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アンタらもここの子!②


 スンゲェあちこち痛ぇ。


 一晩グッスリ寝て元気いっぱいかと思いきや、溜まってた疲れが一気に襲ってきやがった。


「ひししぃ〜っ」


 そして小悪魔も忍びよる。


「おいベリル早まんな! 落ち着け。ゆっくり話し合おうじゃねぇか、なっ」

「どーしよっかな〜——と見せかけてっ、おりゃ!」

「ぐぉ、待て、やめ、やめろって。くぉ、コラくすぐんなっつうのっ、おいベリル!」


 いつぞやもやられたが、コイツやたらくすぐるの上手ぇんだよな。いっつもヒスイにやられてるからか。



 ハァ、ハァ……。

 身体の上を這うようにチョコマカ逃げまわるベリルを捉まえるまで、そこそこ時間がかかっちまったぜ。


「なーんか父ちゃん鈍ってるし」


 なん、だと。


「次はワル辺境伯に負けちゃうかもねー」

「ま、まさかぁ。次だって余裕でポイッと投げ飛ばしてやるっつうの」

「どーかな〜」


 万が一、いまのがベリルが成長したからではなく俺が鈍ったからだとしたら……マズいぞ。そいつぁマズい。


「え、得物も変わったしな、ちぃと稽古の時間を増やすとするか。うむ。俺が鈍ったわけじゃねぇがな」

「うんうん。そーした方がいーかもしんなーい」  


 と、俺を煽るだけ煽っておいて、


「でも、今日は朝ゴハンから夜ゴハンまで、チビっ子ちゃんたちんとこだからねっ」


 こっちの勢いを削いでくる。


「オメェとゴーブレがいればいいじゃねぇかよ」

「いやいや。そこはほら、領主さまだし」


 なんか、おちょくられてるように聞こえんのは俺の気のせいか?


「ほら早く支度して〜。みんなお腹空かしてるし」


 つうわけで、今日も今日とて一日中ベリルに付き合わされるハメになった。



 共同の炊事場へ行くと、すでに他の者らは朝メシを済ましてて、チビたちがいるだけ。あとはゴーブレも。


「はーい。みんな席についてー」


 ベリルが手をパンパン叩くと、なんとなく隅っこに固まって座る。

 つづいて女衆がメシを運んできた。


 しかしいくらチビどものメシっつっても、


「少なくねぇか?」


 小さな器に半分未満はねぇだろ。


「だいじょぶだいじょぶ。いーから見といてってー」


 イヤガラセの類じゃねぇのはわかる。いくら性悪なベリルでも、んなこたぁせんだろう。

 永く籠城戦したあと一気にメシ食うと、腹がびっくりしちまうから良くねぇって話は聞いたことがあるが……、そういう気遣いでもなさそうだ。

 つうかコイツら、まったく食ってなかったわけでもねぇようだし。となると娘の意図がサッパリ読めん。


 全員の前に粥と匙、布巾が置かれる。それをチビたちは浮かない顔して眺めてた。腹は減ってるはずなのに。

 ははぁん。どうせ藁くせぇマズい粥だと思ってんだな。


「いただきまーす! つーかみんなも食べて食べて〜」


 おんなじモンをベリルが食いはじめると、チビたちも匙をとり、のっそり一口。


「「「————っ!」」」


 が、直後、猛烈な勢いで掻き込みだした。


 あぁあぁ〜口のまわりベッタベタじゃねぇか。テーブルも汚しまくってるしよぉ。


 あっちゅう間に食い終え、残念そうに器を置いた。

 どんだけ器の底を覗いても粥は湧いてこねぇぞ。


「まだ食べられる感じ?」


 こうベリルが問うと、俯いてた顔が一斉にあがる。


「そっかそっかー。んじゃ『おかわり』って頼もうねー。でもその前に!」


 だからその、上げて下げてってのやめてやれよ。可哀想だろ。

 くだらねぇ話だったら遮ってやる。そうベリルを睨むと『わかってないなー』とでも言いたそうなツラされた。


「みんな、ゴハン食べたまわりを見てみよっかー」


 ここで、チビたちは自分の口まわりはもちろん、テーブルや服、床まで汚してることに気づく。

 その直後——


「はいストップ。頬っぺベロでペロッてしなーい。テーブルも舐めちゃいけませーん。つーか——ちょ! 床に落ちたのは絶対ダメ。お腹壊しちゃうしっ」


 おそらくコイツら、そもそも行儀云々をまるで教えられてねぇんだな。

 だが、んなことより腹空かしてんだろ。早く食わしてやりゃあいいもんを。


「えっとねー、いまからみんなには、美味しくいっぱい食べる方法を教えまーす」


「「「ん⁇」」」


「溢したら勿体ないっしょ。しかもさー、いっしょにゴハン食べるみんなも、せっかくのゴハンが美味しそーに見えなくなっちゃうし。だからまず、布巾でお口を拭こっかー」


 言ってすぐ、ベリルは見本を示した。

 それを見たチビたちも、ゴシゴシ拭う。


「あーあーあー、そんな思っきしやったら真っ赤になっちゃうじゃーん。つーか父ちゃんもゴーブレも、見てないで手伝ってあげてっ」


 なぜ俺が。と文句言いてぇところだけども、それ以上に見ちゃいられん。


「おういいか。コツはな、ゴシゴシじゃねぇ。フキフキだ。やってみろ」


 あんま変わってねぇが、さっきよりはマシになったな。

 ついでに、余ってた布巾でテーブルもキレイにしてやる。


「うんうんヘーキそーかな? んじゃ次はスプーンの持ち方ねー」


 また実際にやってみせて、こんどはそれぞれの卓を回って、ちょいちょい直していく。


 ここで、一人の年長だろうチビが声をあげた。

 メシを早くよこせって不満たれんかと思えば、意外にもガキのくせにスゲェ申し訳なさそうな顔して……。


「あ、あの、ボクたちのしごとを、おしえてください。ゴハンもらったのに、まだはたらいてないから……」

「ん? いま教えてんじゃーん」


 これにはチビたち全員が首を傾げた。


「ゴハン食べんのもアンタらのお仕事なのっ。オッケーイ?」


 それだけでガキがわかるか。


「おうベリル、言葉が足りんぞ。いいか、オメェらはな、ターンとメシ食って元気でデッケェ身体を作らなきゃあならん。そっから仕事してもらった方が役に立つからよ。だから食うのも仕事のうちって、コイツはそう言ってんだ」

「そーそーそんな感じー」


 俺なりに、わかるように話したつもりだった。がしかし、反応みるからにあまり伝わってねぇ様子。


 なぁおいベリル、ホントにコイツらの教育なんてできんのか? 物心ついてすぐに刷り込まれた奴隷根性は、想像以上に根深いようだぞ。

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