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そして得たモノは②


 ラベリント伯爵はずっとダンマリで、俺らの報告を聞いている。


 ベリルがいると食ってかかりそうだから、ヒスイに預けてダークエルフたちと待機だ。

 うちの者らは、王国軍の兵らといっしょになって野営地をこさえてる最中。


 いま詳しい話をしてるのは、俺と将軍閣下、あとはラベリント伯爵の三人だけ。大急ぎで立てた天幕んなかでコソコソやってるってわけだ。


「トルトゥーガ殿と大魔導殿の二人がかりでやっととはのう。かなり多めに見積もり兵を集めてきたが……」

「正直、兵の多寡ではどうにもならない相手でした。連れてくるんなら宮廷魔道士団。それでも対処できたかどうか」


 こういうのは率直に伝えちまった方がいい。どこにも兵をムダ死にさせたい大将なんかいねぇんだから。

 しかし部外者ヅラしたヤツにとっては違ったらしい。


「誇張が過ぎるのではないかね」

「これ、ラベリント伯爵」

「いいえ将軍閣下、言わせていただきます。トルトゥーガ子爵はアンデッド騒ぎに託けて、我が領の財を奪ったのであろう。その証拠を始末するために、街を集落を焼き払ったのだ!」


 ああ、いまなんとくわかった。こういう感覚か。

 稀にヒスイやベリルがみせる、冷徹な目つき。

 あれがどういう心境からくるもんなのか、いま理解できた。どうすりゃあコイツが一番苦しめられんのか、それを淡々と考えちまうって頭になんのも頷ける気分だ。


「——な、なんだねその目はっ⁉︎」

「暴言がすぎるぞ。控えるのだ、ラベリント伯爵」

「ですが!」

「ワシは控えろと言っておる。わからんのか?」

「はっ。失礼しました」


 俺は冷静なつもりだった。

 だってのに怒りが口を突いちまう。


「正直なところ死にかけました。いや、生き残ることはけっこう早い段階から諦めてました。娘だけでも逃そうってそればっかりで……。なぁアンタも見ただろう? 消し炭になっちまった街を。あれを片手間に(こな)す魔道士が——大魔導と恐れられる手練れが放った本気の魔法ですら、どうにもならなかったんだぞ。そんな相手を前にした俺らの恐怖……、テメェにカケラでも教えてやろうか」

「——待たれよ。トルトゥーガ殿も抑えるのだ。憤る気持ちもわかる。しかしの、いまはそれを言ってるときではないのも、わかっておろう。のっ、のっ」


 言っててだんだんと加熱していった。いや燻ってたイラつきが表に出ちまったんだな。

 ポルタシオ将軍が言うことは尤もだが、納得もいかねぇ。


 だがこれは俺のワガママだ。この場でやるべきことは別にある。身体張ったゴーブレのためにも、ムチャしたベリルのためにも、な。


「信じる信じねぇはそっちの勝手だ。証拠が見てぇってんなら、もう一丁テメェの領地に大穴こさえてやってもいい。グダグダとゴネ得狙ってんなら、こっちも容赦しねぇぞ」

「だからの、トルトゥーガ殿よ」

「——わかってます。アンデッド探索の範囲は、さっき示したとおりで。あとの復興云々に関しちゃあ手を引かせてもらう。こっちは急ぎ慌てて出てきて、支度も足りとらんのですから」

「ふむぅ……。やむを得んかの」


 ガキみたいで申し訳ありませんね。

 だがな、こっちはさっさと次の話に移りてぇんだ。

 ガマンして将軍閣下の都合に合わせたんだから、こっから先も付き合ってもらうぞ。


「おうラベリント伯爵閣下さんよぉ」

「な、なんだね。その口の利き方は……」

「そりゃあ契約違反があった客に対してだ。こうもなるだろう。んで、うちが貸してたモン返してもらおうか? ォオン?」


 まだ「契約違反だと⁉︎」なーんて言い返す余裕は残ってるらしい。


「いったい魔道歯車をどう使った? アンタぁ惚けてたが、こっちが把握してんのは攻略済みの場所を壁ブチ抜いて繋げちまうって話までだ。それならこんな惨事にはならんよな。おおかた管理もできん最奥まで掘ってって、厄介なモン掘り起こしちまったんじゃねぇのか」

「……け、契約に、使用についての報告は含まれていないはずでは?」

「なら耳揃えて返せや。ほれ、いますぐだ」

「いますぐは……ムリだ」


 さすがにもう盗みがどうだのと難癖はつけてこねぇか。

 なんとなくは想像つく。つうか誰が考えても最深部をゴリゴリ掘るのに使ったのは明らかだ。

 どうせ魔道歯車は回収できずに、いまもダンジョンの奥に転がってるに決まってらぁな。たぶんブッ壊れて。

 実はゴーブレたちを引き留めたのも敢えてで、本当のところは追加の欲求だけじゃなく、破損がバレるのをゴマカすためだったのかもしれん。


 が、俺ぁべつに、コイツの事情なんかに興味はねぇ。


「すぐには返せない。が、領地が落ち着き次第すぐに。というよりまだ契約期間は残っておるではないか!」

「まだカネを受け取ってねぇんだが」

「……クッ」

「迷惑料含めて、さっさと出せや」

「ま、待っては、もらえないだろうか」


 当然いまは銅貨一枚でも出したくねぇよな。

 領地の復興、っつうよりもコイツのやり方なら、ダンジョン探索に回せるガキどもを揃えるところからやり直さなきゃあならん。そこに注ぎ込みてぇんだろ。

 その場しのぎなんぞ付き合ってやるもんか。


「寝言ほざいてんじゃねぇよ。火事場泥棒呼ばわりまでしといて、そりゃあねぇだろ。いますぐ名誉云々を名目に決闘吹っかけてやってもいいんだぞ」

「…………」

「チッ。払えねぇってんならこっちで勝手に見繕う。文句はねぇな」

「ダンジョン……いや、領地を奪うつもりか?」

「んなもんいるか。もっと別のモンだよ。だが安心しろ。金銭での支払いだけは勘弁してやる」

「……残っている物でなら、構わん」


 よし、言質は取れた。これで残ってるコイツの財産はうちのモンってこったな。どれもほぼ消し炭だが、うちが欲しいモノ(・・)は無事だ。


 こっちの話が済んだとみるや、こんどは将軍閣下が口火を切る。


「ところでラベリント伯爵よ。今回の王国軍派遣にかかった費用諸々、支払いはのちほどでよいからの」


 しれっと請求するところが、エゲツねぇ。


「え、その、しかし——」

「これは魔物が引き起こした災害ではなかろう。聞く限り、伯爵自らが招いてしまった人災ではないか。だとすれば領主が責を負うのは貴族として当然であろうて」

「そ、それを払ってしまったら、復興後にダンジョン攻略ができなくなってしまう!」

「いやいやラベリント伯爵よ。今回の騒動で、卿はそれどころではない立場だとわかっておるかのう?」

「…………」

「早いうちに差し出せるモノを差し出したうえで、助成を申し出ることを勧めるぞ。各地の被害が出揃ったあとからでは王国も援助に乗り出せんと思うでの」


 ポルタシオ将軍、ダンジョンを取り上げちまうつもりだな。ヘタすりゃあ爵位も返上させようって、左大臣殿と話ついてんじゃねぇか。

 それもしかたなしかもな。これだけの騒ぎを起こしたんだからよ。


 対処が早く済んで被害はそれほどでもねぇのが唯一の救いか。

 もしアレが自由に歩き回ってたらと思うとここいら周辺は、それどころか王国は……。ちっと想像したくねぇや。


「なにとぞ、ご助力を……」


 ガックリ項垂れるラベリント伯爵を残して、俺と将軍は天幕をあとにした。

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