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そして得たモノは⑤


 得物が手元にこれしかねぇからって罰当たりな理由で、もらった聖剣——金棒みてぇな鞘付き——で見つけたアンデッドを引っ叩いてみた。


「…………」


 効いたかどうかわかんねぇ。だって一発でグチャ、だもんよ。


 魔導ギアみたいに魔力の加減で軽くなったり重くなったりはない。だから戦い方の幅は減った気がする。

 しかし手足の延長くれぇの一体感はあり、使い勝手は悪くねぇ。


 試しに他の者にも振らせてみたんだが、


「こ、こんな重てぇ得物よく振り回せやすね」


 だとさ。

 腕力だけで言やぁ俺と大差ねぇだろうに。

 つうことは俺だけにしか扱えんとか、そういう縛りでもあるんだろうか?



 無事に周辺地域のアンデッド掃討は終わり、俺らトルトゥーガの者は引きあげることになった。

 すまんが、あとの復旧やらなんやらは王国軍の精鋭諸君にお任せだ。


 で、帰り支度も整うかって時分に、


「ちっとダンジョン覗いてきていーい? 入り口だけ。先っちょだけだし、ねっねっ、一回だけ。頭だけ突っ込むだけ、一瞬、一瞬だし」


 なんだか妙な意味合いを含ませた言い回しで、ベリルが拝み倒してきた。

 普通に頼めねぇのか、コイツは。


「おう。構わんぞ」

「ひひっ。父ちゃんチョロいし」

「なんか言ったか?」

「なんでもなーい。んじゃ、連れてってー」


 つうわけで、帰る前にダンジョンを覗いてみることに。


 坂を登ってると、肩車されてるベリルはなんともなしに呟く。


「やっぱここってお墓っぽくなーい。ピラミッドだし」

「墓か。だとしたら、オメェみてぇな喧しいヤツがきたら喧しくってオチオチ寝てられねぇな」

「もー、またそーやってー。あーしが来たら迷惑みたいな言い方しちゃヤッ」

「おうおう悪かったわるかった」


 ダンジョンの入り口は、消し炭になった集落跡地の少し奥。新たにできただだっ(ぴろ)い池を避けてすぐ。

 そこまで到着したところで、ベリルを下ろした。


「んじゃ、いってきまーす! 三〇分くらいしたら戻るしー」


 どれくらいの時間を指してるかは知らんが、間違いなく、言ったよりは早く帰ってくんだろう。


 ここにも王国軍の兵士たちはいて、周辺はもちろんダンジョンからアンデッドが這い出てこないか警戒をつづけている。

 となると当然、見た目三歳児がそんなところへ駆けてってたら心配されちまう。


「トルトゥーガ様。お嬢さん、大丈夫なのでしょうか? 未だ内部の崩落具合なども確認しておりませんし」

「ああ、気ぃ回してもらって悪いな。だが問題ねぇぞ」


 なぜなら早々に親父との約束を反故にして突入したベリルは、


「うっげぇえぇえええ……、ここ、めちゃくっせーし。おえっ」


 足を踏み入れただけで戻ってきた。ひでぇツラして。

 すぐ帰ってくんのも約束破んのも、俺の予想どおりだ。


「へへっ。オメェ、ここがどうして冒険者に避けられてっか忘れてたんだろ」

「もー! わかってたんなら先に言ってー。匂いついちゃったらマジ困るし」

「おお、言われみりゃあ確かに」


 クンクン鼻を鳴らしてやると、


「ひゃ! マジやめて。そーゆーのホントキズつくし。え……冗談だよね? あーし入ってすぐ出てきたし」


 普段は親父のことを汗臭ぇだのなんだのと好き勝手言うくせに、いざ自分がそういう態度取られて狼狽えてやらぁ。

 あとで風呂入って服は洗濯すりゃあいいもんを。ったく。面倒くせぇお年頃だな。


「おいベリル。いちおう忠告しといてやる。いまここでなんとかしようとしてんなら、やめとけ」

「………あっ、そーかも。あっぶねー。またママにメッてされるとこだったし」


 やっぱり家電魔法でなんかしようとしてたな。

 こんだけ王国兵がいる前で使ったら、ゴマカし利かねぇだろうが。この迂闊者め。


「みんな待たせてるんだ。さっさと帰ぇるぞ」


 ひょいっと肩車したら、坂を下ってく。

 ベリルはまだ袖の匂い嗅いで、落ち着きがねぇまんま。


「ねーねー、ホントあーし大丈夫? 匂ったりしてなーい? マジそーゆーのムリなんだけどー」

「おうおうそういやダークエルフっつうのは、オーガよりも鼻が利くって話だ」

「——ンキィイイイーッ! どーしてそーやって脅かすのさー。もー、まったく父ちゃんはーいっつもそー。もし『トルトゥーガさんちのベリルちゃんって、ちょっとオイニーが……』とか思われちゃったらどーすんのさー。あーしそんなの耐えらんなーい」


 頭の上でキーキー騒ぎやがって。ったく、オメェもダークエルフの血ぃ引いてんだろうに。それで気にならねぇんなら問題ねぇってことに気づかんのか。


「人けないとこついたら、降ろしてー」

「は?」

「洗うのっ」

「だから大丈夫だって。悪かった、悪ふざけがすぎた。俺には臭わんから」

「…………またウソいってー」


 疑り深ぇやっちゃな。

 ちょっと揶揄ってやるつもりが、とんだ時間の浪費になっちまった。


「心配ならヒスイにも聞いてみろよ」

「おおー、それいーかも——ってぇ! あーし騙されないかんねっ。そんなん本末転倒じゃーん。もしママに『あら、可愛いベリルちゃんからレアなスメルが……』とか言われたら、ゼッタイあーし泣いちゃうし」

「風呂入ればいいじゃねぇか」

「ふーんだ。もー、そーしちゃうもーん」


 なにすんのかと思えば——おい待てベリル!

 俺の頭部を巻き込んで、水の球の魔法⁉︎

 バカおい。やめ、フゲッ。は、鼻に水、フガッ。


 あとはずっとゴボゴボ水音に包まれること、しばし…………。


「ハァ、ハァ、ハァ……。オメェさぁ、ちっとは後先考えてろよなぁ」


 耳んなかにも水入って、まだ鼻の奥もツンツンするぞ。


「うんうん。父ちゃんも洗顔できたしオッケーじゃね?」

「じゃねぇよ」

「つーかさ、定番だけどこれ使えるかもねー」

「ア? どう使うんだ?」

「相手の息止めたりとか」


 …………コイツやっぱり危ねぇヤツだな。ダークエルフの血ぃキッチリ受け継いでらぁ。


「いまの話、絶対ヒスイにはすんなよ」

「なんで?」

「試したがるに決まってるからだ」


 って具合に内緒の方向だったんだが、全身びっしょりのベリルと肩車する俺の顔まで濡れてんのをヒスイに見られて、即バレちまった。

 でもさすがにうちの者を実験体にするなんてことにはならず、


「あら、素敵な魔法の使い方だこと。侵入者を捉えたら試しましょうね。嗚呼、早く曲者が現れてくれないかしら」


 だとよ。

 今回の件で、つくづくダークエルフのおっかなさが身に染みたぜ。

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