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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第四章

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扱いに困る客⑤


 メシのあと、なんでか俺も販売員研修会とやらに参加させられるハメに……。


 以前ヒスイと接客術の話をしたとき、ポロッと口にしちまった『こんど俺にもやってもらうかねぇ』っつう痛恨の失言をベリルが聞きつけて、客役にと呼ばれちまったんだ。


 参加者は、五名。

 講師にベリル、客役に俺、あとはダークエルフ二人とノウロが受講生。


「ロープレの前にー、アンテナショップで困ったこととかそーゆー報告から聞かしてー。兄ちゃんに言えないこととかあるかもだし」


 開店してからもイエーロからはマメな報告を受けていた。

 一見、品物が足らん以外の問題はなさそうなんだが、文面から『なぁんか隠してんじゃねぇか』っつう気配は感じてたんだ。


 こいつぁ都合がいいと、俺も耳を傾ける。


「接客する間もなく売れていくので……」

「陳列などもしてみたいんですけど、工夫して並べる間もありません」


 ずいぶんと贅沢な悩みだ。


「あっ、一つだけありました」

「ああ、あれね」

「なーにー?」

「実は一度、不具合がある品がありまして。その際の対応で……」


 そんなもん取り替える品は残ってねぇだろうし、詫びてカネ返すしかねぇだろ。

 にしてはヘコんでるような顔してんのは、なぜだ? くどくど文句でも言われたか? ダークエルフに? ちっと想像つかんな。


「ふーむふむ。不良品でクレームかー。それはこっちでも対策考えるとしてっ、んで、どーやって接客したの?」

「教えられたとおりお仕事用のニッコリ笑顔で『なにか苦情ですか?』と対応しました」

「なのに、クロームァちゃんにすごく怒られてしまって……」


 そのさまが目に浮かぶぜ。

 不良品つかまされた客からしたら、おっかねぇダークエルフが『うちの品に文句つけてんじゃねぇぞゴラ!』って脅してきてるように映っちまったんだな。

 本人たちに悪気がねぇのはわかるけど、そりゃあマズいだろ。


「うんうん。なーる。で、クロームァちゃんからはなんて?」

「今後、苦情などがあれば自分かイエーロ様にと」


 まっ、そうなるわな。


「そっかー。つーかワル商人ならどー対応するー?」

「——わ、私ですか⁉︎」


 ノウロは慌てふためく。

 ただでもダークエルフと同席して居心地悪ぃのに、急に話ぃ振られたら堪らんよな。

 しかし商人の矜持でもって己を奮い立たせたんだ。


 声の調子を確かめるように「ええー」と喉を鳴らすと、思うところを口にしていく。


「お客様の過失がない前提ですが、品物の交換が可能でしたらそうします。品がなければ返金いたしますね」

「そーなっちゃうかー。つーか父ちゃん」


 こんどは俺かっ。


「もし、このお客さんの立場だったらどーお?」

「どう思うか聞いてんだよな。そうだなぁ……、武具なら生命を預けるモンなわけで、しれっと対応されたらイラつくかもしれん」

「それが、ママにプレゼントするために買ったアクセだったらー?」

「……⁇ どうもせんだろ。交換してもらえりゃあいい。なければ諦めて別のモンにする」


 と、当たり前の答えを返したのに、ベリルは偉っそうに「ちっちっちっ」と指を振る。


「コハクちゃん、お買い物がプレゼントの場合ってどーしてる?」

「贈り物用の布袋に入れ、リボンを結びます。クロームァちゃんが来てからは、そうするよう言われてますので」

「ってゆー状況なら問題なーい?」


 ちっと想像してみる。

 買ったらその場で包んでくれると……。


「そのまんま渡すより、開ける楽しみが増えるかもな」

「そーそーそのとーり」

「なるほど! そういう理由があったのですね」

「たしかにその方が贈られた方も喜ぶと思います」


 感心するダークエルフを他所に、ノウロは『そのくらい知ってた』って様子。


 袋に包んで飾りまでつける利点は理解できる。

 だが、まだ答えになってない。

 …………。

 ああ、そういうことか。


「開けるまで不良品かどうかわからんな」

「そゆことー。もしママにプレゼントして微妙なの出てきたら、父ちゃんどーお?」

「んな場面、想像したくもねぇ」

「でっしょー。たぶんこれ、お客さんが一番キレるパターンね。自分のモノよりプレゼントの方が気ぃ使うし」


 もって回った話されちまったが、おおよそベリルの言いたいことは伝わってきた。


「要は悪びれとけってことだろ」

「はーい、父ちゃん五〇てーん」

「品の受け渡しの際に、確認が必要ですね」

「そーゆー話じゃなーい。ワル商人は六五てーん。でも商品届いたら、検品ってゆーの? 売っても大丈夫か確認するのは大切かもねー。あと売る直前にも。そーそーこれ、ダブルチェックってやつ。メノウちゃーん、いまのマニュアルに入れといてー」

「はい、ベリル様」


 と、メノウは覚え書きにカリカリ記していく。


 ダークエルフっていうと危険な趣味人の印象が先立つが、案外マメでマジメなんだよな。

 じゃなきゃあ複雑な魔法についての研究や、繊細な武技を扱えるわけもねぇか。


「えっとねー、あーしが思うに『お客さんにとってはその一個だけ』って意識がないのかなって見えちゃうし」

「……と、言いますと?」


 誰よりも先に、ノウロが食いついた。

 やっぱりベテランの商人だけあって、知らん商いの概念に興味をそそられたのかもしれん。


「百個千個ってたくさん作って売ってしてたら、不良品あったり接客失敗しちゃったりもすると思う。それはしゃーない。けどさーあ、買ってくれたお客さんにとっては、判断すんのってその一個だけなわけじゃーん。そーゆー話ぃ」


 つまり、なにが言いてぇんだ?


「ふむふむたしかに。目から鱗ですな。いえ、けっして理解していなかったわけではありません。ですが小悪魔会長が仰られるのは、売る側と買う側、双方の視点を持て、そういうことでございますな?」

「……………、うん!」


 ベリルのやつ、絶対いまのわかってねぇだろ。


「いわゆるお客さま視点ってやつねー。ワル商人わかってんじゃーん。つー感じで、そーゆー意識をちょっとでも持ってたらいーし。どーゆー顔するとかそんなんじゃなくってー」


「「……はい」」


 具体的にどうせいこうせいじゃあなく、心構えから導くってのは難解なようで実は近道なのかもしれんな。


「んじゃ、具体的にどーすんのかってのを、いまからやってみよーう」


 ハァ〜……。やっぱりママゴトみてぇな店員ごっこに、付き合わなきゃあならんのか。小っ恥ずかしいったらねぇな。

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