茶会議、初日③
まだ左大臣殿から内政に関する問いはつづく。
ひきつづき参議殿も主計長殿もいて、加えて土工の長官殿も加わり、おまけにポルタシオ将軍閣下まで向かい側に。
離れた席にもチラホラお偉いさん方が戻ってきてんな。うわ、宮廷魔道士筆頭のボロウン殿までいらぁ。
加えてここまでの議題から考えると……、
「ではつづいて、パスカミーノ領とトルトゥーガ領を結ぶ道についていくつか尋ねたい」
やはりそれか。
しかし以前、作り方については手紙で知らせてある。他になにが聞きてぇってんだ?
あとベリル。テメェは我関せずってツラでオニギリ頬張ってんじゃねぇよ。これもオメェがしでかしたことの一つだろうが。
ん? 父ちゃんも食べる⁇ いらんわ!
「本件に先当たり、我々は件の道に調査団を派遣した」
え……、んなことしてたのか。知らんかった。
隣からニタニタッと、都合のいいところだけ聞きつけた問題幼児のドヤドヤ威張り散らす様子がビシバシ伝わってくる。
ウザってぇ。いいからテメェはオニギリでも食っとけ。
ん? やっぱり食べたいん⁇ だからいらんて。
「先日、書面での報告は受けているが、ここにいる多くの者にいま一度トルトゥーガ殿から説明を願いたい」
わかりました。と、俺は地面を均す工程から包み隠さず伝えていく。
合間あいまに、
「その『石柱』の派生魔法について詳しく!」
「筆頭、魔法に関する質問は明日で」
や、
「魔導三輪車とやらは、そこまでの馬力があるのかのう?」
「閣下、あれに関する話は三日目に」
などなど質問と嗜めるやり取りが挟まれたが、ひととおり混凝土の道ができるまでを話し終えた。
それぞれに参議殿や長官殿らでコソコソやってたり、かと思えば用事を言いつけられた役人が駆けてったり。
俺の説明のあと、ややあって、左大臣殿は口を開いた。
「して、件の道をトルトゥーガ殿に依頼した場合、いかほどになる?」
「はいはーい。あーしが左大臣どのの質問に答えちゃいまーす!」
面倒な説明は任せっきりでいたくせに、ここにきてベリルがでしゃばる。なんとボッタクリみてぇな金額を吹っかけたんだ。
それは使う石灰の値段に桁を一つ増した額で、当然、左大臣殿の頬はひきつる。
「う、内訳を聞かせてくれぬか」
「まずー、あーしと大魔導ママのお給料っしょー。あと父ちゃんたちトルトゥーガ組のお給料があってー、あっ、ここで使う魔導ギアはぜんぶ竜騎士団からのレンタル——貸してもらうってことねー。残りのセメント代はそーでもないかも」
「「「ふぅむ……」」」
一同、考え込むことしばし。
「……さようか。たしかに、大魔導殿の魔法とトルトゥーガ竜騎士団のチカラがあってこその、施工の速さなのかもしれぬな」
「左大臣殿。こちらから質問しちまうカタチになりますが、いいですかい?」
「構わんよ、トルトゥーガ殿。あくまでこれは茶会であるのだ。遠慮はいらぬ」
まだ茶会と言い張るか。やっぱりこの人も役人なんだな。
「では遠慮なく。みなさんは道を作ろうとお考えで?」
「うむ。しかし聞くに特殊な技能が必要なようだ。どうにか我々の手でならんものかとも考えておる」
「でしたら……。おいベリル。あの道は魔導の道具やヒスイの魔法に頼らねぇでも作れる、そうだよな? やってみた感じ、そこそこ人足揃えて急がなきゃあ誰でもできると思うんだが。どうなんだ?」
「できるんじゃね。ローラーは引っぱるなり押すなりでかけられるだろーし。ゆーて普通コンクリートって、ペタペタしてから時間かけて乾かすもんっしょ。あと乾く前なら溝も簡単に入れられるはずー」
これにはあたりから『おお!』っと声があがる。同時に『あっ』と己を振り返るような声も。
どうやらみなさん方は魔導の道具や魔法に目がいってしまい、目方を測ったあとは単純作業だってことに気づけなかったらしい。
こっちからすると首を傾げちまうようなポカに見えるが、それだけ混凝土の道の衝撃がデカかったんだろう。
「言われてみればそのとおりだのう」
「いやはや、まったくだ」
ホッとした空気のなか、土工の長官殿が手を挙げる。
「一つ、お聞かせ願いたい。話にあった砂利を敷き詰めるという工程、これは必要なのですか?」
おっと、これは俺も答えられん問いだぞ。
おいベリル、お答えしちまえ。ほら。
「ん〜? なーにー?」
ここにきてスッ惚けんなや。
しゃあねぇ。こっちで適当に答えておくか。
「水捌けがよくなる、そう考えて施しましたが、実際のところはよくわかっとりません」
「——いやいや父ちゃん! あれ絶対いるってー」
「なんでだ?」
「よく知んなーい。でもでも絶対いるしっ」
この間抜けな親子のやり取りを見て、なぜか左大臣殿らは納得してくれた。
おおかた、ヒスイがもたらした東方の知恵をわけもわからず使った、そう捉えてくれたに違ぇねぇ。
「左大臣殿。これについてはいくつか試してみて、ワシらで結論を出すしかあるまいて」
「閣下の仰るとおりですな。しかしトルトゥーガ殿、よかったのかね?」
なんの話だ⁇
「この混凝土の道、王国各地で施工を請け負えば、かなりの利益になったと思うのだがな」
と、若干申し訳なさそうにされた。
俺としちゃあ拍子抜け。なんだそんな話かよってなもんだ。
「左大臣殿なら、うちの人口くらいご存知かと。コイツがあれこれ手ぇつけまくるんで、正直もう手一杯です。大枚叩いて頼まれたって対応できません」
「そうかそうか。ならば我らで進めてしまっても構わんということだな。うむ。胸の支えが取れた。利を掠め取ったようなことにならなくてよかったわい」
ずいぶんと気ぃ使わせたみてぇだな。
だってのにうちは税をケチッちまってんだ……ここはなにかしら返しておきてぇとこ。
「つーかコンクリートの魔法、ママに教えてもらえばー」
「「「大魔導殿に⁉︎」」」
あーあ。スンゲェ期待の眼差し。
またベリルのやつ余計なこと言うから、宮廷魔道士殿らが真に受けちまったぞ。
いや、俺としてもなんか返してぇと思ったとこではあるんだがよぉ……。
「あーしとしても、いろんなとこに平らな道路あったらドライブしやすいしー」
やっぱりテメェの都合か。
ヒスイの嫌そうな顔が目に浮かぶぜ。
「オメェが説得しろよ。俺ぁごめんだ」
「——あっ! てかさーあ、せっかくだし作ってるとこ見してあげたらいーじゃーん。うっは、これいけそーじゃなーい」
聞いちゃあいねぇ。
話が飛んで首を傾げる面々にもわかるよう、俺はベリルの意図を聞き出し、みなさんへ伝えてく。
「つまりはトルトゥーガから王都まで道を繋げてぇと。しかも費用は国側の持ちで」
「いやいや人件費くらいあーし出すし」
うちがやるんならタダみてぇなもんじゃねぇかよ。俺にカネ払ったこと一度もねぇくせに、よくもまぁいけしゃあしゃあと。
とはいえベリルの狙いはさっき言ってたとおりで、ついでにトルトゥーガにも利がある。王都への行き来が大幅に速くなるんだからな。
その資材費用はもちろん、道中の領主たちとの交渉なんかの面倒事ぜんぶ国に押しつけて美味しいとこ取りするつもりなのも想像つく。
一見テメェ勝手な図々しい話だが、相手にとっても益ある話なのは確か。
「ではトルトゥーガ殿、その方向で対応願う」
「日時につきましては各所との調整ののち、追ってご連絡します」
結果、一つ前の議題とは違い、今回は参議殿も各長官方も揃ってホクホクのご様子。
ついてはパスカミーノ領から王都までの道を繋げ、施工はうちが無償で請け負う。そのさい視察団を遣すという話で落ち着いた。
そして、夕刻前——
「そろそろ陛下がお見えになります」
残るは、今日の報告と決定事項の承認を得るのみ。
スンナリいけばいいんだが……。




