そして得たモノは④
よくよく検めてみれば、ゴッツいイボ付きの六角柱は鞘だった。
抜こうと思えば抜ける。そう思わなきゃあ振っても抜けん。それ以上に不思議なのは、剣を納めると継ぎ目がまるで見当たらんのだ。
ケチつけるつもりはねぇが、やっぱり神様が用意してくれるモンはよくわからんな。
「父ちゃんよかったじゃーん。これでホネホネゾンビがまた来ても楽勝だし。つーか次はワンパンっしょ」
まだ、神官殿たちや将軍閣下は呆けたまんま。
「なぜそう思う?」
「そんな感じだったじゃーん。はじめメッてされて、次からはこれでやっつけなさーい、みたいなー」
尋ねた俺もバカだったが、これ聞かれたのマズくねぇか。うむ。マズいな。
呆然としてた神官殿たちが息を吹き返しちまった。んでこんどは泡食って詰め寄ってくる——
「トトト、トルトゥーガ様。いまのお話は!」
「詳しくお願いします!」
「ポルタシオ様、早急に方々へ報せを!」
詳しくもなんも俺はなんにも聞いてねぇよ。つうか報せってどこになにを報せるつもりだ?
「初代皇帝以来か……。ミネラリアに、否、この大地に久しく現れなかった、勇者が……。——おおっとこれはいかんの。呆けておる場合ではないわい。王国への報せは任せよ。いいや王都の教会へも併せて伝えようではないか」
…………は? ホントなんの話してんだ?
「ぷっ……ぷっぷぷっ、ゆ、勇者……。くぷぷっ、こんなイカちー筋肉マンが、ぷひっ、勇者って——ぶあっは〜っははははははははっ、はひーはひー、いっひひゃひゃひゃひゃ、ダメダメっムリムリっ、お腹いたっ、もームリっ。ひーはひーは、息できねーし、ぶっ——ひゃひゃひゃひゃひゃ、マジ勘弁してー! ありえねーし、と、父ちゃんみてーな悪党ヅラの、ゆゆ、勇者って、ねーわ……——だぁ〜あっひゃひゃひゃひゃ、はひはひ、どんなギャグさっ、はひはひ、マジひっでーマジ笑えねー」
ひでぇのはオメェだろうが、コラ。あとゲラゲラ爆笑してんじゃねぇか、おい。
「詳しくことは俺にはわからん。いま笑い転げてる問題幼児は聞いたみてぇに言ってるが、話すかどうかも含めて少し時間をくれねぇか?」
「いえ、そういうわけには!」
「そうです! 事は国家だけの話に留まりません」
「——だから、考えさせてくれって言ってんだ。それともなにか? この聖剣なるモンを受け取っちまったからには、教会の言いなりになるっつう決まりでもあるのかい」
いかん。この言い方はよくねぇか。ちぃとばかし俺も周りに釣られて動揺してるらしい。
「すまん。つい気が立っちまった」
「い、いえ」
「少し女房と娘と話してからだ。なにもすべて隠しちまおうってわけじゃねぇ。だが、いかんせんガキの話だろ。キッチリ聞いてみてからじゃねぇと、こっちも安心して喋らせらんねぇよ」
「……承知しました」
「我らもつい動転してしまい、申し訳ありません」
つうわけで、未だに俺を指差してバカ笑いをつづけるベリルを小脇に抱えて、この場をあとにした。
もちろん将軍閣下にも、この場の報告はまだ控えてくれと頼んでおくのも忘れてない。
◇
ベリルには話させず、ヒスイには俺から事情をかいつまんで伝えた。この方がダラダラ話すよりよっぽど早ぇからな。
で、返ってきた最初のひと言は、
「あらまあ素敵っ。アセーロさんにお似合いの聖剣ですこと」
だとよ。
鞘に収まったままの、つまりはゴッツい金棒を見てそう褒められちまった。喜べばいいのやら嘆いたらいいのやら。
まだときおり思い出し笑いが漏れたりするが、このころにはベリルもだいぶ大人しくなっていた。
「それでベリルちゃんは神の声を聞いたのかしら? なんと仰っていたの?」
「聞いたってゆーのとは違うんだけどー、そーゆー感じだったっつーかー……上手く言えなーい」
これがデタラメじゃねぇのは、わかる。
べつにベリルのやつを信用してる云々じゃあなく、聖剣と指輪を与えられた時分を考えたら、神様にそういう意図があっても不思議じゃねぇと思えたからだ。
「ヒスイは聖剣やら勇者やらについてなんか知ってんのか? 俺ぁ生まれてこのかた聞いたことねぇぞ」
「そういう古い言い伝えがあるのですよ」
「どんなだ?」
「やっぱし悪い魔王をやっつけちゃう的な?」
「うふふっ。魔王はべつに聖剣がなくても倒せるわよ。ママだって何体か始末しているもの」
しれっと怖いことを言いやがるな、ヒスイは。
しかしいまは置いとこう。
「で?」
「聖剣を与えられた者が勇者と呼ばれます。なにを成したかは人それぞれとしか……。わかっていないことの方が多いのです」
「ふむふむ。なーる。あれだ、あーしわかっちゃったし」
俺とヒスイは揃って首を傾げた。
「人知れず世界の危機を救うとか、そーゆーやつじゃね? つーか父ちゃんが世界をっ……ぷっ、救っ、くぷっ——ぶぅぅぅ〜、うっひゃひゃひゃひゃひゃ!」
まーたはじまった。
「どう伝えたものか困ってしまいますね」
「間違いなく、世界の危機云々は黙っとくべきだろ。そんな気配カケラもねぇんだしよ」
「そうですよね。ここは正直に、ベリルちゃんの話を伝えるしかありません」
意外だな。ヒスイはなんとしても隠す方向でいくかと思ったのに。
「あなたが勇者となれば私の名と合わさり、よりベリルちゃんへの注目を避けられます。この子がなにかをしでかしてもゴマカしが利きそうではなくて」
「なるほどな」
以前にも聖女だとかなんとかあったし、ある意味で都合いいのか。この場合、俺の都合は無視されてるんだけどよ。
「はひーはひー。いや〜父ちゃん、なんかあーしのために悪ぃねー」
いまにも吹き出しそうな顔で言われてもな。微塵も感謝されてる気がせんぞ。
それから『くれぐれも内密に』と、かなりキツめに念押ししたのち、神官殿や将軍閣下にさっきのベリルの話を伝えた。
これで悪いようにはせんでくれるだろう。
あとは知らん。
とにかく一刻も早くあったけぇ風呂に浸かって美味いメシを食いてぇ。
だから俺も、ヒスイたちとアンデッドの残党を退治してまわることにした。
※※お知らせ※※
本作『小悪魔ベリル〜うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児〜』は、
タイトルを10月末より、
『うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。』
と改めます。
タイトル変更以降も、変わらぬお付き合いをよろしくお願いします。
枝垂みかん




