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ソウルフードだし⑥


 ポルタシオ将軍から告げられた名称茶会——実質喚問の内容を、ひととおり伝えると、


「だいじょぶだってー。なに聞かれても都合悪いことは『記憶にございませーん』って言っとけばいいーしー。よゆーよゆー」


 ベリルは意外な反応。

 もっとこう、王宮暮らしを体験っ、みたいなノリではしゃぎまくると思ってたんだが……。


「あとは『一部報道にあります件については、現在調査中でーす』とか『事実関係を答える立場ございませーん』とか『コメントは差し控えさせていただきまーす』とか言ってー、ピンチになったら最後ぜんぶ秘書がやったことにしちゃえばいーし。楽勝じゃーん」


 なるほど。コイツの魂胆がよっくわかった。

 ベリルに限って親父の苦労をしのんでってこたぁねぇとは知っていた。つまりこういうことだ。


「オメェ、しらばっくれて遊ぶつもりだろ」

「『記憶にございませーん』」


 ほれみろ。それ、疾しいことあるって白状しちまってんのと同じだぞ。


「つーか、ハンバーガーをゴチんなきゃなのはわかったし。あと王様ディナーをゴチソーしてくれんのも。あーしはどっちも楽しみ〜。でもさっ、肝心なとこ抜けてなーい」

「つうと?」

「なに聞かれんのか先に教えてもらっとかないとじゃーん」


 たしかにベリルの言うとおりだ。

 ペロペロ飴しゃぶりながら足プラップラさせるアホっぽい仕草で指摘されんのは癪だが。

 つうか腹いっぱいじゃなかったのかよ。これが別腹ってやつか。ったく。


「そーやってメンドそーなこと後回しにしちゃうの、父ちゃんの悪い癖だしー。いっつもそー。身に覚えあるんじゃなーい?」

「『記憶にごぜぇません』」


 おっ。案外これ便利だな。


「ってよりだな、だいたいがテメェのやらかした後始末なのを忘れたか。俺ぁずっとそれに追われてんだぞ。それをよくもまぁヌケヌケと」

「ぜ、ぜんぶ秘書が——」

「首謀者はぜんぶオメェだ」


 実際んとこ、喚問の詳細について確かめてこなかったのは俺のポカだ。たぶん聞きたくなかったんだろう。

 面倒事を後回し、か。図星だな。


「明日、朝一にでも問い合わせのまとめをもらってくる」

「んんー……それどーなん?」

「オメェが必要だって言ったんだろ」

「いや、そーなんだけどさー、やっぱしなしで。だって当日になって急に聞かれることってありそーじゃーん。ちなみに、併せて、関連してー、みたいに」


 たしかにあるだろうな。

 ならどうする。やっぱり準備はいらんのか?


「だからさーあ、言っちゃいけないことだけ決めとけばよくなーい。したらあとは内緒って決めた話にならないよーにして、なるべく素直に答えてけばいーだけだしー」

「それもそうか」

「そーそー。それにきっと、先に質問を考えてもらっといたら、びっくりするくらい細かいことまで聞いてきそーじゃね」


 なるほどな。コイツのこういう思考がいつも後出しに繋がって俺を困らせるのか。参考になる。


「あとはこっちから不用意なこと言わなーい、とか」

「それについちゃあオメェの軽い口が一番心配だ」

「そーお? 父ちゃんだってこないだ、サユサちゃんを男の子って間違えてたばっかしじゃーん」


 いや、ありゃあイエーロに似てたから、つい。つうか赤ん坊の性別なんかわかるかっ。

 だがここは様式美に則り、こう答えるべきだろう。


「記憶にねぇな」

「うひひっ。さっそく使いこなしてるしー」


 なーんて戯れを挟んで、俺らは絶対に答えないことを決めていく。


「よーし。けっこー長くなりそーだし、夜食のオニギリもってくんねー」


 まだ食うのかよ。



 夜遅くまで話した結果、秘密にするべきもんはそう大して多くなかった。

 つうか二つだけ。

 ベリルの魔法についてと、ベリルが聖女かもしれん云々ってことのみ。

 だから一番の心配は「よゆーじゃーん」とかほざいてた本人が喋っちまわないかだけだ。


 朝メシのあと、念のためヒスイと話してみても結論は変わらず。

 おかげで少し気が楽になったぜ。


 さて、今日はゆっくり過ごせる。

 そんなふうに過ごし方の算段をたててたら、クロームァから急な来客の知らせが。


 アンテナショップの店先まで顔を出すと、


「こちらにいらっしゃいましたか」


 と、几帳面そうな壮年の男。

 どうも俺を探しまわってたようだが……はて? 見覚えがねぇ。


「私、宮廷の料理を取り仕切るコシネーロと申します」


 …………あ。そういやポルタシオ将軍が人を遣すとか言ってたな。


「すまん。宿に向かっちまったか」

「いえ。お気になさらず。さっそくですが、陛下に振る舞われる新作の料理について打ち合わせをさせていただきたいのですが、ご都合よろしいでしょうか」

「おう。構わんぞ」

「構うし。ここ兄ちゃんちじゃーん」


 いつの間にかベリルが隣にいやがった。

 オメェいつからいた? 最近やたらと気配消すの上手くなってねぇか。


「つーかゴハン作る話なら、やっぱキッチンっしょ」

「たったいまの発言と矛盾してんぞ」

「してないし。あるじゃーん、王都で一番立派な台所がさーあ」


 コイツまさか——


「つーわけで、王宮のキッチンへしゅっぱーつ」

「こら、勝手に決めんな」

「……あのぉ、ほぼすべての食材は揃っておりますので、こちらとしては異存ありません。ですが、子爵様にご足労願ってもよろしいのでしょうか?」


 そりゃあ構わんが、台所とはいえ王宮なんて、そんなホイホイ気軽に顔出すところじゃねぇだろ。

 しかし実際に作って見せんのが早ぇのも事実。ここで億劫がって後悔するよりは、マシか。


「料理長さーん。お米ある?」

「米、ですか。申し訳ありません。召し上がられる方がおりませんもので……」


 オメェさぁ、さっそく王宮の台所のメンツ潰すようなマネすんなよな。


「一袋あれば足りるか?」

「念のため三袋お願ーい」

「ちっと待っとけ」


 こうして俺は、ベリルと米を担いで王宮へと向かうのだった。

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