の目安としております。細かい幅はちょうど銅貨一枚と同じでして、真っ直ぐな線を引く、または真っ直ぐに切断するためにも用います」

「では、こちらの定規はトルトゥーガでのみ使用していると?」

「はい。ですがどういう手違いか、外でも使われていたようでして……」

「ああーそれたぶん、技術(ぎぢゅちゅ)交流会のお土産にあげたやつだし」


 ええい、また勝手なマネを。

 いますぐベリルをとっちめてやりてぇところだが、言い訳すんのが先か。覚えてやがれ。


「——でですね! いま我が領で押し出している魔導歯車を利用した品作りのため、研究用に渡したのかと。なにかと精巧な作りが求められるものでして。それこそ、その細けぇ幅一つぶんに収まるほどの緻密さなんですよ。だから……」


 って、あんましちゃんと聞いてねぇな。


「ぁあ、トルトゥーガ殿ご安心を。我らはなにも責めるつもりはないのです」


 だったらそう先に言ってくれよ。

 いや、私的に使ってるん云々と配慮してくれてたか。でも焦るっての。


「これは我が国だけでなく、交易をする諸外国とも長さを共有できると考えまして。また方々の領主からも問い合わせがあったこともあり、トルトゥーガ殿の口からご説明いただきたかったのです」


 やっぱりイチャモンつけるヤツはいたんだな。

 しかし交易で使うのか。たしかに場所場所で長さはバラバラだもんな。


「あれじゃーん。国際単位ってやつー」

「ほう。いい呼び名ですね」

「でっしょー」


 これにて解決かと思いきや、ここで文部長殿は「しばしお待ちを」と断りを入れて、


「キミ、神官長殿がすでにお見えならお通ししろ。この定規が銅貨の幅を目安としているなら教会の方にも同席いただき、意見を聞くべきであろう」


 と役人の一人を使いに出した。


 おいまてまて待て。いま『すでにお見えなら』って言ったよな。つまりははじめっから招いてたってことになる。

 そういうのは事前に伝えといてくれたらいいもんを。

 と、ポルタシオ閣下を目で咎めたら、言い忘れてたって顔で『すまん』ってされた。俺からは『頼んますぜ』って眉を寄せて返す。


「父ちゃんってば、また将軍さまとめっちゃ目で通じ合ってるし。マジそれ需要ねーってー」


 ベリルはいったいなにを言ってるんだ?

 どうせロクでもねぇことだろうから、ここは聞き流しておくに限る。


 で、待つことしばし。


「お待たせしました」


 神官長殿がやってきた。そんでなぜか質問側の席に座り、


「おおーう。神官長さーん」


 ベリルの気安い挨拶には「ほっほっほっ」と好好爺らしい笑みを返した。


「ではこの定規について、神官長殿の意見も交え——」

「待ってまってー」


 唐突に待ったをかけたベリルは、ガサゴソとリュックを漁りはじめた。

 そして、


「じゃじゃーん。これなーんだ?」


 と薄っぺらい半円を掲げる。


「定規じゃねぇのか?」

「ひひっ」


 どうせ意匠が新しいだけだろうとタカを括っていたが、どうも違うようだ。

 ぴょこ〜んとイスから降りたベリルは、てってく質問側の席へ見せびらかしにいった。


「この半円についている目盛りはいったい⁇」

「やっぱし気になっちゃーう」

「ベリル様、お教え願いますか」

「ぬわんと! これ、角度が測れちゃうし」


「「「——なんと⁉︎」」」


「えっとたとえばー、ちょっとペン借りんねー」


 ベリルは筆頭殿からペンを受け取り、神官長殿の膝をイス代わりにして、なにやら紙に書く。


「この三角形の角度は、ここの角っちょね。分度器定規を当てるとー、六〇度ってわかっちゃうし。すごくなーい」


「「「…………」」」


「ん? あんまし? もしかして似たようなの元からあった⁇」


 周りに反応がなくて、ベリルは首を傾げてる。

 だが違うぞ。それはどうやってこんなもん作ったんだって反応だ。


「大まかに角度は測っていましたが、なぜそこまで正確な目盛りが打てるのでしょう?」


 という文部長殿の問いに、ベリルは目一杯得意げなツラして、


「ふっふっふっ。すべての答えは正三角形だし」


 あたりへ可愛げのねぇ威張りくさったツラを振り撒いた。


 そういやアイツ『世界の真理が云々』言って、定規をいくつも重ねてなにやらしてたな。あれが、これか。

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