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茶会議、初日①


 いま俺は、王宮へトロコロ向かっている。

 前に作った藍色で艶たっぷりな馬車に、ベリルとアホほどの荷物も乗せて。

 ちなみに荷の中身は着替えとコメらしい。


 さあ今日から三日間——ヘタすりゃあ五日——連日の茶会だ。つっても実質は査問会みてぇなもんで、浮かれる要素なんかカケラもねぇんだが……。


「ふひひっ。王宮でお泊まり会だし〜。やっぱしお姫さまとオールで語っちゃうイベントとかあんのかな〜。女子会、やっちゃう系?」

「やらねぇよ」

「ちょっと父ちゃん! あーし楽しみにしてんのに、なんでそーゆーことゆーわけ〜」


 なんで苦言を呈されたのかもわからんらしい。もう何度も、かなりしんどい時間になるって伝えたはずなんだがな。


「おうブロンセ。俺ら届けたら待つ必要ねぇからな」

「へい、旦那」


 御者を務めるのはクロームァの兄貴のブロンセだ。

 なんでも今日のために服を新調したとか。長い手足と長身もあって、やたら男映えしてやがる。


「ベリルが勧めたんか?」

「ん? ブロンセの服? あーしなんも言ってないし。つーか王都でできたカノジョの影響なんじゃね?」


 ガタッと馬車が揺れる。


「なんだなんだブロンセ。オメェ、オンナできたんか?」

「ち、違いやすぜ。旦那っ」

「ホーント〜? 慌てっぷりがウソっぽ〜い。ねっねっねっ、あーしにも紹介してよ〜」


 なるほど。さっきのはカマ掛けだったんだな。


「こらベリル。あとにしとけ。馬車がひっくり返っちまうぞ」

「ええ〜いーじゃーん。ねっねっブロンセ、それってあーしの知ってる人なん?」

「で、ですから小悪魔殿、あっしは……」


 グネグネ蛇行してっからオンナができたのは間違いねぇ。ったく。王都にかぶれやがってからに。

 だからってお目付け役が疎かにしてたわけじゃあねぇだろう。いきなりイエーロがガキこさえちまったのは、まぁ……、それはそれで跡取りってのは大事な問題だからな。ここで触れるのは微妙か。


「ひししっ。カノジョちゃんと二人っきりになるために一人暮らししてたんか〜。ブロンセってばエッチなんだ〜」

「いえ、いっしょに暮らしてねぇのは……そのぉ……気まずくって……。察してくだせぇ」


 六歳児になにを察しろってんだ、アホたれめ。


「ああ〜、そゆこと。たしかに兄ちゃんとクロームァちゃんのギシアン聞こえたら気まず——あ痛っ」

「いい加減にしろ」


 まだまだ直前まで言含めておきてぇことがあったのに、品のねぇ話してる間についちまったじゃねぇか。

 ブロンセのオンナについては帰ってから酒の肴にしてやるとして、まずはこの数日を乗り切らなきゃあならん。



 馬車から降りると、すぐさま荷物は城の者らが部屋まで運び込んでくれて、俺らは会場へと通される。

 またしても案内はポルタシオ将軍閣下だった。


 そして俺は、目にした会場にさっそく頭を抱えたい気分にさせられる。


 ………せめて茶会の体裁くらい保ってくれよ。

 つうかここ、俺らが入ってもいいんか?


「国会みたーい。あーし、議長んとこ座ってみたーい。コンコン『静粛に』ってやるし」


 ベリルがなに言ってるのかサッパリだが、扇状にズラリ並ぶ席や一台高い場所にポツンと置かれた席、他には全体を見下ろせる席もある。

 どう考えても和気あいあいと茶ぁ啜れる場所じゃあねぇよ。


「ではトルトゥーガ殿とベリル嬢は、そちらの席へ」


 だろうなたぁ思ったが、やはりポツンと置かれたどこからも見える席に座らんとならんらしい。


「そーそー、ここに立って『記憶にございませーん』って言うといーし」


 おいコラ。さっそく手の内を晒すな。


 その後もベリルは勝手に演説用の台やらなんらを見て回ろうとする。もちろん追っかけて即とっ捕まえてやった。

 襟首掴んで、ようやく着座だ。


「ガッハッハ! ベリル嬢は相変わらず闊達だのう。では、そろそろはじめるとするかの」


 とポルタシオ閣下が告げるや否や、いくつもある扉から官僚の長たちがゾロゾロズラズラ。

 そして全員が席について、しばし。


 国王陛下がいらっしゃった。


 直ちに席を立ち、跪く。当然ベリルも隣に。っつてもコイツはペタンと地べたに座るだけだが。


「トルトゥーガよ。面をあげよ」

「はっ。アセーロ・デ・トルトゥーガ子爵、陛下のお召しにより参上しました」

「ベリルも来ちゃったし〜。王様、おひさでーす」


 この口ぶりに一瞬だけザワつくも、カブキ御免状の効果か、すぐに静まる。


「少々長い茶会となるが、楽しんでいくがよい」


 まだ茶会と言い張るか。

 こんな冒頭の会話ですら書記がカリカリ認めてってんぞ。なにごとも体裁ってのが大事なのかねぇ。


「ひひっ。証人喚問めちゃ楽しみ〜」


 オメェはオメェで話合わせとけってんだ。


「将軍、予定について説明せよ」

「はっ。午前から、明日以降は朝食後となりますが、昼をすぎ三の刻まで各部署の者が自由参加できる茶会となります。以降、陛下もご同席いただき五の刻まで茶会。そして六の刻の晩餐の茶会までは関係者のみ参加可の茶会となっております」


 もう茶会ってのにはツッコまねぇぞ。

 つまりは午前から昼過ぎまで査問会がつづき、陛下がきたら状況説明ののち速やかに結論出せと。んで晩メシまで折衝して、そのあと陛下と食事会って予定か。

 いますぐ回れ右してぇな、おい。


「ええ〜、ランチないの〜」

「ランチとな?」

「昼メシのことです」

「食事が必要なら運ばせるぞい」

「ほーほー。ここでゴハン食べてもいーのねー。なら大丈夫だしっ。あーし、こんなこともあろーかとお弁当持ってきたもーん」


 そんなこんなあったのち、関係各部署の官僚たちが役職名で自己紹介していく。


 が……ダメだ。多すぎてぜんぜん覚えらんねぇ。

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