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迷宮から放たれた災い⑥


 幸い、帰り道は下り坂。


「魔導三輪車(トライク)は俺が担ぐ。ゴーブレは荷台を引け。ヒスイは周囲の警戒と先導だ」


 もちろん銅貨と箱は置いていく。

 そのぶん空いたところへ、ベリルとチビたちを乗せてやった。


「あーしは?」

「荷台で寝ちまえ。オメェが回復したら、一気に離脱できんだろ。この場に留まるのも落ち着かねぇから少しでも距離を稼いでおく。すまんが寝心地についての文句は聞いてやれねぇぞ」


 大量のお荷物お守りしながらヤベェのと対峙なんて、真っ平ごめんだぜ。

 つうわけで、俺らはすぐにダンジョン手前の集落をたった。


 山道を降っていく。

 行きみたいな勢いはなくて歩きだから、進みはゆっくりだ。焦ってる自覚もあって余計にそう感じた。


「せっかくだしダンジョン見ときたかったかもー」

「頼むから寝言は寝てからほざいてくれ」


 気づかんかったこととはいえ、こんなちんまいベリルにムリさせちまった。チッ。情けねぇ親父だぜ。


「はーい。おやすみー」


 と言った途端、ベリルはスピースピー寝息をたてはじめた。


 逆に、同じく荷台にのるチビどもはこわばったまんま。

 さんざん怖ぇ思いしたせいだろう。

 顔にはありあり疲労が表れてる。だってのに休もうとせず、ただ膝を抱えて震えるのみ。とくに兄貴を探してたチビがひでぇツラで、居た堪れねぇ。


「ヒスイ、コイツらなんとか寝かしつけてやってくんねぇか。警戒は代わるからよ」

「ええ。背後へも注意が必要ですが」

「前にも横にも気ぃ払っとけってんだろ」

「あと、地面へも」

「わかった」


 それからヒスイはチビ一人一人に「もう大丈夫よ」と話しかけていった。


「ねむたいのに、ねむくないの……」

「まあ。それは大変ね。目を閉じるのが怖いのかしら?」

「……こわい」

「あらあら。あなたよりも小さなベリルちゃんは、もうあんなにグッスリお休みしているわよ」

「うん」

「あたちよりちっちゃいこなのに」

「おねーさん。このこ、こわくないの?」

「うふふっ。それはそうよ。こんなに大きくて強そうな鬼さんたちが守ってくれているんですもの」

「そっか……。えへへっ」

「では、ゆっくり眠れるおまじないをかけてあげましょう。目は閉じなくてもいいわよ」


「「「はーい」」」


「ふふっ。いい子たちね。ゆっくりとお休みなさい。〝誘眠(スリープ)〟」


 コテンコテンとチビどもは寝こけてた。

 なんだヒスイのやつ、結局は魔法でカタつけやがったんか。

 それでも寝かせて休ませないと身体が保ちそうになかったんだろうな。ついでに回復魔法をかけてってるくれぇだ。

 コイツら起きたら、まずはなんか食わせてやらねぇとか……。


「ゴーブレ。これで少し揺れても起きることはないわ。急ぎましょう」

「へい。奥様っ」


 そっから少し早足に。


 このまま逃げ切れる。

 そう思ったのは、来た道の半ばよりかなり手前。まだ振り返ればダンジョン前の集落が遠目に見えるあたり。


 だがそこで——


 背筋をゾクリとさせられる悍ましい魔力が、突き抜けた。


 チビどもは寝入ったまま。


 しかし、


「————ふぁ、ふぇ⁇ いまのなに?」


 ベリルは過敏に反応した。


「めっちゃゾクッてしたし。ゴーブレ早く逃げて! あーしら足止めすっからっ」

「——おうコラ寝惚けんのも大概にしろ! テメェも逃げるんだよ。ヒスイ、コイツら頼む」

「アセーロさん、相手が悪いわ。あなた一人ではムリよ」


 反論が口を突きそうになるが、ヒスイがそう言うんならそうなんだろう。


「大きな魔法を使います。アセーロさんはそのあいだ、私を守ってくださいまし。ゴーブレ、あなたはベリルちゃんを守りなさい」


 そうと決まれば、俺は荷台から下ろした魔導トライクに有無を言わさずベリルを乗せ替えて、その背を強めに押してやる。

 すると、わぁわぁ文句たれ残して小せぇ後ろ姿は遠のいていった。


「ゴーブレ、行け」

「——しかし旦那っ」

「もうベリルが先行っちまってんだろうが。それに、テメェが身体張って助けたチビどもまで巻き添えにするつもりか! オラ——さっさと行きやがれ‼︎」


 ケツを蹴っ飛ばしてやってやっと、ゴーブレは動いた。


「旦那っ、奥様っ、すいやせん。小悪魔殿とコイツら安全なとこに届けたら、必ず戻りやすんで!」

「バーカ、戻る前に俺らがカタつけちまうに決まってんだろ。いいから急げってんだ」


 チビどもを乗せた荷台を引っぱってくゴーブレを見送って、視線を山側へ。


 まだ姿は現さんが、凶悪そうな魔力がビンビン伝わってくる。

 位置は探るまでもねぇ。さっきの集落より山手側にあるダンジョンの入り口だ。そこにとんでもなく凶悪な気配がある。

 端っから仕留めるつもりでやらねぇと、足止めすらできなさそうだ。


「ヒスイ、どう攻める?」

「アンデッドの恐ろしい顔を見たいとも思いませんので、初手から全力でいこうかと」

「わかった。いくつだ?」

「六〇〇ほど時を稼いでいただければ」


 しれっと酷なこと言ってくれんじゃねぇか。


 親玉が現れたってんで、またうじゃうじゃ雑魚アンデッド湧いてきてんぞ。

 ダンジョンから溢れてきてんのも合わせると……ああ゛ったく数えんのも面倒なほどだ。


 ヒスイがブチカマすのは、きっと野郎の住処を丸ごと消し飛ばしちまうくれぇの大規模魔法。

 てぇこたぁガッと突出してバンバン暴れてアンデッドの人気者になったら、サッと退いちまえばいい。

 そうすりゃあ、魔法でまとめて始末しちまえる。


 ちぃと勘定が甘い気もするが、そんな弱気はどっかへうっちゃる。


 ペロッと唇の渇きを癒し、細い呼吸を二つ。

 全身に魔力を漲らせたら、一切のポカをせんよう極限まで集中を高めた。


 よし。こっから六〇〇のあいだ、俺の周りで起こることはぜんぶ見える。読める。対処できる。


 準備が整うと、俺は降ってきた道を全速力で駆け上がった。

 うじゃうじゃデロデロこっちに向かってくる有象無象の腐れ肉どもを、片っ端から地面のシミにしてやる!

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