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茶会議、初日④


 陛下の臨席よりやや早めに、はじまったときと同じ数の席が埋まっていた。

 参議殿も四名。主計、土工、殖産、文部、司法その他の長官殿たちも勢揃い。


「では、本日執り行われました茶会の話題について、陛下へご説明いたします」


 左大臣殿が、税の申告についてや道の敷設について、どういう結論をみたのか報告。


「余から決定事項に異はない。申したとおり取り計らえ」


 話は概ね了承で進んでいく。

 しかし陛下は一つ大きな興味を示された。


「物の行き来。加えて『トルトゥーガ特別税制』による富の波及、か……。面白い」

「おおーう、すっごーい! 王様ってば気づいちゃった感じ?」


 な、なんたる言い草。

 小突いてでも黙らせなきゃならん。


「おうコラベリル!」

「——待て。トルトゥーガよ、待つのだ。ベリル、つづきを申せ」


 陛下が聞きてぇっつうんなら俺としても止めようがねぇ。が、ベリル、テメェはなんでいちいち俺に『どうだみたか』って顔を向けてくんだ。キリキリ仰せにしたがっとけっ。

 早く答えろとアゴでしゃくってやって、ようやく生意気盛りは口を開く。


「んっとー、王様が言ってんのって物流? とかそーゆーやつでー、その経済効果みたいな……」

「オメェが知ってる言葉で話して差し上げろ」


 いまさら口調なんかどうだっていい。


「そっかー。んん〜……例えんなら、王都で買える服が田舎だとめちゃ高かったり売ってなかったりすんじゃーん」

「ふむ。その逆もあるであろう」

「そーそー。痛みやすい食べ物とかとくにそーかもー。でね、あーしら消費者はいままでは『送料高っ』てなってたわけ。でもさーあ、道が広くて良くなればスイスイ運べるよーになるっしょー。したら安くなんなーい?」


 ここで聴衆にまわったお偉方たちは、理解が及んだようだ。


 かくいう俺は、ちょっとよくわからん。

 いや、安くなるのはわかる。当然の結果だ。なかには利益を増やすだけの商人もいるだろうが、他んとこから買われて早々に立ち行かなくなるはず。

 そうなると……どうなる⁇


「安いと売れちゃってー、商人儲かっちゃうし。んで、儲かったおカネでそこのモノ買うんじゃね。いままでよりいっぱーい。そうすっと安く買えた人たちも、地元のモンたくさん売れて潤っちゃう。これってみんなハッピーなやつだし」


 なるほどな。おおよそんとこは腑に落ちたぜ。


 しかしいまの話、いつまでもつづかんだろ。食い物なら胃袋の数しか売れんぞ。服なんかもそうだ。

 贅沢品なら別なんだろうが、それだっていつまでも売れつづけるってもんでもねぇ。


「やはり面白い。だがベリルよ、其方が語る流れにもいずれ限界がくるであろう?」

「それってたぶん何百年も先だし」

「ふむ。なぜそう申せる?」

「だってぜーんぜん足んないんだもーん。美味しいゴハンとか可愛い服とか当たり前でー、スマホはムリだとしても楽しーことまだまだぜんぜんだし〜」


 これ、聞きようによっては国政を批判してるよな。——いやいや、どう好意的に解釈してもそうなんだろっ。


「おいベリル!」


 いまのはさすがにマズい。


「すぐ取り消して詫びいれろっ」

「はあ〜? なにがいけないのさー。王様、あーしの話聞いてくれてんじゃーん。つーことはさーあ、明日明後日って、もっと良くしてくれるってことじゃないのー? あーしそーゆーつもりで話してんだけど、なにがダメなん?」


 ダメじゃねぇ、が、それは俺だけにとおる言い分だ。


「よい、よいのだトルトゥーガ。もっと良い明日か。ベリルは未来を見てきたかのように話すのだな……。では余も例えよう。王たるもの、先日のスモウ大会のような衣食住以外の豊かさを民に与えねばならん。ベリルはそう申しておるのであろう。富の他にも娯楽などにより幸せを享受させねばならんとな」


 ……なんと思慮深い。

 陛下は、本当に寛大な方なんだな。ベリルなんぞの発言を許したうえで理解に努めてもくださってる。

 ちっとウルっときちまったぜ。


「ああー、そんな感じの聞いたことあるし。たしか幸せ指数とかゆーやつっ」

「ほう、興味深い言い回しであるな。しかしそのような民の心の内、たとえ秤の神でも測れまい。否、失念していた。其方らは奉納試合に対する充分な品を授かったのであったな」

「そーそーめちゃ盛り上がっちゃってー、最後にすんごいのくれたし! つーか王様も観にこれたらよかったのにー」

「見逃してしまったことを心より残念に思う。だがな、そもそも余は招かれておらなかったのだ。のうトルトゥーガよ」


 ……え゛。なんで俺が責められる流れになってんの。

 俺、こないだ手紙で謝ったじゃねぇか。報告書も送ったしよぉ。それにハンバーガーの件もある。

 もしや陛下って、娯楽に対しては狭量なの?

 いやいやいや、心中とはいえさすがにこれは不敬がすぎるか。


「あーしはご招待のお手紙したかったのにー、父ちゃんってば『迷惑だからダメ』とかゆーしー」

「迷惑などと思いもせぬぞ」

「ねー。ほらやっぱし王様も呼んだ方がよかったんじゃーん。したらワル辺境伯とケンカになんなかったしー。あーしはそーゆー深いとこまで考えて——」

「よっし、わかった。わかったからベリルは黙っとれ。陛下、スモウ大会については次回から王都で開催するということで、ここは一つ……」


 ほれ役人ども、いいや官僚様たち! 最高権力者のワガママに泣かされる木っ端貴族の俺、スンゲェ可哀想だろ。さっさと救いの手を差し伸べやがれっ。つうか助けて将軍閣下っ。


「陛下、スモウ大会は明日の議題に含まれておりますので」

「うむ。そうであったな。ならば明日、ゆっくりと議論を交わそうではないか」


 議論を交わすって……。俺が一方的にやり込められるようにしか思えんのだが。

 とにかく、閣下のおかけでひとまずは難を逃れられたとしておこう。


 これでようやく本日の議題が終わる。

 ホッ……ようやっと話がまとまったぜ。


 かと思いきや——胸を撫でおろすのはまだ早かった。


「そーそー。道路っていえばさーあ、王様に相談したいことあってー」

 

 などとブチ上げるアホたれが一名。もちろんベリルだ。

 おうコラ、俺に相談すんのが先だろっ。


「聞いてきーてー。あーし電車走らせよーと思っててさーあ」


 あぁあぁ〜まーたはじまった。

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