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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第四章

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迷宮から放たれた災い⑦


 駆け上がれば、ダンジョン手前の集落まではすぐだった。

 歩いて降ってったから実際のところ大して距離は稼げてなかったらしい。


 で、到着早々に焦げた地面からも追加のアンデッドどものお出迎え。

 ダンジョンから出てきたばっかりの新鮮な腐れ肉の他にも、欠けた部分を土塊で補ったヤツや獣の部位を取り込んだヤツまでいて、よりどりみどり。


 種類は豊富だが、やるこたぁ変わらん。


 ——飛びかかってきたアンデッドの顔面を斧槍の穂先で穿つ、と同時に捻る。すると汚く頭部を散らして倒れ伏した。

 ——直後、後ろから迫るヤツには鼻頭に石突をくれてやる。

 ——三体四体と一気にきたら、斧部でまとめて頭半分を刈る。

 ——孤を描く流れに逆らわず、腰を切って後ろ回し蹴り。

 ——クルッと柄を回して、こんどは鉤部で引っ掛けたアンデッドを後続に投げつけやった。


 一連の動作で十体は削ってく。


 いま俺は一人。しかも生き物相手じゃあねぇ。だったら叫んでの威嚇は不要だ。

 淡々とムダなく最適な動きで、腐れ肉どもの頭を潰してくだけ。


 そうやってズンズンと突き進んでった。

 そしたら、


「おいおいおい、ここまでたぁ聞いてねぇぞ」


 さっそくヤベェと噂の、アンデッドの王とやらとご対面だ。


 統制取れてんのか操り人形なのか、周りの雑魚アンデッドは道を譲ってた。いや後ろに回りこんで退路を塞いだつもりか?

 ヒスイの方に向かってないようだから、どっちでもいい。


 問題はコイツだ。

 この腐れ肉の親玉も他のと同様、元はヒトだったんだろう佇まい。

 だってのに華奢なガワとはエライ違いで、感じる魔力の凶悪さは肌がピリピリしちまうほど。

 本能が必ず滅すべき敵だと知らせてくる。同時に、いますぐ逃げちまえとも。


 窪んだ眼窩とか歯が剥き出しとか骨に皮が張りついただけだとか、そんな容貌の問題じゃねぇ。

 ヒトが山にケンカ売るようなもんだろ、これ。いや、それ以上か……。


「似合わねぇローブ着てんなぁ。ェエ!」


 ブルッちまいそうな己を鼓舞するため、野郎は聞いちゃいねぇだろうが、煽るだけ煽ってみる。

 するとヤツの口——っつうか歯だけしかないが——は、まったく動いてないのに、


大鬼種(オーガ)。否、ヒトとの混血か。なんとケッタイな。我が永き眠りについているあいだに、斯様なモノが生まれていたとは……』


 声が聞こえた。

 なにも耳で捉えたわけじゃあない。直接頭んなかに文字を書き込まれて読まされた、そんな不気味な声を聞かされた。

 その声音は不快極まりねぇ。


 こんなバケモンは真っ向からやり合っちゃならねぇ。遠くから囲んで幾日もかけて、魔法でチマチマ削ってやるのが常道だ。


 とはいえ尻尾巻いて逃げられる状況でもねぇやな。


「オメェの事情は知るかってんだ——」


 不意を突いて最短距離を走らせた斧槍。

 その穂先はヤツをしっかり捉えたはず——なのにスカした。いや当たっただろ⁉︎

 なのにどうしたって手応えがねぇ。なんなんだコイツ⁇


『フッ。我はここに有りてここに居ぬ。貴様如きが触れるも叶わぬ存在よ』


 こんの骸骨野郎、ずいぶんと時代がかったセリフで煽りくれんじゃねぇかよ。

 しかもなんだ、その勘に触る鼻笑いは。テメェは鼻なんかねぇだろ。生白いツラに穴が二つ空いてるだけだろうが。


『ほう。ヒトの身で、稚拙ながらも魔法の武具を作り上げたのか。面白い。見せてみよ』


 お喋りなんかムシして、いくつか攻撃を放ってみても、やっぱり効いた気がせん。


『その程度の玩具では我には届かぬぞ』


 その程度だぁあ? うちのバカ息子と問題幼児がこさえたモンだぞ——嘗めんなや、ゴラァアアアー!


 つづけてガンガン攻撃を加えてく。吠える代わりに斧槍の連撃をお見舞いしてやった。

 だってのに、いなされたって感覚じゃあなく、霞でも叩いてるかのような手応えのなさ。いったい全体どうなってんだ⁇


「まさか幻か……」


 思わず口を口を突いた可能性を、


『フッ』


 鼻で笑われた。


『我は()()の魂を討つため、この身を不死した存在。生者如きが扱えるチカラなぞで、どうこうなりはせぬ』


 さらに、


『……して、満足はしたか?』


 とうとう攻勢にでるって宣言までされちまったぞ。余裕ぶりやがって、こんちくしょうめ。攻めるときは黙って攻めろってんだ。


 だが、こっちに打つ手がないのも事実。

 とはいえ俺の役目は時間稼ぎだ。あと少しのあいだ、転げまわってでもコイツの時を奪ってやればいいだけ。


 しかしあろうことか、ヤツはこっちの意気込みなんか知らん顔で、


『む』


 唐突に、俺の後ろへ意識を向けた。

 そう見えただけだ。骸骨ヅラの表情なんて読めんし、目ん玉んとこと空っぽだからな。


 しかし、んなこたぁ些事も些事。

 ——あんのバカたれ‼︎


「父ちゃぁぁぁーん!」


 よりにもよってベリルが、俺の切り開いた道を魔導トライクで突っ走ってきやがったんだ。

 当然、遮ろうとアンデッドどもが立ちはだかる。

 が、そんなもんお構いなしに、


「傘〝バリヤー〟」


 矢尻のように防御魔法で掻き分けて——っておいアホッ、こっち突っ込んでくんな!

 慌てる俺のギリギリ手前で、魔導トライクのケツ振って急停止。そして一言。


「ひひっ。来ちゃった」


 だからバリヤーだかなんだか知らんが、防御魔法張ったまま寄ってくんなっ。俺が先にやられっちまうわ。

 んなことより、いまは!


「テメッ勝手に戻ってきやがって、なに考えやがんだ!」

「いやいや、これマジ無敵モードだし」


 余裕ブッこいてんじゃねぇよ。どこが無敵だ。

 間抜けに晒してるベリルの背後から——


「ひえっ、ゾンビィイイイー!」


 言わんこっちゃない。

 うちの娘に迫った不届きなアンデッドの頭部を、ズンッと石突で突き飛ばしてやる。


「後ろがガラ空きだ、ボケ」

「あーびっくりした——って、うっひゃー! あれがゾンビのボス? めっちゃホネホネじゃーん。つーか怖っ。逃げよっ。早く父ちゃん掴まってー」


 と言うや否や、ベリルは来た道を引き返す。俺ぁまだどこにも掴まってねぇんだがっ。

 ええいくっそ。

 とりあえず頑丈そうなトライク後部に穂先を突き立てた。


「——ちょぉおおお〜‼︎ ちょっとマジ、なにあーしの愛車にキズつけてくれちゃってんのさぁぁぁー!」

「うっせ、いいから走らせとけ! あのヤベェのが追ってくんぞ‼︎」


 つうかあの野郎、俺らを見逃したのか?

 余裕こいてんのか呆気にとられたのかは知らんが、黙って見過ごしてくれたのは助かった。


 そう思った直後、



『…………見つけた』



 ものすげぇ怨念めいた声が頭に響く。


「はあー? あのホネホネゾンビがなんか言ってんだけどぉぉぉー」

『不快な気配を辿ってみれば……。いたか。憎っくき外つ世の魂よ。とうとう見つけたぞ。生者の理から外れ、魔に身をやつしてまで手にしたこのチカラで、積年の恨み……晴らしてくれるわ』

「あーしぃぃ、そんなん知らねーしぃぃぃー! 人違いでぇぇぇーす!」

『戯言は聞かぬ』


 ぐんぐん離れていってるのに間近で話されてるみてぇな声がして、頭が参っちまいそうだ。


 支えは刺した槍の柄を掴んでるだけ。身体が後ろへ引っぱられるような浮遊感のなか、どんどんヒスイんところへと近づいていく。


 ここで、ベリルはバリヤーを解いた。


 それが大失敗。

 もう立ち塞がるヤツがいないからっつう判断だろうが、さっきまでは倒したアンデッドの残骸は残ってて、それに——


「…………あっ」


 という間に前輪を取られ、


「うぉいベリル! テメッ油断すんなやぁあああー‼︎」

「うっっっひゃあああぁぁぁあああぁぁ〜ぁっ!」


 俺らは宙へと放り出されちまった。

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