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扱いに困る客①


 いくらなんでも伯爵相手に立ち話でってわけにはいかんから、ラベリント伯爵と連れの職人を会議室に通した。


「まず、技術交流会ですが」


 と、なぜ二回目から呼ばなかったのかを説明していく。

 お互いに知識や閃き、研究成果などを持ちよる場なんで、なんの発言もない者はお断りって旨を一から十まで。

 つづけて魔導歯車の貸し出し契約について、これまた事細かに話してった。


 こっちとしちゃあ二度手間だし、ワル商人(ノウロ)の野郎にも相手を見てから声をかけろと文句言いたくなる。

 とはいえ、はじめのうちはこういうこともあるだろうと丁寧に伝えたってのに、


「——この愚か者が!」


 ラベリント伯爵は激昂。

 俺らに向けてじゃあなく、わざわざ目の前で、連れてきた職人をギャンギャン叱りはじめたんだ。


 これにはベリルも見かねて「まーまー」と割って入る始末。


「このような無能をよこして申し訳なかった。では技術交流会の参加については取り下げよう」


 で、こっちが居た堪れなくなったのを見計らい、コロッと態度を変える。


「此奴、なんども詫びに向かわせたのだがな、石の道を作るトルトゥーガ子爵殿の姿に震え上がってしまい、謝罪すら果たせずおめおめ戻ってきたのだ。愚鈍なヤツだと、笑ってやってくれ」


 グダグダ饒舌に喋ってやがるが、端っからこっちの譲歩を引き出すためにやったんだ。んなこたぁわかってる。もちろんベリルだって。

 あと、どういう経緯で魔導ドリルのことを知ったのかもな。

 いったいどこで聞きつけたのかと気になってたが、単に、いまも縮こまってる気の毒な職人が見たまんまを報告したってことらしい。


 しかしいちいちやり口が気にいらん。直接ケンカ売られたわけじゃねぇのに、無性に腹が立つ。


「サブスクなる契約は理解した。手始めに十ほど用意してもらいたい」

「つーか、なんに使うのさー?」

「ほう。貴殿が『カブキ御免状』なる許しを得たというベリル嬢か。噂は耳にしている」


 一見褒めてるようでいてベリルの口ぶりを咎めてる。それを知ってか知らずか、


「あっそ。で」


 と素気なく返もんで、ラベリント伯爵はこめかみがビキビキしてらぁ。

 っとにベリルは。こういうことさせたら天才的だな。


「…………ダンジョン攻略に使うのだ。用途の説明は契約にはなかったはずだが」

「べっつにー、聞いてみただけー」

「クッ……。して?」


 意趣返しのつもりだろう。


「ん? なんの話? なんか『して』ほしーん? してだけじゃわかんねーしー」

「魔導歯車を十、いますぐ用意できるのかと聞いている!」

「まだ貸すって言ってませーん」


 あぁあぁムダに煽りやがってからに。

 ベリルのやつ、相当イラついてんだな。


 気持ちはわかるが、ここまでやって手ぶらで返したら角が立ちすぎちまう。


「かなりの手間がかかる品なんで、用意できても三つですかね」

「なんだ、そんなものなのか。では代わりに、道作りで使ったという掘削の道具でよい」


 これでラベリント伯爵がなにしようとしてるのかはわかった。


「へえー。穴掘ってダンジョンを楽に進もーってことかー」

「さてな」

「それでゴマカしてるつもりなーん?」

「ベリル。もうそんくらいにしとけ。申し訳ありませんが、貸し出しできるのは魔導歯車のみです。破損紛失などには相当な罰則があるんで、そのあたりに問題がなければ、さきほど申し上げたとおり三つでしたら貸し出し契約できますが?」

「フンッ。それで構わん」


 で、カネは品を受け取ってからだとよ。

 やっぱり手ぶらで帰ってもらえばよかったかもな。



「まったくもー。なんなん、あれ」


 ずっとベリルはプンスカしてる。


「まぁ成金貴族なんて、だいたいあんなもんだ。いちいち腹立てんのもバカらしい」

「つーか、なんで魔導歯車貸してあげたのさー」

「オメェが煽りすぎたからだ。断って帰すんなら、その旨だけ伝えて終いにせんとケンカ売ったみてぇになんだろうが」

「でもー」

「言いてぇことはわかる。あの職人が不憫だったんだろ。だがな、義憤をぶつけてもなんの解決にもならんぞ。そんくれぇオメェにもわかんだろ」

「…………ふーんだ」


 不貞腐れやがって。

 まっ、たまにガキらしい面をみせてくんのも悪かぁねぇな。


「それよか、ダンジョンについて知ってるような口ぶりだったよな。どうなんだ?」


 なんとなく空気を変えたくて話を持ち出してみたんだが、


「——やっぱあんの! ダンジョン!」


 初めて喋ったときばりの食いつき。さっきまでのイライラなんかスッ飛んじまったみてぇだ。


「オメェが想像してんのと同じかはわからんが、入り組んだ通路に魔物がわんさか居る場所を差してんなら、あるぞ」

「おおーう。そっかそっかー。冒険者しゃんとかいるくらいだから、絶対あると思ってたんだよねー。てゆーか、王都で吟遊詩人さんが歌ってたし」


 そういやそうだったな。


「んでー、さっきの迷宮オジサンは、バリバリ攻略とかしちゃってる感じなん? あんましそーゆーふーには見えなかったけどー」


 迷宮オジサンって……。なんだか響きが如何わしく感じんのは気のせいか?


「ラベリント伯爵自身はダンジョンには潜らんそうだぞ」


 と、どんなヤツなのか話していく。

 

 領地の広さ自体はうちと大差ない。しかも地主あがりの成り上がり者。そのへんは俺にとってはどうでもいい。

 じゃあどうやって出世したかといえば、野郎が『迷宮伯』なんて呼ばれることにも起因する。

 権利を持ってた土地に、たまたまダンジョンの入り口が見つかったんだ。で、そこで得た財を献上していって、いまの地位を与えられたらしい。


「冒険者しゃんをたくさん雇ったとか?」


 あえて避けたんだが、やっぱりそこは気になるよな。


「なに聞いても怒らねぇって約束できるか?」

「できるっ」


 ホントかよ。

 不安は残るが、他所で耳にして暴走されるよりはマシか。


「俺も聞いた話だから、どこまで本当かは知らんが」


 と前置きして、ラベリント伯爵の黒い噂を教えてやる。

 すると案の定だ。


「はぁあああ〜‼︎ マジ許せねーしっ」


 ベリルのやつ火ぃついちまって、


「父ちゃん!」


 ほれ、まーたはじまった。


「いますぐドレイ解放運動しなくっちゃ」

「——するか、ボケ」

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