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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第四章

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扱いに困る客④


 日が経つにつれて、うちの領内では例のシャツを着てる者が増えてってる。


 内々で売りはじめたのかとベリルに聞いてみれば、


「んーんー売ってなーい。貸してるだけだし。どのパターンにするか絞るために、みんなに試してもらってんの」


 という話。

 え、俺のぶんは? ヒスイも着てただろ。

 そう聞くと、


「なーにー、ママとお揃いのシャツ着たいとか? おアツいのもいーんだけどさーあ、もーちょい歳かんがえたらー。あーしみたいな大っきな子もいるつーのにー」


 どっからツッコんだらいいのかわからん答えが返ってきた。


「父ちゃんのはマジごめんだけど後回しー。だってデッケェんだもーん。いまサイズとかもいっしょに確かめてるとこだし」

「そうか。被るだけで着られるシャツなんてスゲェ便利じゃねぇかと思ったんだがな。まっ、そのうち俺が着られる大きさのも作ってくれ」

「まっかせといてー」


 ここで一つ、確認しておくべきことがある。

 もしかしたら以前からこの作り方を考えてたのかもしれん。だが、いろいろと時分が合いすぎてるとも感じた。


「で……、誰にやらせるつもりなんだ?」

「布の切り抜きの話?」

「ああ。なんとなく想像はつくんだがな、もしそのつもりなら俺にひと言あるべきだろ。オメェ一人でなんもかんもできるわけじゃねぇんだからよ」

「はじめのうちは、あーしとかうちで暇してる子たち集めてって考えてんだけど」

「そのあとは?」

「ひひっ」


 やっぱりか。

 やはりベリルは、孤児や奴隷にされたガキどもを集めるつもりらしい。そういうつもりなんだろうたぁ思ってたんだ。


 たしかに布に型を当てて魔力流すだけなら、ある程度教えてやればチビにでもできる。まともな仕事でテメェの食い扶持を稼げるわけだ。

 だがな……。


「メシ風呂掃除その他諸々の世話については考えてんのか? たぶん、けっこう長いこと自分ひとりじゃあなんにもできんぞ」

「なーにー、父ちゃんってば反対っぽい言い方してっけど、なにげに考えてくれてんじゃーん」

「違ぇよ。俺が心配してんのはオメェがやらかした後始末だ。見ず知らずのガキのことなんか知ったこっちゃねぇ」

「またまたー」


 実際そうだって。いままで俺はなにもしてなかっただろうが。


「誰かの手ぇ借りるにしても、俺から言った方がとおりが早ぇだろ。だからだ」

「はーい。なんかするときは報告しまーす」

「先に相談しろって言ってんだが」

「はいはーい。父ちゃんのゆーとーりしまーす」


 ったく。

 あとから嵌めるみてぇなことしなくっても、いちいち相談すりゃあいいのに。だってのにコイツはいっつも後出しする。そういう性格(タチ)の娘だと諦めついちゃあいるけどよ、今回ばっかしは他人の人生もかかわってくるんだ。


「ヘタこいて後悔すんのはオメェだぞ。それだけは絶対に忘れんな。いいか」

「わかったー」


 こんだけ口酸っぱく言っときゃあ大丈夫だろ。

 まさか、明日(みょうにち)いきなりゾロゾロとガキを連れてくるなんてトンチキな展開はあるめぇ。



 だから事前に相談しろとあれほど……。


 さすがに大人数のガキがきたわけじゃねぇ。

 来たのは、ある意味もっと扱いに困る客。


「おおーう。ママのおトモダチさーん。いらっしゃーい」


 ベリルは、王都から南方妖精種(ダークエルフ)を招いちまったんだ。

 幸いなことに集団大移動ってわけじゃなく、


「ベリル様。お初にお目にかかります。あたしはコハクと申します」

「メノウです。ベリル様、お世話になります」


 以上の二名。アンテナショップで店員をやってもらってる二人だ。


「あなたたち、方々への根回しは抜かりないわね?」


「「はい、ヒスイ様」」


 このセリフが聞けて一安心だ。


 コイツらダークエルフの厄介さは桁違い。

 隠密能力に長けていて、魔法の腕も宮廷魔道士が舌を巻くほど。さらには武術だけとってもうちの者ですら不覚を取りかねん。

 こんな連中が好き勝手に動きまわったら、誰も彼も気が気じゃない。どこそこの領主の首が飛ぶ、領地が滅ぶ、周囲にそんな不安を抱かせちまう危ねぇヤツらなんだ。


 よくもまぁそんな取り扱い注意な連中を王都の一角に住まわせてるたぁ思うが、これは一種の生存戦略なんだと。王国としては、多少のカネを注ぎ込んででも怠惰に過ごさせて安心安全を得たいってことらしい。

 テメェの懐に快適な住まいを用意してやれば、生活環境を乱すようなマネはせんだろうっつう、なんとも豪胆な考えに基づいているそうだ。


 取りこんで以降、ダークエルフが大きな問題は起こした記録は残ってねぇ。小さな問題についちゃあ数え切れんらしいが。

 もう王都に住まう者らも慣れちまって、ダークエルフをムダに怖がることはない。


 余談になるが、ベリルの小悪魔仮装(ナリ)にも王都の連中が大らかな対応だったのは、こんな経緯があったからだ。


 で、なぜそんな危険人物が二人もうちの領地に顔を出したかといえば、危険人物の筆頭(ヒスイ)に会いにきたわけじゃあなく、


「まずはゆっくりしてねー。ランチいっしょしてー、それから落ち着いたら研修はじめるし」


 先に述べたとおり、問題幼児(ベリル)が呼び出したからだ。


 これを聞かされたのは今朝。

 なんでも『そーいえば、店員さんを教育してなかったかも』という思いつきで招くことにしたんだと。


 んなもんクロームァに仕込んだんだから口伝(くちづ)てでいいじゃねぇかとも言ったんだが、悪びれず『もー向かってるころじゃね』と返されちまったら、いつもどおり相談と報告についてコンコンと言って聞かせる以上はなにもできん。

 ホント、よくヒスイが許したな。


 さらにオマケのようにもう一名。縮こまってカタカタ震えてるワル商人ことノウロだ。

 言わずと知れたベリルの資金で動かしてるワル商会の雇われ店長だ。


「ワル商人も食べてくっしょ? ひひっ。あーし仲間外れなんかしないし」

「あ、ありがとうございます」

「あーしらみたいな美人に囲まれてゴハンとか、アンタめっちゃ幸せもんじゃーん」


 ベリルの図々しい発言なんかノウロに届いちゃあいない。

 その表情は『お構いなく』と応えてるようであり、心中で『放っておいてくれ』と叫んでいるようでもあった。


 コイツ大丈夫か?

 王国が気ぃ使うほどの超危険人物と過ごす十日あまりの道中は、ほとんど御者台の上だったとはいえ、さぞ神経を削ったに違ぇねぇ。

 耳聡い商人だからこそ、一般人には知られとらんダークエルフに関する情報を聞いてるはず。となりゃあ、その心労は察するにあまるな。


「ヒスイ。なるべく胃に優しいもん出してやれ」

「あら、もうお食事の用意は済んでいるかと。ベリルちゃん、メンチカツバーガーとフライドポテトを作ると張り切っていましたもの」


 うぅわ、重たっ。脂っ濃っ。

 ここはせめて、麦茶でも出してノウロの胃を労ってやるか。


「オメェも大変だな」

「トルトゥーガ様、お気遣い痛み入ります。今回改めて、小悪魔会長の恐ろしさを実感いたしました。まさかダークエルフを呼びつけるほどとは……」


 ノウロは遠い目ぇして呟いた。


 とんだヤツと絡んじまったな、としか言えん。

 あとは『なんか、うちの娘がすまん』そう心中でつけ加えておこう。

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