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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第四章

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扱いに困る客⑦


 こってり接客の稽古をしたあと、コハクとメノウのダークエルフ二人組は、ヒスイと話があるそうなんで先にうちへ行ってもらった。


 で、ベリルは晩メシまでのあいだノウロと打ち合わせ。俺はこっちの付き添いだ。

 ガキなのに忙しいやつだと呆れたが、よくよく考えてみたら、こういうせっかちなところはある意味でガキっぽいのかもしれん。


 さっそくサストロの作業場に押しかけて、ノウロに例の品を披露した。


「ほう。シャツですか」


 見たまんまの感想。つまり、この時点では取り立てて興味を引けてねぇってことか。


 裏っ返したり、縫製を確かめてみたり。言っちゃあ悪いが、はじめてノウロがまともな商人に見えた。

 そんで目利きが済むと、


「困りました。購買層が読めませんな」


 言うほど困ってねぇ表情をみせた。むしろ面白がってるような顔つきだ。


「ワル商人なら、このシャツいくらつける?」

「仕立て職人サストロが手掛けた品で、意匠は簡素ですが作りは秀逸。しかも襟周りに見慣れない工夫も見られる……」

「それだけ?」

「いえ、他にもボタンは魔導ギアと同じ素材でしょうか? 美しく丈夫なのはもちろん、話題性のある素材に贅沢さを感じます。また、無地の生地に濁りのある黄色味がかったボタンは、襟元や袖口を映えて装飾にもなっていますね」

「ひひっ。でー、ハウマーッチ?」

「ハウマ、チ?」

「いくらって聞いてんのっ」


 ここでノウロの目は宙を彷徨う。頭んなかであれこれ計算してるんだろう。

 そうやって出した金額は——


「大銀貨三枚が相当かと」

「おおーう。サストロさんの見立てとおんなじー。ワル商人やっるーう」


 ノウロは『褒められてもちっとも喜べない』そんななんとも言えない顔を見せる。


「もしさーあ、これが十分の一の銀貨三枚なら、売れる?」

「——そういうことですか‼︎ ぜひ私に扱わせてください!」


 ベリルのやつ、いちいちドヤッと勝ち誇ったツラを向けてきやがって。そんなに嬉しいんなら素直に喜んでみせりゃあいいもんを。


「しかし、そこまで値を下げてしまっても大丈夫なのでしょうか? かなり生産者に負担をかけるかと」

「普通ならねー。つーかアンタがそれ言っちゃーう? こないだまで綿花の買い占めしてた悪党のくせに〜っ。うりうりー」

「こ、小悪魔会長。その件につきましては、以前手打ちになさってくれたではありませんか」

「ええー、そーだっけー?」

「そんなご無体なぁ……」

「うそうそ。冗談だってばー。ワル商人はちゃーんと反省したんもんねー」

「はい。このノウロ、ワル商人の名に恥じぬよう今後は真っ当な商いしかいたしません」


 ってな茶番を挟んで、また商売の話に戻る。


「作り方の詳しいとこは、企業秘密ってやつで。でも売りになりそーなポイントだけ伝えとくとー、まずサストロさんがパターン引いたってことでしょー、あとなんか他ある?」

「王妃様や王女様に装飾品を献上された稀代の意匠家ベリル・デ・トルトゥーガ自らが手掛けられた品という大事な点を忘れておりますよ」

「ちょ……え、いやマジそーゆーのいーし。なんか照れるし。やめてくんなーい」

「いいえ、やめません。謙遜なされますが小悪魔会長、いち商人としては、この話題性を外して品の良さを語ることはできません」


 とノウロの口上がはじまり、延々とウンチクを垂れてく。つうか止まる気配がない。


「——つまり! 身幅や襟のカタチ一つとっても一級品なのです。この一着をより多くの方に、日常的に袖を通してもらいたい。肩肘張らぬさりげない優美さを楽しんでほしい。そんな想いから、幼くして名を馳せた稀代の意匠家ベリル・デ・トルトゥーガと熟練の名仕立て職人サストロが手を取り合うことで、世に送り出された究極のシャツ。そう、これは特別であり平素を両立させた至高の一枚なのです!」


 ここでようやく「あーうん。もーいーや、それで」と、ベリルはうんざり感と小っ恥ずかしさに項垂れつつも了承した。


 ………つうか長ぇよ。


 とはいえある意味でベリルが言い負かされたんか。ノウロのやつ、思ってたよりやるな。



 ノウロの商魂にはメラメラとあっつい火がついちまったようで、


「これは未開拓の層まで取り込めますよ。そして既存の富裕層を相手にしていた仕立て屋を駆逐できます!」


 ってな具合に、サストロを掴まえて根掘り葉掘り質問責め。

 だから晩メシに誘うつもりだったけど、もう知らんと置いてきた。


「たっだいまー」

「ベリルちゃん、おかえり。あなたも、おかえりなさい」

「おう、ただいま」


 家に帰ると、もうヒスイたちの話は終わったのか、ダークエルフ三人仲良く茶ぁしつつまったりしてたようだ。


「「トルトゥーガ様、お邪魔しています」」


「おうおう、そんな堅苦しいのいらねぇよ。今日は疲れたろ。なんもねぇ家だがゆっくりしていってくれ」


 ありきたりな挨拶のあと、ヒスイに『メシは?』と目で問う。すると意外な答えが返ってきた。


「ベリルちゃんにお願いしようかと思いまして」


 いいのか? ベリルの魔法は、同胞のダークエルフ相手でも隠してきただろうに。


「この娘たちには、すでに事情を伝えてあります。そろそろ、ベリルちゃんのことをゴマカすのにも人手が必要になりそうなので。もちろんこの娘たちに限ってのことで、秘密は絶対に守らせます」

「ヒスイがそう言うなら構わんが」


「「——ぜ、絶対です!」」


 そこにはもう、昼間に見た販売の稽古にマジメに取り組むダークエルフの姿はなかった。未知の魔法への渇望に焦がれ、フンフン鼻息荒くした知恵の亡者がいるのみ。


「はいはーい! あーしの本気、見しちゃるし」


 つうわけで、家電魔法のお披露目も兼ねてベリルがメシの支度することになった。


「父ちゃんウェイターさんねー。あーしシェフだし」


 給仕しろってか? 俺に? いちおう俺、領主なんだけど。


「ママのトモダチがお客さんなんだから、おもてなしすんの当然じゃーん。早くオシャレな服に着替えてきてっ」


 店員ごっこの次は料理屋ごっこか。ったく。


「あらまあ。アセーロさんに給仕してもらえるなんて、うふふっ、楽しみです」

「ハァ〜……ったく。ちっと待ってろ」

「そこは『少々お待ちください』だし」


 どうでもいいがよ、これ、俺がメシにありつくのはいつになるんだ?

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